第50話 強行突破


 大きな街1つ分はあろう遺跡群、天気の良い日ならぜひ観光したいと思うような情景でしょうが、生憎我々は立ち止まって写真を撮る時間すら許されていないのです。


「走れ!! とにかく突っ切れ!!」


「右からも来てるぞ! ショットガンで蜂の巣にしてやれ!!!」


 飛び散る火花、激しい発射炎マズルフラッシュに照らされる通路、全速で駆ける我々に、ゾンビは四方八方から襲撃を行う。


「正面を塞がれてる! 中尉、ベルセリオン、道を作れ!!」


「「了解!」」


 前衛を務めるナスタチウム中尉とベルセリオンが、突っ込んでくる数体のゾンビに猛烈な斉射を浴びせた。

 近距離での戦闘を想定したサブマシンガンは、空間ごと9ミリパラベラム弾で埋めるように弾幕を張る。


 意思を喰われた肉の人形が全身を引き千切られた。残骸を踏み越え、大隊はとにかく前へ進む。


「がきぃきゅあああああっッ!!!!」


 叫びにも嘆きにも聞こえるゾンビの奇声、闇の世界にこだます悲哀を、フルオートショットガンの乾き切った発砲音が掻き消す。

 毎分300発を誇る12ゲージ散弾は敵を豆腐のように引き裂き、あっという間に無機物へと変えた。


 だがゾンビの数は全く減らない、ショットガン部隊の側面を高速で通ろうとする敵を、サイドアームの9ミリ拳銃で撃ち抜いた辺りで俺はゾンビの行動に疑問を抱く。


 こいつらは誰を狙っている? 本気で俺たちを攻撃するなら既に負傷者が出ていたっておかしくない。

 この物量の目指す先、それは突出した前衛、闇に溶けるような黒髪を持った神。


 ――――まさか!


「ベルセリオン!! 下がれ!!!」


 俺はすぐさま叫ぶ、こいつらはアスガルに......執行者によって滅ぼされた世界の住人。仇を目の前にして狙わない道理はない!


「ベルセリオン! 横!!」


「ッ!!?」


 闇から飛び出してきたゾンビは、弾幕をかいくぐってベルセリオンへ接近、鋭利な爪が彼女の頭をえぐり切ろうと振られた瞬間――――


「悪いね、お預けだ」


 ゾンビの腕が吹き飛ぶ、そこでは、ラインメタル大隊長がわかっていたと言わんばかりに50口径マグナムを向けていたのだ。


「滅亡の民よ、君らの心中はお察しするが、帝国の邪魔は慎んでもらいたい」


 立て続けに響いた重い銃撃音。少佐の愛銃は、ゾンビの頭をなんのためらいもなく吹き飛ばしていた。


「カバー」


 阿吽の呼吸で俺とナスタチウム中尉が割り込み、波状で飛び出てきたゾンビをCQCで薙ぎ倒す。

 弾の節約も兼ね、ナイフに魔力を通して一気に斬り伏せた。


「すまない、助けられた。次の階層はこの先直線の『クリスタルポータル』から入れる。長居は危険だ」


「もっともだね、じゃあ久しぶりに本気で走るとしよう」


「「「「「!?!?」」」」」


 ラインメタル少佐の魔導適合率は、言わずもがな大隊トップ。訓練であの人の全力に付いて行ける者は帝国にいないと噂されているほどだ。


「しょ......少佐、ここでですか?」


 ナスタチウム中尉までドギマギしている。


「このままではジリ貧になって包囲されかねないからね、では大隊各員、徹甲弾にでもなったと思って全力突破しようじゃないか」


 我々部下にできるのは、敵をふっ飛ばしながら理不尽バンザイと叫ぶことのみ。

 それでもやれと言われればやる、それが軍人というものだ!


「フラッシュマイン!!」


 軽く上へ投げられたそれは、15メートル以内に強烈な閃光と爆音を放つ非致死傷兵器。

 おそらくゾンビはこの暗闇で視力が大幅に退化している、装備の音や銃声に反応したところを見ると、補っている器官は耳。


 瞳を紅く染め、大隊は床を蹴る。

 20メートル後方――――、群がるゾンビのど真ん中でコンカッショングレネードは炸裂。心臓麻痺を起こすとすら言われる爆音が遺跡を叩き、敵の聴力を完全に奪ったのだ。


「ガギャアアアアアアアアアァァァァァァッッッ!?!?!?」


 ドンピシャ、連中のエコーロケーションは完全に麻痺しただろう。勢いそのままに、レーヴァテイン大隊は車にも匹敵する速度で一直線に前進、やがて目の前に水晶らしき物体が映る。

 ――あれか。


「全員水晶に飛び込め! 次の階層へ進むぞ!!」


 ベルセリオンの魔力に反応した水晶は水色に輝き、ガラスのように次の世界を映し出す。

 ここまで来ればあとはまま、俺たちは闇の世界を抜け出すべく、水晶へ飛び込んだ。


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