第25話 敵主力奇襲
市街の制圧というのは、得てして骨が折れるものだろう。
無数にひしめく建物を丁寧にクリアリングし、潜んでいるかもしれない敵に神経を擦り減らす。
入念に入念を重ね、部隊単位で危機を乗り越えてようやく安全を確認できるものだ。
でも悲しきかな、100%という数値は実質存在しない。
『ワルキューレよりレーヴァテイン大隊、我が隊は現在グランソフィア駅上空にて待機中。カラースモークの展開を要請する』
ドレイク級レクトルを討伐に出ていたヘリ部隊から、硬い声色の通信が届いた。
彼らはこれから行う戦闘、ラインメタル少佐考案の"敵主力奇襲作戦"。その成否を決める、重要なキーパーソンである。
「了解、1分後にスモーク展開、思い切り掻き回してくれたまえ。煙の色は赤だ」
『了解、前進する。衝撃は任せてくれ』
グランソフィアは近世以前の木組みや石畳が主であり、それらを見下ろすように尖塔や時計塔が街中で連なっている。
その内の1つ、窓枠から重機関銃を覗かせ、我々は敵本隊が制圧した広場に視線を据えていた。
「距離1000、野戦砲らしきものを集積しているようです。アルバレス中尉の狙撃に対応したものでしょうが、無防備極まりないですね。テオの言った通り上空掩護のドレイクが3体旋回しています」
魔導ブーストの遠距離望遠で敵情を把握する。
「護衛に頼り切ってるな。ナスタチウム中尉、旅団の高射中隊から借り受けたアレは?」
「携帯型地対空ミサイルですね、もう装填済み、発射準備できています」
比較的小柄なナスタチウム中尉が抱えるそれは、歩兵が持つことを想定した《地対空ミサイルランチャー》。
筒形の発射機本体に、各種誘導システムや光学機器を兼ね備えた汎用性のある対空火器だ。
今回は彼女と他2名が運用する。
ロックのサインであるブザーが鳴ると同時、少佐が笑みを浮かべた。
「撃て」
立て続けに轟音を轟かせ、尾を引きながら3発の対空ミサイルが発射されたことにより状況が始まる。
超音速にまで達した弾体はロックオンされた目標の紫外線を探知すると、生き物のようにグニャリと機動を変え、回避する間も与えず旋回していたドレイクを射抜いた。
「ゴギャッッっ!?」
触発遅延型の信管はドレイクの体内奥深くに突き刺さってから起動し、内部から爆殺。3発のミサイルは全てが命中し、敵の航空戦力を一瞬で撃ち砕いた。
「タラント伍長! カラースモークを展開しろ!!」
『了解です! 発射!』
女性を大聖堂まで避難させた後、そのまま敵地傍まで浸透させていた伍長に、これでもかというほど赤く、目立つことこの上ないスモークを敵部隊の中心へ放り込まさせる。
塔から数人を残して飛び降りた315大隊は、通信機へ殴るように叫んだ。
「攻撃開始!! 繰り返す、攻撃開始!!」
塔上部に設置していた12.7ミリ重機関銃が、カラースモーク目掛けて制圧射撃を行う。
高所から撃ち下ろされる重ねた鉄板をも貫くそれは、混乱に陥った敵の統率を破壊するに十分。
だがまだオマケに過ぎない、本番は、空気を振動させるローター音が正体を現した瞬間から始まるのだ。
屋根上を疾走する俺達の上を、重武装、高火力の体現者たる攻撃ヘリコプターが超低空で追い抜いた。
『ワルキューレ1〜4、目標、敵砲兵陣地! 誘導弾、ロケット砲、機関砲――――全弾発射ッ!!』
死の雨が降り注いだ。再攻勢を行おうと準備していた敵部隊は激しい爆発と飛び散る破片に埋もれ、瞬時に瓦解へと陥る。
無防備に並べられた魔導野戦砲などは格好の餌食となり、薙ぎ払うように吹き飛ばされた挙句、周辺の執行兵やキマイラごと駆逐した。
敵対する航空戦力無き戦場で、美しく編隊を組んだ攻撃ヘリはそのアドバンテージを最大限に活かし、最大火力を叩き込んだ。
「大隊諸君! 友軍攻撃ヘリ部隊は給料分以上の仕事を成し遂げてくれた。第315大隊はこれより、崩壊寸前のアスガル軍を徹底的に粉砕するぞ!!」
殲滅の時間だ、悪の
※ ※ ※
【地対空ミサイル】
航空機を撃ち落とすための誘導兵器。本話のものは直撃してから爆発しているが、近づいた瞬間に爆発する近接信管の物も存在する。
【攻撃ヘリ】
機関砲、ロケットランチャー、対地ミサイル等を備えた攻撃全振りのロマン兵器。
ああ......美しい。
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