第21話 最終防護射撃
『目標、正面【ドレイクロード】群!! 中隊効力射――――撃てッ!!!』
そこは、考えていた通りの、想像を超えた現場だった。
像のような長砲身の自走砲が火を吹き、大音量の発射音を轟かせる。
『前方集団へ命中!! 同一諸元、弾幕開始!!』
『修正完了! 重迫撃砲、弾幕斉射始め!!』
視界を埋めるのは、半月状に展開する友軍旅団と、豪雨のような砲弾を受けて尚(なお)迫ってくる怪物群の影。
双眼鏡を覗けば地平線がうごめいているようにすら見えるそれは、化物と執行兵の混成軍。間違いない、アスガルだ。
街に隣接した高台へ設置されたCP《コマンドポスト》に到着した俺達は、その戦闘をリアルタイムで観測し、逐次ラインメタル少佐へ報告を入れる。
今この前線指揮所は、船乗りが大シケに遭遇したも同然の怒号がひしめき合い、各部隊長が死にものぐるいに動く前線ど真ん中と化していた。
『ドレイクロード健在!! 第1警戒線突破されました!!』
『砲兵隊は後方の執行兵へ照準修正、戦車中隊は射撃を開始せよ!』
帝国陸軍の主力戦車16両が、大きく突き出した120ミリ戦車砲からAPFSDS(
装甲を貫くことに特化した徹甲弾は、榴弾すら弾いたドレイクロード数体を正面から粉砕。貫通した弾が後続集団の一部を巻き込んで粉塵を上げた。
――が......。
『敵軍団止まりません! 穴埋めするように控えのドレイクロードが前面へ進出! 後続の盾になっています!!』
「アスガルめ......! 物量でゴリ押す気か。第1対戦車ミサイル台へ通信! 攻撃始めッ!!」
空気を切裂くようなロケット推進音が一斉に響く。
固定式ランチャーや、装甲車のハッチから撃ち出された数十機のミサイルは戦場を走り、戦車砲に続いてレクトルを穿つ。
距離があるためか、着弾音は目視してから一瞬遅れて耳を叩く。
『全弾命中! ドレイクロード、キマイラ級、執行兵部隊に損傷あり』
しかしそれでも数が多すぎた、ミサイルでは圧倒的に制圧力不足。すぐ横で旅団長が顔をしかめるほどに、まるで減った感覚がしない。
『目標、第2ラインの河川へ到達! 動きが鈍りました!!』
「ここで減らすぞ! 砲兵、及び戦車中隊は全力射撃! FV(装甲戦闘車)中隊と第2対戦車ミサイル台にも通達、攻撃開始」
グランソフィアの傍を流れるその川は、帝国軍の絶対防衛線だ。
ここを通せばどうなるかは想像に難くない、だからこそ使い尽くす勢いで火力を投射する。
渡河により進軍に遅れが出た敵は、半包囲するように展開した旅団の大地をひっくり返さんばかりの猛撃に晒され、見る見るうちに残骸と化す。
最も効率的に叩き込めるよう計算された火力は、古くから伝わる包囲撃滅のそれ。
奇襲を受けて尚これだけの戦闘が行えるのは、練度も然り後方の存在だろう。
我々が後方と前線を隔てる......最後の壁なのだという意志を、この場の全員が抱いているからこそ逃げ出さないのだ。
「凄まじい物量だな......、ミハイル連邦でも相手してる気分だよ」
黒煙を切って再び現れた敵の軍勢に、旅団長が嘆息した。
「
「ああ、せめてもう1段階後方へ退ければ、勝利も見込めるのだがな......」
街ならまだ再建も可能だ、しかし国民だけは絶対に守らねばならない。後退先に民間人が残っているのだからジレンマもいいところ。
死守命令という最終手段すら覚悟したその時、ラインメタル少佐から入った通信は、救済に等しかった。
『こちらレーヴァテイン01 全市民の避難が完了、繰り返す、全市民の避難完了。現在街は大聖堂を除いてもぬけの殻である』
旅団長の目つきが変わる。
庇護対象が戦闘地域から離れたということは、すなわち、継戦する新たなフィールドができたに等しいのだ。
「全隊に告ぐ! これより遅滞戦闘を行いながら、グランソフィア郊外まで撤退する! アスガルから国民を......君たちの家族を守るのだ!!!」
※ ※ ※
【APFSDS(装弾筒付翼安定徹甲弾そうだんとうつきよくあんていてっこうだん》)】
戦車が撃つ徹甲弾、矢のようなかたちをしている。
【最終防護射撃】
敵の突撃を粉砕する手段の1つ、突破されれば白兵戦待ったなしなので、撃てるものは何でも撃つ。それはもう必死に。
(自衛隊ではこれを"
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