第59話 平和の守護
そこは見慣れた、されど感慨深くもある部屋。第315レーヴァテイン大隊の長であるラインメタル少佐の執務室だ。
「さて大尉、ひとまず今回の任務ご苦労だった。この7ヶ月で積み上げられた我が大隊の戦果は1個師団に匹敵すると言っても良い。これで魔装化部隊の有用性は示されたわけだ」
少佐は専用の椅子に腰を預けると、正対する俺を見つめた。
315レーヴァテイン大隊の人員は44、それが万の軍隊に匹敵するということは、これまでの常識が覆るということ。
「戦争の形態が変わる......ということですか?」
「言えばそんなところだ、しかしこれはほんの一端に過ぎないのだよ」
目の前の男は不気味に微笑む。
一端とはなんだ? 執務室に呼んでまでして少佐は何が言いたい?
「どういうことですか?」
聞く必要があった、その真意を。
「先日、偵察衛星が占領下にある半島を偵察した結果、カーラグラードに出現したものの10倍はあるユグドラシルが発見された。総数4本、北方4国の首都だった場所に生えている」
「なッ!? 10倍......! カーラグラードのものですら100メートルを超えていたんですよ!?」
「ああ、この事態を我々は重く見ている。そこで、かねてより極秘で進められていた計画の発動が決まった」
計画? あの神壁を突破する案があるのか!
「失礼ながら、それは少官にお教えいただけるものなのですか?」
「ああ、もちろんだ。そのために呼んだのだよ」
時計の針が秒を刻む音のみが響く中、少佐は口を開いた。
「――計画名称はピースキーパー、テオドール帝国、ミハイル連邦、アルカディア連合王国による大陸間弾道ミサイル、
「ッ!?」
ICBMだと!? 確か弾道兵器撤廃条約により、全ての国が破棄していたはず......!
まさかどの国も保有を秘匿していたと。
「失礼ながら、弾頭をお聞きしても?」
弾道ミサイルはつまるところ運搬手段に過ぎない、重要なのは、運ぶものだ。
「搭載弾頭は
少佐はおもむろに、焼き焦げた木の破片を机に出した。
「
この焦げた破片は、前回テオが破壊したユグドラシルの一部。あれ以上の威力を出すつもりなら、射程距離でもICBM使用は頷けた。
「敵の迎撃確率を減らし、なおかつ最大限速度を引き出すため、ミサイルはロフテッド軌道で撃ち上げられる。各国の準備が整い次第計画は――――」
その時、執務室の扉がやや慌て気味にノックされた。
話を中断させられた形だが、少佐はなにごともなかったように所属を聞く。
「はっ! 第315魔装化機動大隊、グラン・アルバレス中尉です!」
部屋へ入ってきたアルバレス中尉は、その顔に普段とは違った緊張の色を出していた。
「なにごとかね?」
「はっ! 大隊本部より緊急です! 全戦線でアスガル軍が大規模攻勢を開始したとのこと。敵総数は50万を超え、我々レーヴァテイン大隊にも出撃準備が命令されました」
「いよいよ本気を出してきたな、フォルティス大尉! 大隊を直ちに招集、装備を整えさせろ!!」
「はっ!!」
遂にきた......、テオドール帝国だけでこの数字。連邦にも同等かそれ以上の数が向かっているだろう。
北方方面の戦略予備も軒並み出動、南方、西方方面軍からも増援が無ければ厳しい。
我々が部屋を出ようと早足になった直後だった......。
『空襲警報発令!! 繰り返す! 空襲警報発令!! 帝都上空に超巨大アンノウン出現!! 全戦闘員は防空戦闘、並びに避難誘導に取り掛かれ!!』
甲高い警報音は紛れもなく危機に満ちたそれ、突然の心理外からの一撃に、自らの耳を疑った。
「空襲だと!? ここは首都だぞ!! 空軍はなにをしていたんだ!!」
自室の窓へ駆け寄った少佐がカーテンを開けると、真っ昼間にも関わらず、不気味な紫色の光が執務室へ差し込んだ。
「......どうやら、我々は先手を打たれたようだ」
帝都全域を覆うほどのそれは、形容し難いほどの超巨大な"魔法陣"。
これはグランソフィアがやられた時と同様の......いや! 遥かに大規模な戦略的奇襲だった。
「大隊を集めるぞ! 任務の連続ですまないが事態は急を要する! 非番も含めて全員を招集だ!! 遅れれば今日が終戦日となると心得よ!」
「「了解ッ!!」」
〜神との戦争〜 帝国軍が本気を出したようです tanidoori @tanidoori
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