〜世界樹ダンジョン攻略〜

第49話 滅亡せし世界


「驚いたな......、てっきり根っこでできているかと思ってたが」


 世界樹ダンジョン 地下1F。

 そこは大木の下と思えぬ広大な空間が広がり、遺跡のような人工物で満たされていた。


「世界樹は異世界とを繋ぐポータルだ、既に我々は別の空間へ入っている。この神殿もその1つと見ていい」


「では暇があればサンプルを持ち帰ろう、技術研究本部の連中に渡せば解析できるやもしれん」


 ウェポンライトで最低限視界は確保できているが、いつなにが襲ってくるか分からない。安全を考慮して見渡しの良い通路を大隊は慎重に進んでいる。

 正面をサブマシンガンが掻き分け、フルオートショットガンが側面からカバー。


 ベルセリオンの先導でゆっくりと、確実に進む。


「......素朴な疑問なんですが、もしここから出られなかったら、私たちどうなるんですかね?」


 ベルセリオンに随行するナスタチウム中尉が呟いた。

 余計なおしゃべりをするなと思ったが、しかし気になることでもあった。

 誰もが物音を立てずに聞き入るのは、気になっている証左だろう。


「簡単な話だ、元いた世界へは永遠に戻れん。ずーっと闇を彷徨うことになる」


「「「「「ッ!?!?」」」」」


 驚いた拍子に装備が音を上げる。

 ライトに裂かれた空間だけが視認できる世界、取り残される想像をしただけでも空恐ろしい。


「そう怯えなくていいぞ、世界樹が完全に潰れる時に我々が中にいればの話だ。コアを爆破して外に出てから攻撃すれば問題あるまい」


 脅かしてくれる......。だが恐怖により警戒度の上がった大隊は、50メートルほど離れた建造物からこちらを見る"なにか"を発見した。


「クキャキャキャキャキャキャキャキャッ!!」


 ライトに照らされたおぞましくこだます声の主は、生命体のそれとは認識し難い痩せ細った体躯。四つん這いの人間にも見えるが、あれを人と見た日にはいよいよ闇の世界の住人だ。


 あれは味方じゃない、なればこそ取る行動はたった1つ――――


「撃てッ!! 撃てえッ!!!」


 暗闇に曳光弾が瞬く、不気味な笑い声が繋がるような射撃音にかき消され、怪物は肉の塊へ、遺跡は粉微塵に砕け散った。

 前衛が沈黙したそれへ静かに近づき、銃口を向けながら半長靴はんちょうかで軽く蹴る。


「クリア!」


 生物なのだろうが血は出ていない、本当に生き物か......?


「やはり"ゾンビ"か、これは厄介な世界と繋がったな」


「ゾンビ? これがか?」


 ライトに映るむくろはおぞましく、血を抜いたミイラのようだった。


「そうだ、こいつらは世界樹の養分にされた異世界の住人、その成れの果てだ」


「別世界の生き物を養分に......!? つまりじゃあこの世界は――――」


「アスガルによって蹂躙された後だ、神界へ取り込まれし世界を土壌に、世界樹は次の養分を求める。この暗黒に満ちた世界は......お前たちの世界の前に犠牲となっている」


 最高の害悪とはまさにこのことだろう、次元規模のイナゴなぞ聞いたことがない。

 神界アスガル......、想像以上のくそったれぶりに吐き気をもよおしそうだ。


「つまり、この遺跡はゾンビだらけという認識で良いのかな?」


 周囲を見渡していたラインメタル少佐が、今必要な要点のみをまとめる。


「ああ、そうなるな。ついでに言えばあの銃声はマズかったと言える」


「――――そのようだね」


 悪寒が全身をなでる。

 遺跡を包み込む黒一色の空間に、ポツポツと赤い点が浮かんだ。点はゆらめき、たゆたうように"近づいてくる"。


 仲間の死を、同胞の無念を、滅亡せし世界の住人は決して看過しない。


「大隊総員、魔導ブーストの無制限使用を許可する。真っ直ぐ突っ切るぞ、闇の世界の住人になりたくないなら絶対に遅れるな」


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