第51話 もう一つの世界線
水晶へ飛び込んだ315大隊は、さきほどまでいた闇の世界から無事脱出に成功した。
次はどのような世界が待っているのか、心構えをしていたはずだった。
だが広がった光景と、脳へ響くような音声は事前の覚悟を簡単に蹴散らす。
『グリム公国が隣国へ越境を――――』『冒険者の募集が行われており――』『魔法学院が論文を――――』
天空を走る回廊、モニターのように宙へ浮いた窓が、全く別の光景を映し出していた。
「これはまた......、妙な場所に着いたな」
「ええ、まるであの世にでも来た気分ですよ」
装填作業を行うナスタチウム中尉は、半信半疑といった様子である。
「ここは世界と世界の狭間だ、ユグドラシルが根を下ろすのに適した星はここに映される」
つまりここがユグドラシルの中枢というわけか。
『海自の横須賀地方総監部は、護衛艦きりしま、てるづきを南シナ海で米英艦隊との共同演習に――――』
近世以前のファンタジーな街並みが多い中、傍に浮いているモニターに映ったこの世界は俺たちの時代に近いな。
「あっ、ここ見覚えあります。確か秋津国に同じ造りの軍港がありましたよ」
「パラレルワールドというやつだね、見た目は同じでも、我々の世界とは大きく異なっているようだ」
少佐の指差す映像は、繰り広げられる人間同士の戦争。不毛な砂漠にテロリストが闊歩し、東南の海上では人工島とおぼしき場所の近くでミサイル発射演習をする艦隊。
極東に目をやれば、秋津に似た列島に隣接する半島で上陸演習が行なわれている。
「アスガルに襲われなくとも、結局我々は戦っていたのかもしれないな」
共通の敵が現れなかった世界線、現状は味方である連邦と戦争寸前だっただけに、この光景は背筋が凍る。
「――奥に進むぞ、コアはこの回廊の先だ」
大隊は歩を進める。様々な世界を俺たちは見つめながら、我々は自らの世界を想った。
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