第22話 執行者の責務


「逃げた......? いや、統率が消えていない。組織的な撤退と見るべきか」


 偉大なる主より預かりし軍の後方、私は街へ引っ込んでいく敵軍を見て、重い吐息を漏らしていた。


 攻勢はなんとか成功、しかし先方部隊は全滅......。

 帝国軍の展開が思っていたよりも早く、余計な損害が出てしまった。空間移動を使った奇襲は有効だが、さすがに魔力を消費するな。


 これだけ大規模になれば人間の機械にも探知される。存外、万能というわけではなさそうだ。


「キマイラ中隊、突撃態勢を維持しつつ待機しろ。本隊と同時に中央を一点突破する」


 理性も何も持たない生物に、組織的行動をとらせるのは本当に疲れる。執行者へ与えられた権限を最大限活用するのには、慣れが必要だな。


 魔導野戦砲も前進させなければ......、この際、億劫おっくうだが都市砲撃も徹底するべきだろう。


 これも我らが主の意向、裏切り者とその協力者を徹底的に粉砕し、アスガルが執行者としての責務を果たす......。


 そう、ヤツら人類は――――"殲滅すべき悪の権化"なのだから。


 ――アスガル軍 テオドール方面強襲梯団指揮官 執行者ベルセリオン。


※ ※ ※


【キマイラ】

ライオンの頭と山羊の胴体、毒蛇の尻尾を持った神話生物。

歩兵用の5.56ミリ弾では、致命傷を与えるに至らなかった。

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