第58話 経過報告いたします
こんにちは、第315魔装化機動大隊所属のエルド・フォルティス大尉です。
本日は久しぶりに日記をしたためようと思い、官舎の自室でペンを握っています。
なに? 柄でもないって? 既にグランやエミリア、ラインメタル少佐からも言われています。
さて、先日無事カーラグラードを脱出し、共産主義のユートピアから
ミハイル連邦による我々を巻き込んだ空爆、砲撃は、ユグドラシル倒壊の直後に、案の定長々と言い訳が送られてまいりました(要約:1回だけなら誤射かもしれない)。
正直今すぐにでもコミーの頭を吹き飛ばし、同じことを言ってやりたいですが、そこは理性ある帝国軍人として忍耐。
くそったれと罵倒するに留めましょう。
ラインメタル少佐は、帝都へ戻るやそそくさと技術研究本部へ行きました。
なんでも、神壁についての対策を技研に報告するそうです。
いまだに北の半島が占領されている以上、ユグドラシルがあるのは必然、
さて、魔力切れで倒れたテオについてですが、正直困っています。
はい、現在進行形で――――
「なにエルド! 日記なんて書くんだ! ちょっとわたしにも見せなさいよー」
「人の日記は見るもんじゃない! 俺みたいな野郎の日記を覗いてなんになる!? っつーか部屋入るときはノックといつも言ってるだろうが!!」
魔力の戻ったテオは、普段以上に元気になってしまいました。風邪で寝込んでいた子供が、完治した瞬間活発になるのと似たようなものなのでしょうか。
どっちにしろ、最低限の常識すら教えていない"主"とやらは、
「良いじゃない別に! 神に誓って他言しないって誓うからー!」
なおも日記を奪い取ろうとするテオ。
「貴様が神の時点で信頼できるかッ! 永遠に魔力切れしてろ!」
「なによそれ! そもそもわたしがいなきゃユグドラシル攻略だってできなかったのよ!? もっと感謝してくれたって良いんじゃないの?」
「確かに助かったが、あんな初期の列車砲みたいな消耗兵器が今後約に立つ場面なんかあるか!? 絶対ないね!!」
「言ってくれるじゃない! なら見せてやるわよ! わたしが持つ神の力をね!!」
――――30分くらいだろうか、ギャーギャー散々言い合った末、お互いに喉を枯らすことでようやく休戦を見いだせた。
「ぜぇッ......っつーか、お前は神だのなんだの言うが、なんで人間側についたんだ?」
息も切れ切れの質問。だが以前より確認したかった。
テオに会った日、国防省で彼女が意志を示した時のあの想い。
まだ本心を聞いていなかった。
「言ったでしょ、わたしは人類浄化に反対だって。アスガルの政策に嫌気が差したのよ」
「......本当にそれだけか?」
人類を現在の1割にまで減らし、世界樹の肥やしとする、浄化という名の侵略。
彼女がそれの阻止をしたいのは知っている、しかし肝心なのは"なぜ"という理由なのだ。
もし俺がテオの立場とするなら、帝国を裏切って敵国につくなど絶対にありえない。無論、俺にはそれを行う理由がないからだが。
「私は人間が......、人間の持つ可能性や将来性、他の生物にはない意志が好き」
座っているいたテオが仰向きに大の字で転がると、赤裸々に話し始めた。
「確固たる意志、中には該当しない人間もいるけど、私は自分の意志をしっかり持った人間が好きなんだと思う。それはエルドの――――神を憎む想いも同じ」
再び起き上がったテオは、銀髪を肩から払い、微笑んだ。
「憎む対象が......神であるお前だったとしてもか?」
「ちょっと寂しいけどそうね、でもエルドはまだその想いの真意に達していない。もっと視野が広くなれば、神なんていう不確実な存在に固執してないって気づくわ」
意味深だった。
俺自身は神と、それを盲目的に信仰する人間が大嫌いだ。
新興宗教の沼にはまった親を見てきたせい......というのもデカイが。
「でも、お前や今のベルセリオンと居るのは悪くない」
「でしょ? その理由が早く見つかると良いわね」
一通り話も行き着いた辺りで、今度はちゃんとしたノックが鳴った。
「失礼フォルティス大尉、話がある、少し付き合ってくれるかい?」
大隊長、ジーク・ラインメタル少佐だった。
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