第46話 出現


「具合はどうだ?」


 ――カーラグラード簡易野戦病院内。

 天幕に上を遮られたベッドに横たわるテオに、体調を聞く。


 カーラグラードを占領していたレクトルは、連邦軍空挺部隊に完全撃滅され、数時間前には奪還宣言がされた。

 だが神装を使ったテオの魔力は予想を遥かに超えた量が消費され、彼女は実質行動不能となってしまった。


「とにかく体がダルい......、やっぱ神装って負荷大きいのね」


「そのようだな、しかしもう戦いは終わった。午後には帝国軍の輸送ヘリが迎えにくる。それまでゆっくりしてろ」


 テオはまぶたを閉じると、「そうするわ」と掛け布団をかぶる。

 普段からは想像できないほど弱ってるな......、なんにせよ、戦いが長引かなくて良かった。


「お疲れ様です大尉、彼女の調子はどうです?」


 入り口からアルバレス中尉が入室。

 彼の狙撃には随分と助けられた、スケルトンメイジの部隊を早期に撃墜したのも中尉だ。


「ああ、今眠ったところだ。それより連邦軍の様子はどうなっている?」


「クレーターと化した広場に青ざめてたくらいです、連邦も最初から自分たちでAGM(空対地ミサイル)を使えば良かったと痛感したでしょうね」


「違いないな」


 軽い談笑。

 部隊に目立った損害もなく、憎き連邦にこっそり鬱憤うっぷんを晴らせたのだ。

 気だって少しは緩むもの、そんな俺達のいる部屋へベルセリオンが入ってきた。


「エルド、話したいことがある。大丈夫か?」


 どうしたと言う間もなく、彼女は俺の腕を華奢な手でつかむと、グイグイ引っ張ってきた。


「おいおいなんだ急に! ああ中尉、すまんがテオに付いてやってくれ」


「了解しました」


 連邦の拠点でテオを1人にはできない、頼れる同僚にその場を任すと、俺はベルセリオンに連れられてラインメタル少佐のいる部屋へ連れて来られた。


「......? どうしたんですか少佐?」


 一体なんの用件だろう、戦闘はもう終わった。

 あとの処理は連邦に任せて撤退するだけの筈。


「テオ君の容態は?」


 珍しく少佐が重々しく口を開いた。


「魔力切れで当面動けそうにありません、神装は強力ですが、運用にはリスクも伴うでしょう」


「そうか」と口にする少佐は、どこか憂いを持っているようだった。


「エルド、お前たちが交戦したというオーガ級。どこから来たものだ?」


「......スケルトンメイジによって広場から召喚されたと聞いている、それがどうした」


 部屋の空気がのしかかるように重くなる。


「エルド、1つ言うとスケルトンメイジ級如きに召喚魔法は使えない。いや、執行者ですら遠距離空間移動で精一杯なんだ」


「なっ、使えないだと......? それじゃあオーガはどこから!? そもそもこの星にレクトルを召喚したのはアスガルだろう!?」


 わけがわからん、ベルセリオンは何が言いたい? 答えを求める俺は彼女を睨んだ。


「エルド、ジーク......どうやら我々は一足遅かったようだ」


 ベルセリオンが歯を食いしばると同時、それは訪れた――――。

 大地の鳴動、街全体が揺さぶられ、装飾品が音を立てて落下する中、カーラグラードにサイレンが鳴り響いた。


『中央広場を突き破って巨大な木が出現!! 繰り返します! 超巨大な木が出現しました!! 全長は......100メートル以上!!!』


 冗談かと思うような通信、それでも外の慌しさを見れば一目瞭然だった。


「レーヴァテイン大隊は直ちにポイントA2へ集合! 戦闘態勢へ移行するぞ」


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