第26話 バトルフィールド
機関銃、そして航空支援を受けられる戦場というのはなんと素晴らしいことか。この瞬間、この瞬間こそ正規軍に属していて良かったと実感できる。
散発的に飛び交う魔法弾は、高所を抑えたこちらの銃撃とは反対に空を穿つばかり。
もしも彼らがアスガルの人的資源であるならば、随分と贅沢で豊潤ですねと讃えねばならないだろう。
兵士を畑から採って前線へ送り込むなど、ミハイル連邦くらいかと思っていた。だが、この分ならコミュニスト共の方が遥かに厄介だ。
つまるところこいつらは、"ただ戦うだけ"。神への信仰心はともかく、イデオロギーというものが、使命や愛国心といった精神的ドーピングの類も無い。
ついでにうちの大隊長殿から言わせれば、敵は無能の一言に尽きる。もっと言えば戦下手。
現に、今こうして彼らはたった30人のレーヴァテイン大隊、数丁の重機関銃、4機の攻撃ヘリに蹂躙され尽くしていた。
絵に書いたような無双。
上空掩護を撃墜した瞬間にこれである、本当にただ数に頼ってのゴリ押しだったのだろう。
アサルトライフルから
1人の火力を100人分増やせると豪語するこの武器は、文字通り圧倒的な装弾数でもって招かれざる客をホロサイト越しに屋根上から薙ぎ倒していく。
連中とは対照的に、テオドール帝国軍は数的優位ではなく、能力と練度、運用を組み合わせた質的有利をもって戦闘する。
機銃、航空機、重砲が多いのもそのドクトリンによるものだ。
無数の弾痕と焦げ付いた瓦礫、化物共の亡骸(なきがら)で溢れた広場へ進むと同時、仕上げに取り掛かる。
ナスタチウム中尉は相変わらずというべきか、瓦解した敵集団の中へ肉薄して、銃剣を組み合わせた近接戦闘を流麗で無駄の無い動作で行っている。
広場奥では、まだマトモに指揮を保った執行兵がこちらへ大量の魔法弾を斉射しようと構えていた。
なら、俺も久しぶりに彼女を見習ってみようか。
「テオ!」
既に分隊単位の敵を切り伏せたテオを呼び付け、同時突撃の合図を送る。
通信機の扱いも心得たもので、即座に返ってくるのは肯定の二つ返事。
「裏切り者とそれを匿いし猿共が! "神の鉄槌"を浴びせてくれる!!」
人形にも感情くらいはあるか......高らかに叫ぶのは結構だが、その言葉は向ける相手を選んだ方が良いぞ。
「突撃用意――前へッ!!」
魔導ブーストを全開、妄信に浸る彼らに我々が現実を教えてやろう。
一斉射された魔法が視界を埋め尽くすが、俺を追い越して銀色の光が輝いた。
「ハアアアアアアアァァァァッッ!!!」
神にして元執行者、華奢な容姿に不釣り合いな剣を振るい、魔装化した我々と同一の能力を持った少女によって、直撃コースの魔法弾はアクション映画のような動作で弾かれる。
射線が開けたタイミングで、再びライトマシンガンのトリガーを引き、撃鉄を叩く。
撃ったつもりが撃たれたのだ、驚きと共に倒れる同胞を横目に、神の鉄槌とやらを叩き込むべく敵は攻撃を続行。
あとは簡単だ。テオが弾き、隙間に俺が射撃を加える。
例えるなら秋津にある餅つきとやらの要領に近い、相互に連携し、繰り返すのだ。
距離を詰めればもうおしまい、テオに文字通り一刀両断されるか、"文明の鉄槌"で肉の塊と化すかだ。
重機関銃の制圧射撃と、一方的に蹴散らされる執行兵。悪夢のような光景に恐れ慄(おのの)いたのか、先程まで妄言を吐いていた執行兵が座り込んでいる。
「ここまでだ、唱えてみろよ、主への賛美歌とやらを」
自由意志を捨てた者に慈悲など無い。
引き金に手を掛ける間際、俺の目の前で漆黒の暴風が吹き荒れた。
すぐ傍にいたテオがすぐさま剣を向ける。
「主を裏切りし愚か者、忌々しい悪の
黒一色の髪を振り、端麗な容姿で冷たい目をした少女。
『緊急警報!! 上空よりアンノウン1、急速接近中!!』
アルバレス中尉の射程圏外、通信機より司令部の声が響いたと同じくして、さらにもう1体のレクトルが眼前へ降り立った。
燃えるような赤色の巨体に、翻した翼と剥き出しの牙を向ける怪物。
あの日の廃墟でテオや俺達を襲った怪異、そして執行者。
「我が手でもって殲滅してくれよう」
ワイバーン級レクトル、執行者ベルセリオン!
※ ※ ※
【グレネードランチャー】
名の通り榴弾を発射する。
本話ではアサルトライフルの下部に装着し、多目的に使用している。
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