第14話 浄化の前触れ
俺とテオに襲い掛かってきたのは、いつぞやの端麗な容姿と黒髪を持つ執行者だった。
「列車を襲ったのはあなたの配下で間違いないのね? ベルセリオン」
「他に誰がいると思う? 裏切り者の貴様を追う者など、私やリーリスくらいだろう」
ガンっと甲高い金属音を響かせつばぜり合いを終えたベルセリオンは、呆然と立ち尽くす俺を見た。
「まさか本当に手を結んでいたとはな......、貴様と裏切り者の間にどんな癒着があるかは知らんが、人間というのは存外愚かなものだ」
どうする......、今持っているのはせいぜい護身用のハンドガン程度。
テオは列車における戦闘で拳銃級の弾速を誇る魔法弾を弾いていた、眼前の執行者が同等かそれ以上の強さだとして、まず当たる訳がない。
この場においては、テオに前衛を任せる以外の手段も持ち合わせていなかった。
「それで? 列車で仕留められなかったからあなた直々に来たんじゃないの? 浸透強襲軍の空間移動は隠蔽込みだと骨が折れるものね」
「裏切り者らしい単純な答えだが違うな、確かに今ので殺せれば楽ではあった。だが今回はそれが目的ではない」
月明かりを浴びながら、ベルセリオンはその剣をゆっくりと下ろし、こちらと正対した。
噴水の細やかな音だけが夜空に昇る中、彼女はその小さな口から清楚な声で言う。
「神界アスガルは、本日をもってテオドール帝国を"裏切り者"を
瞬間、ほぼ反射で俺は腰のハンドガンを抜いていた。僅かに残った理性が、俺に街中での発砲を静止する。
「それは......民間人も含まれているのか?」
「無論だ。帝国は解体され、民族は1人残らず主の下へ還されるだろう。我々執行者は、主の意とあらば行動に移す実行部隊である」
"民族浄化"。前時代的でおぞましさを練り固めたような単語が浮かぶ。
もうこいつに話は通じない、何故(なぜ)なら、目の前に立つ執行者は俺達と同じ"命令されればそれに従う"軍人に近い。
であれば、それを止められる方法は一つしかないだろう。
「我々は断固として抵抗する、もし国民に手を出してみろ......神界アスガルとそこに住まいし神を完膚なきまでに殲滅する」
「そう言うだろうと思っていた。裏切り者を保護したツケは高かったと、直に分かる」
後には、気味が悪いほどの静寂が訪れる。
《グランドクロス》を《コローナ》へしまったテオが、その顔を石畳へ向けた。
「ごめんエルド......、あなたとあなたの国を巻き込んでしまった。私......人間を救いたくて来たのに、こんなことになるなら――」
そこまで言いかけたテオの頭を俺は乱暴に撫でると、1歩2歩と前へ出た。
「駐屯地へ戻るぞ、俺達の意思と自由は何者にも侵略させない、それがお前の信念に繋がるのなら、協力してくれ。我々は物理力でもって神を迎え撃つ!」
※ ※ ※
【ミハイル連邦】
テオドール帝国より東側に位置する、国土面積世界一の社会主義国家。
テオドール帝国は本来仮想敵であるが、レクトル進攻により共同歩調を取る。
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