第19話 展開開始
外へ出た俺達を最初に出迎えたのは、錯綜する市民と鳴り渡る警報音だった。
車道は出動する帝国軍部隊が絶え間なく流れ、いかに切迫しているかが分かる。
「我々315大隊は民間人を市街中心の大聖堂に誘導しよう、あそこには昔から、信者を匿うためのシェルターが作られていると聞く」
見れば、街を見下ろすように豪奢(ごうしゃ)な建造物が佇んでいた。
なるほど手前には川、大聖堂自体も高台にあったりと、守るには最適と言って良い立地だ。
「了解しました、自分は中隊と合流後、速やかに任務を開始します。テオ、お前も来い!」
「えっ!? あ、うん。分かったわ」
俺はテオを引き連れラインメタル少佐から離れると、部下に装備を持ってくるよう命じるのと並行して、合流地点を指示する。
まだ敵が来ていないからか、幸い民衆はパニック状態に陥っていないようだ。
組織だった誘導を行えば、円滑な避難も可能なレベルだろう。
間もなく指揮下の中隊と合流し、俺は頼んでいた装備一式を受け取った。
命令を素早く飲み込み、迅速に展開できる彼らは、帝国最強の即応部隊に相応しい練度を有していると再確認する。
「ありがとう軍曹、即応旅団からの要請はさっき話した通り、まず住民の避難誘導だ。他部隊と連携して事に当たるぞ」
「了解です大尉」
「それからテオ、使うことは無いかもしれんが、念のため"これ"を《コローナ》に入れておいてくれないか?」
「え? って何これ重ッ!? こんなの入れたら私の剣が入らなくなるじゃない!!」
テオに渡したのは《84ミリ無反動砲》、いわゆる対戦車火器だ。
重装甲の目標に対し大きなダメージを与えられる、いわば俺達歩兵の切り札。
子柄な彼女がよく持てるなと思ったが、そういえば元執行者とか言ってたっけか。
「お前の剣じゃ重装甲相手にキツイだろ、いざとなったらそれを撃て。1発限りの使い捨てだから大切に使えよ」
この数日で、テオには各種火器の扱い方を叩きこんでいる。
兵士までとはいかなくても、予備知識を入れているだけで生存率は上がるのだ。
俺がアサルトライフルの他、多用途機関銃を背中に背負っていると、何やら横でテオが無反動砲をいじり始めた。
「セーフティを解いて......、スコープで狙いを定めて、後ろに誰もいないことを確認、よし! 最後は引き金を――」
「おい今撃つな! 操作を覚えてたのは褒めるから、本番以外でセーフティを解くんじゃない!」
プウッと頬を膨らませながら、筒型ランチャーを下げたテオが、右手にハマる指輪へその火砲を収納。
代わりに、彼女の手には光沢のある鋭利な剣が握られていた。
「よし、準備はできたな。これより避難誘導を開始す――――」
言い終わる前にそれは起きた。街の外縁付近で、大気を揺らす爆発が発生したのだ。
しかも1つではない、いくつもの青白い光が弧を描いて住宅街に着弾。立て続けに地面を揺らした。
『こちらレーヴァテイン01、悪い報せだ、敵による砲撃が開始されたらしい。フォルティス大尉以下第2中隊は、至急展開中の旅団と合流、敵情把握を行ってくれ』
砲撃だと!? まだ民間人のいる市街地に? 国際法で禁止されている行為を平然とやる辺り、ヤツらは本当に民族浄化を企てているらしい。
いや訂正、相手は国際法に縛られない自称神だ。人間の枠に収めようとするのがそもそもの間違い。
『02了解!! 任務を変更、第2中隊はこれより前方偵察へ向かいます』
俺はテオと部隊を引き連れ、混乱へ転落したメインストリートをひた走った。
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