〜神との戦争〜 帝国軍が本気を出したようです

第29話 VSワイバーン級

「ゴグアアアアアァァァッッ!!!」

　燃え上がる石畳、吹き付ける熱風を回避し、3次元機動に近い動きで、薙ぎ払われた火炎を全員が涼しい表情で避けた。

　全く素晴らしい練度だ、数で勝る我々に面制圧攻撃をするのは妥当な判断だが、315大隊相手では付け入る隙を与えるだけ。

「目標正面ワイバーン!　グレネード斉射――――撃てッ!!!」

　統率された2個魔装化中隊の放った40ミリグレネードは、爆炎で埋めるように炸裂すると、さながら効力射とでも言うべき爆発を起こした。

「ギュアァッッ!?」

　効いたか!?　だがそれでは足りんだろう?　もっと食わせてやるぞ。

　波状で、軽機関銃（ライトマシンガン）、重機関銃（ヘビーマシンガン）を使った集中射を追加。ここまで食らってまだ生きているとは存外、神だの支配者（レクトル）だの呼ばれるだけある。

「前菜はおしまいだ、ナスタチウム中尉!　突撃発起用意!!」

「了解ッ!」

　大地を蹴る。

　後衛連中に掩護させながら、ライトマシンガンを手にワイバーンへ突撃。

　無謀に無謀を重ねた無茶なやり方だ、人間相手なら間違いなく死ぬ。

　メインディッシュを叩き込む相手が、銃を持てない化物であることに感謝しよう。

「ウオオオォォォォッッ!!!」

　豪腕と尻尾の連撃をいなし、甲殻の剥がれた腕部に銃弾を撃ち込むと、続けざまにワイバーンの足元へ攻撃手榴弾をお見舞いする。

「ガギャァッッ!?」

　足を吹っ飛ばされ、頭（こうべ）を垂れるようにひざまづいた敵の両肩へ、俺とナスタチウム中尉が飛び乗ると、外殻が落ちてあらわになったうなじへ銃口を突き付けた。

「「――――チェックメイト」」

　柔らかい肉を裂き、両側から喉をぶち抜いたのは鉛の料理とも言える銃弾。

　マズルフラッシュが激しく瞬く、弾帯が高速で銃に吸い込まれ、エジェクションポートから薬莢（やっきょう）が次々と吐き出される。

　くたばれ、肉となり消え失せろッ!　この弾丸が貴様の食う最後の食事だ!!

　断末魔の叫びを上げるワイバーンが死にものぐるいで暴れるも、それらは全て無駄な抵抗。

　腕を撃たれ、引き剥がすこともできない哀れなトカゲに妥協無き痛撃を加え続ける。

　150発以上あった弾倉（マガジン）の中身が空になった瞬間、ワイバーンは遂にその巨体を地へ落とした。

「バカなッ!?　生身の人間がワイバーンを!」

　驚嘆するベルセリオン、しかし、こちらへよそ見をした一瞬をテオは見逃さなかった。

「はあああぁぁッ!!」

　振られたグランドクロスの一撃を、ベルセリオンはすんででガードすると大きく後退した。ここまでだろう、勝敗は決したと言って良い。

　死骸から降り、再びアサルトライフルへ持ち替えた俺は銃口をベルセリオンへ指向した。

「執行者へ告げる!　武器を捨て、投降しなければこの場で銃殺する!　投降すればネーデル陸戦条約に従い、捕虜としての待遇を――――」

　私情では今すぐにでも目の前の執行者を排除してやりたい、だが悲しきかな、残念ながら我が軍はとにかく情報を欲している。

　とどのつまりこれは、"職務によりせざるをえない対応"なのだ。

　現に、状況はこちらが圧倒的に優勢。315大隊の精鋭20名から銃口を向けられ、逃げられるわけもなし。これ以上戦って味方に犠牲が出るなら公私は分けるべきだ。

　だからだろう、我々は完全に忘却していた。

「ククッ......フフフ、人間如きが神に両手を上げろだと......?　ハハハハッ!　猿もジョークが言える程度には進化したというわけだ!!」

　この自称神が。

「主よ、灼熱の世界より来たれ、遥か海の果て――」

　人類浄化を信念とする執行者だということを――。

「撃ち方始め!!　繰り返す!　撃ち方始めッ!!!」

　なればこそ躊躇（ためら）わない、音速を超えて発射されるライフル弾を俺は容赦なしに撃ち放つよう命じた。

　弾幕は全弾が命中する......筈だった、だったと過去形で言わなければならないのは、銃弾は1発残らず"炎の壁"に遮られたからだ。

「哀れな子羊を傲慢と欲望から救済すべく、地獄の業火を与えられん――」

　炎の中から現れたのは、漆黒だった髪を紅く火の粉で飾り、冗談のような魔力で武装した少女。

「『神装・ムスペルヘイム』」

　少女は消える......否、消えたように見えるレベルの速度で俺へ肉薄していた。

「なッ!?」

　魔導ブースト全開!!　体へ負荷が掛かる基準の出力で起動し直ちに回避。

　飛び退く間際、炎剣に掠ったであろう銃剣の先端部が消滅していた。

　ああ、クソったれ......、長物を振り回すだけかと思っていたがこいつは――。

「エルド、これはちょっと......ヤバイかも」

　れっきとした神の力を持っているというのか。

※　※　※

【効力射（こうりょくしゃ）】

敵の近くにこれでもかというくらい砲弾をぶち込むこと。撃て撃て魂の権化である。

【攻撃手榴弾】

破片ではなく、爆発の威力でダメージを与える手榴弾。効果範囲は狭い。