第13話 グランソフィア


 時刻19:30 テオドール帝国領グランソフィア。


「もうダメ〜......エルド疲れたー」


 賑やかな中央通りのベンチ、サイドテールの銀髪を見目よく纏めたテオが、ダルそうに腰を掛けた。


「休憩する時間なんて無いぞ、一刻も早くこの食料を大隊駐屯地へ届け、夕飯後の中隊長会議に間に合わせるんだからな」


 執行兵による浸透強襲を退け、315大隊は無事グランソフィアへ辿り着いた。ひとまず情報を国防省へ送ったラインメタル少佐は、詳細をまとめるため隊長クラスによる会議を策定した。


 適度につまめるものが欲しいと大隊長から言われ、こうして補給任務に従事しているわけだが、呑気というか豪胆な方だとつくづく思う。


「良いじゃないちょっとくらい休憩したってー、ご飯食べたばっかで体重いのよ」


「なら命令するまでだ、行くぞ」


「神である私に命令!? プフッ、エルドったら寝ぼけないでよね」


「いいや残念ながら正気だ、我が国はお前を神でなく、人権を尊重される"一人間"として扱っている。准士官級のお前に俺は命令する権限があるし、神かどうかは関係ない。行くぞ」


 ゴネるテオを引っ張るようにして歩みを再開した矢先、黒装束の集団が執り行う街頭演説に俺達は出くわした。どこかの新興宗教だろうか。


「神は使者を送りたもうた! 我ら敬虔けいけんなる信徒はその意思に従い、甘んじて浄化を受け入れようではないか!! 武力による解決を主は望んでいないのである!」


 ああクソ......最悪だ、言論の自由をどうこう言うつもりは無いが、俺にとっては呪詛に近い言葉。

 奥底に封印していた記憶が蘇るのを感じ、足早に通り過ぎる。


「エルド......、大丈夫?」


「問題ない、早く戻るぞ」


 近道をすべく、街灯の少ない路地裏に入る。

 相変わらずダメだな、ああいうのは......。どうしても心身が拒絶反応を起こす。


 有史以来、ヤツらはどこにでもいて我々のような人間をたぶらかす。自らの思考を放棄してハッキリとしない存在にすがるなど、言語道断。

 思考の放棄は自由意思の放棄だ、100万回平和を祈って平和がくるなら、軍隊など存在しえない。


 俺がテオドール帝国軍人としてここにいる以上、つまりはそういうことだろう。


 しばらくして少し大きめの噴水広場に出た時、それは突然降り掛かった。


「エルド下がって!!!」


 軍服を引っ張られ、テオに後ろへ投げ飛ばされる。

 受け身を取ると同時、顔を上げた俺の目には全く同じ剣でつばぜり合いをする"2人の神"が映った――。


「よく気が付いたな、テオ・エクシリア。列車の時といい期待を裏切ってくれるじゃないか」


「っにしては奇襲が列車と比べて雑なのよ、魔力垂れ流しすぎじゃない? "ベルセリオン"」

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