第52話 世界樹に住みし者


「この先の角に魔力反応がある、大きさからして執行兵だろう」


 苗木のコアを爆破すべく回廊を進んだはいいが、その終着点たる行き止まりには、巨大な館がそびえていた。

 ベルセリオンいわくここもコアへの入り口らしいが、入ってみれば一部を除いてごく普通の建物。


 装飾品から部屋配置までおかしな点はなく、唯一上げるとすれば執行兵が巡回していることぐらいだろう。

 ただ、言ってしまえばそれだけだった。


「合図で撃て――――3、2、1......,今ッ」


 銃口を覆う消音器サイレンサーによって減音されたピストルで、門の前に立つ2体の執行兵の頭を撃ち抜く。

 館の警備もされてはいるが脆弱そのもの、数丁しかないサイレンサー付きハンドガンだが、幽霊のように浸透するのに不便はない。


「クリア」


 先頭をこまわりの効くハンドガン、すぐ後ろからショットガンとサブマシンガンが援護で付く。


「ここにきて隠密ですか、さっきまでの戦闘が嘘のようですね」


 ナスタチウム中尉が小声を出す。


「だがある意味助かった。あんなペースで撃っていたら弾がもたない、ここは慎重に進もう」


 ベルセリオンのコローナには予備マガジンが34本入っているが、正直言って撃ちすぎた。

 館内では極力サイレンサー付きピストルで敵を排除し、確実に進もう。


 鎧の飾られたエリアを抜け、長廊下に差し掛かる。

 そこで、またもベルセリオンは俺たちを静止、2体の執行兵の位置を教えてくれた。


 角から銃口を出す。

 ドットサイトの中央に敵の頭部を合わせ、静かに発砲。


 ――――プシュップシュッ――――


 射撃とは思えぬ音が狭い範囲に鳴り渡る、通路の制圧を確認してから前進。

 執行兵の死亡を確認した俺は、ふと同様に転がる敵の武器へ目が映った。


「いまさらだが、連中の武器はこの魔法弾発射機マジックライフルだったよな? 俺たちに使えないのか?」


 自動小銃を上回る全長のそれは、銃というより杖のようだ。


「分からん、魔力があれば扱えるはずだが、お前たちは銃の方が戦いやすいんじゃないか?」


「もっともだが、とりあえず1本だけでも鹵獲しておこう」


 銃弾が底を尽きた際の保険......、魔法銃は見た目よりずっと軽く、背負っても重量を感じない。


「引き金は無い、魔力を預けてから発射するイメージを浮かべるんだ。そうすれば弾が出る」


 おそらくこれは、魔装化した我々でもなければ使うことのできない代物なのだろう。

 再びピストルを構え直し、警戒心を緩めず廊下を突破。


 高級ホテルのホールにも似たエリアに達すると、これまでとは明らかに違う物体が眼前に現れた。


「なんですか......? これ」


 星のような模様をした金色の巨大な球体、よく見れば浮遊しており、ゆっくりと回転している。

 まさか......これが。


「やっと着いたな、あの球体がユグドラシルの苗木、そのコアだ。ここを破壊すれば神壁は喪失する」


 どこか神々しい、この世のものとは思えぬ物体に思わず見惚れていると、俺の肩に手が置かれた。


「爆薬の準備だ大尉、生憎と我々はこの素晴らしい建造物を木っ端微塵にせねばならないことを忘れてはならない」


 正気に戻される。

 一瞬でも目を奪われてしまった事実を消すように爆薬展開を指示、輝く世界樹のコアは、あっという間に爆薬で飾られた。


 あとはコードリールを引き伸ばして点火、速やかに地上へ脱出するだけだった――――


 だが、順調だったミッションはここで障害にぶつかった。


 これまで館を支配していた不自然なまでの静けさが破られ、耳を塞ぎたくなる鐘の音が響いたのだ。


「ッ!! 総員構え!」


 大隊は一斉に全包囲を警戒、ゾンビか、執行兵か。

 迎撃を行おうとした我々はしかし、真上から見下ろす不気味な影に気づく。


「コキュルルルルルルルルアアアア!!!!!」


 外見を形容するならば、"ニワトリ"。

 甲高い鳴き声を朝に放ち、タマゴを生むあれだ。特徴を言うならば重なっている部分はそれだけ。


 巨大な羽をばたつかせながら着地したニワトリは、どこか竜にも似た容姿で、吹き出した魔力は"執行者"と同等のそれ。


 壁や天井が霧のように消え去り、天空に包まれる。強張るベルセリオンを見れば、あれがいかにヤバイかが察せる。


「あれはヴィゾーヴニルだッ! 世界樹に住みし執行獣、全員死ぬ気でヤツを攻撃しろ!! 下手をすれば......ここで全滅するぞッ!!!」


 世界樹ダンジョン 0F――――天空の間。

 執行者すら畏怖する化物こそ、苗木を守る守護者であった。

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