第38話 真意の理解
考えが甘かった......! なぜ納得できると思ってしまった! 十分に予測できた筈、なのにッ!!
エミリアがベルセリオンに決闘を挑んだ直後、俺はその場をテオとグランに任すとショッピングモールを飛び出し、息切れも関係なく駐屯地へ疾走していた。
目的はただ一つ、この事態を作った上官だ。ベルセリオンを迎え入れることにより生じる弊害を、あの方が予見できぬわけがない。
「ラインメタル少佐ッ!!!」
ノックも忘れて執務室へ飛び込む。
激しく息切れする俺を、少佐は分かっていたかのように出迎える......いや訂正、完全に分かっているようだった。
「やあ大尉、休日は楽しめたかな? ベルセリオンとナスタチウム中尉のことだろう? いずれにせよそろそろ始まる頃だと思っていた」
「ジーク・ラインメタル少佐! あなたは何を考えているんですか!? 中尉の過去を知っていれば、こうなることは分かっていた筈です!!」
グランソフィアでなぜアルバレス中尉が、テオにエミリアの過去を聞こうとしたのを制したか。
理由は至って単純、単純だからこそ最大限注意すべき問題。
彼女、エミリア・ナスタチウム中尉は、家族を街ごとレクトルに焼き払われている。
清楚な顔立ちの裏に潜む復讐心は、軍内の誰よりも強く燃えているのだ。
「もちろん知っている、だからからこそ彼女達に"ショッピングモール"へ行くことを勧めた」
『――ああ、こいつも
あの時......、あの時確かにグランはそう言っていた。ならこれは全部......少佐の――――。
「僕の差し金と言っていい、大尉、理由が気になるかい?」
汗を滝のようにかきながら固まる、俺が僅かに頷くと、少佐は表情を変えずに続けた。
「率直に言うが、今のままベルセリオン特務尉官を我が大隊に入れて作戦を行っても、成功確率は5パーセントにも届かないだろう」
5パーセント!? 少佐の言わんとすることも分かるが、さすがに少なすぎやしないか? 我々は精鋭と謳われるレーヴァテイン大隊であり、少数精鋭のきわ......。
そこまで考えて悟ってしまった、少数精鋭なら通常よりさらに隊員との連携が求められる。
だが、そこへ部隊員の復讐対象を入れればどうだ!? 火を見るより明らかだ、任務中に後ろ弾だってありえる。
「察したか? 上は元執行者のベルセリオン特務尉官をとにかく利用したい、現場のことを少しは考えてもらいたいと嘆くがね」
「つまり、今回ナスタチウム中尉とベルセリオンがぶつかるのも想定内、むしろこうなることを望んで?」
「口で言って真意が分かるほど、人間という生き物は柔軟じゃない。時には激しくぶつかり合わなければ分からない時もある。それが休暇の間ならまだリカバリーも効く」
部下同士の衝突など、本来なら上官の監督不足として更送されてもおかしくない。
それでも選んだのは、現時点での荒療治によるリスクの最小化。任務中に撃たれるより、非番時にぶつけて解消した方が良いと判断したのだ。
しかしそれにしたって危険が大きいことは否めない。
「どんな問題でも芽は摘まねばならないだろう、我々の魔装は精神と深い関わりがあるからね。全く意思というのは本当に厄介極まる。こればかりは彼女達を信じるしかないのが実に歯痒いよ。上官失格だ」
嘆息する少佐、この方も上と現場の板挟みに相当悩んだのだろうか。
「確かに役職上どうかとは思いますが、我々の任務失敗は帝国の安全保障を直接揺るがします。外科医的措置も、必要ならば覚悟すべきです。彼女達を信じましょう」
「ああ、何かあればすぐ言いたまえ、責任は全て僕が取る」
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