第42話 市街地攻略戦


 本日の夜空は大変綺麗です。眩く散りばめられた星星に、平和を祈る方もさぞ多いでしょう。


「2時の方向! 武装したオークが多数接近!! 射撃しろ!」


「頭部と脚を狙え! 5.56ミリでも十分通用する!」


 だが彼らは知らない、同じ星空の下で、火薬の匂いを纏った人間がライフルを撃ち続けていることを。この瞬間も平和と戦場を隔てる軍隊かべに守られていることを。


「オーク沈黙! 続いて執行兵部隊来ます! 数40!!」


『機動力で翻弄しろ!! 孤立した集団を叩きながら前進するぞ!!』


 夜襲を仕掛けた315魔装化機動大隊は、カーラグラード市内を縦横無尽に駆け回っていた。

 各中隊ごとに追撃してくる敵を引きずり回し、アサルトライフルの猛射を浴びせる。


 既に3桁のレクトルを葬ってはいるものの、市街地戦の脅威も同時に味わっていた。


「こちら第3中隊! ストリート奥、高層ビルから魔導砲によって釘付けにされてる! 掩護求む!」


 そう、グランソフィアで我々が行っていたゲリラ戦を、今度はこちらがモロに受けていた。

 奇襲効果と機動力でなんとか拮抗しているが、やられると面倒くさいことこの上ない!


「目視した! こちらで処理する」


 ビル影から俺達第2中隊が飛び出し、アサルトライフルと軽機関銃ライトマシンガンで制圧射撃。曳光弾が無数の弾痕を叩き付けた。

 ベランダから突き出た魔導砲を牽制する間に、ロケットランチャーがプローブを伸ばし、照準を合わせる。


「発射ッ!!」


 甲高い推進音はすぐさま弾着によってかき消された。反対側まで爆発が突き抜け、魔導砲も一瞬で沈黙する。

 民間人が避難済みなのが幸いした、おかげで遠慮なく火砲を撃ち込めるのだから。


「大尉、砲は破壊しましたが、まだ相当数がビルに潜んでいるかと。対空砲が残っていても厄介です」


「だろうな、どう料理するか......」


 鉄筋コンクリートのビルを倒壊させる火力はさすがに無い、攻めあぐねていた俺達だが、ふと肩を叩かれる。


「お困りねエルド、助けに来たわよ!」


 それは鈴のように透き通った美しい声、腰まで伸びた銀髪を揺らす女神だった。色白い手には、なぜか壊れた筈の《グランドクロス》が握られている。


「テオか、だがさすがに要塞化されたビルを単独で制圧は無茶だぞ。面倒だが中隊全員で――――」


「誰がテオ・エクシリアだけに行かせると言った、そっちは対空陣地の破壊を優先してくれ。ビルの攻略は私達に任せろ」


 テオの後ろから出てきたのはベルセリオン。

 サブマシンガンを手にした彼女は、容姿も相まってどこか戦場に似つかぬ違和感がある。


「お前、剣はどうした?」


「グランドクロスのことか? それならこのあいだテオにやった、武器が無いことをジークに行ったらこれを貸してくれたんで使ってる」


 ああ、それでテオが剣を持っていると。


「扱えるのか?」


 薬室へ弾丸を入れるベルセリオン。


「一応はな、それと試したところ、《コローナ》にはライフルの弾倉マガジンが30本(計900発分)以上収納できた。今私が使ってるのは9ミリパラベラムとかいうらしいが、同様に弾倉マガジンを30本入れてるから、弾には困らん」


 神器と銃器の組み合わせか、末恐ろしい......。レーヴァテイン大隊の火力が上がるわけだ。


「なら任せる、なにかあればすぐに退け」


「了解、エルドも気をつけて」


 ビルへ侵入する2人を見送った辺りで、通信が鳴る。


『こちらアルバレス、新手です。スケルトンメイジ級が多数接近、火力支援が目的のようです。注意......いや違うッ! "オーガ"です!! アスガル軍陣地よりオーガが召喚されています!!』


「なッ!?」


 広場の方向、メインストリートより次々と起き上がってきたその物体は、建物にして3階建てはあろう大きさをした怪異。

 しかも極めつけはその武装だった。


『こちらナスタチウム、信じられません、あいつら手に対空砲持ってますよ......』


《2連装魔導対空砲》。アスガルの持つ防空兵器として知られ、弾は恐らく魔力。あれに輸送機や軽装甲車が破壊されたと報告もある。


『連邦軍空挺師団にとってもあれは脅威だろう。武装オーガ級を最優先撃破目標に指定、ロケット砲で迎え撃つぞ』

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