第15話 目には目を、宣戦には宣戦を


 時刻19:00 グランソフィア駐屯地。


「――国家解体に民族浄化か......。その昔、天使が人間の軍勢16万を滅したという神話を聞いたが、まさしくそれに近いものだろうね」


 コップを片手に、一連の話を聞いたラインメタル少佐は、特に動じる様子もなく珈琲コーヒーすすりながら答えた。


「冗談じゃありません! 罪も無い人々の生殺与奪権を握るなんて、決して許されることではありません!!」


 俺の横では、エミリア・ナスタチウム中尉が拳をギリギリと握り締め、切歯扼腕せっしやくわんしていた。

 当然だ、自国にそんなことを高らかと宣言されて怒りを覚えない軍人などほぼいないだろう。


 外見こそ冷静を保ってはいるが、俺もナスタチウム中尉と同意見だ。


「ですが少佐、我が国と隣国のミハイル連邦は既に『レクトル』へ宣戦布告していますよね、今回『アスガル』という存在が判明した以上、我々はこれからどちらを敵とすればいいんでしょう」


「アルバレス中尉、そんなこと聞かずとももう決まっているだろう。アスガルとレクトル、その"両方だよ"」


 ニンマリと不気味に微笑む少佐。それはどこか、狂気を感じさせると同時に深い歓喜のようなオーラを放っていた。


「至極当たり前だよ、祖国に仇なす勢力を物理的に殲滅するのが我々軍隊だ。それがアカであれ、モンスターであれ、神であれ......」


 少佐はそこまで言うと、乾いた喉に珈琲を流し込む。


「テオ君にも聞いておきたい、我々の敵はきみの故郷や同胞となる。より本格的な戦闘にも巻き込まれるだろう、それでも君は我々人間の味方をするのかい?」


 脅しを混ぜた最終確認、テオは10秒ほど続いた沈黙を破るように答えた。


「国防省で言った通りです、私は浄化阻止のためにこの世界へ渡って来ました! 人間を......人類という存在が持つ無限の可能性を、私は信じて疑わない!」


 なるほど、そういう心情か。


 今ようやく分かった。彼女は......テオは、人間という存在に興味を抱き、その可能性に100%の好奇心を向けている。

 テオを助け、キマイラに追われていたいつかの時、制約だらけの人間の体に対して「悪くないかも」と車内で声を漏らしていたのも納得できた。


「『神』と戦うために『神』と協力する......、なんとも奇妙で不可解な関係だね。だがきみは敵情を知る唯一の存在だ、以降も、我々315レーヴァテイン大隊と行動を共にしてもらう」


 少佐は席を立つと中隊長である俺とアルバレス、ナスタチウム中尉を見た後、銀髪の少女を一瞥いちべつした。

 大隊長なりの「もう質問はないね?」という最後確認だった。


「国際的にも宣戦布告は建前として必要だ、たとえそれが相手に届かなくてもね。帝都へ報告を行う、さあ諸君......戦争の始まりだ!」


 高らかにそう宣言した少佐の瞳は、メガネの奥で狂喜が踊っているようにも見えた。


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