第17話 もしもへの備え


 本日の天気は快晴、平時であればピクニックにでも出かけたい日本晴にほんばれであるが、我々第315魔装化機動大隊は、急ピッチで街の武装作業にあたっていた。


『レーヴァテイン01から02へ、"重機関銃"の設置は順調かい?』


「こちら02、現在16台目の設置が完了。第2中隊はこれより17台目の設置ポイントへ向かいます」


 俺達がグランソフィアへ展開した主目的は、"ワイバーン級レクトル"の撃滅だ。

 それに備え、現在この街には多くの機関銃陣地や対空砲、さらには元々駐屯している旅団が、即応態勢を保ちつつあった。


「ねえエルド......」


「なんだ?」


 次のポイントへの移動に使う装甲車、その車内で、後部座席からテオが端正な顔を覗かせてきた。


「おかしいでしょ!? なんで私の神器たる《コローナ》に重機関銃なんて入れてるのよお! 普通に車で運べばいいじゃない!!」


 憤怒(ふんど)するテオは、身に着けている"指輪"を指しながら俺に抗議してきた。

 答えは明白、これほど優秀な輸送兵器が他に見当たらないからだ。


「協力すると言ったのはお前だろ? 今街中であんなゴッツい武器見せびらかしてたら、住民の不安を煽ることになる。なら、完璧に隠せてなおかつ重量もかさまない手段を取るのがベストだ」


 普段テオが《グランドクロス》を収納しているこの指輪。

 実験によると、多数の弾薬や、重機関銃一式さえも運搬可能であることが判明したのだ。


 さすが神器というべきか......、精鋭主義の目立つ我が大隊における需用は計り知れんな。

 ――持ち主がその都度不機嫌になることを除けば。


「しかし大尉、わざわざ街中での戦闘を想定するのは何故(なぜ)です? 街の外に防衛線を張ったり、それこそ空軍と連携すれば必要ないのでは?」


 俺とテオが乗る装甲車の運転を担っている第2中隊長、アルバレス中尉が、一理ある言葉を発した。

 だが悲しいかな......、そうもいかないのが我々の現状なのだ。


「中尉、俺達が相手しているのは戦車でも戦闘機でもない、ワイバーンだ。そう都合良く空からいらっしゃる可能性は低い、下手すれば地上でギリギリまで接近してから、防衛線を飛び越えてくる可能性だってある」


 早期発見しようにも、戦闘機ばりの空戦能力も確認されているので、迂闊に偵察機も出せないときた。

 ならば、受け身の姿勢を取らざるをえないのも、また防御側の弱みである。


「改めて厄介な相手だと認識させられますよ......、そういえば秋津国の邦人がグランソフィアから避難を始めたようですね」


「秋津って......、前エミリアがいた国?」


「ああ、豊かな四季と東洋一の経済力を持つ国で、我がテオドール帝国とは友好関係にある。戦争中にも関わらず食料や経済に余裕があるのも、秋津や同盟国の支援のおかげだ」


 外交とはやはり重要だなと、軍人ながらもそう感じてしまう。


「秋津の人間がレクトルの犠牲になるのは遺憾だ、今はまだ安全な秋津本土に、無事帰還出来ることを友人として祈ろう」


「そうね、またエミリアに秋津や"こっちに帰ってきたばかりの頃"の話でも聞こーっとッッ!?」


 瞬間、急ブレーキを踏んだ装甲車は、石畳にタイヤの跡を刻みながら激しい振動と共に停車した。

 何事かと思ったが、運転席から必死の形相でテオをその強面で睨みつけるアルバレス中尉を見て、我ながら迂闊だったと悔いる。


「テオ、もうその話は無しだ......! エミリアのヤツに、帰ってきたばかりの話だけは絶対にするんじゃねえ、分かったか?」


 温厚な彼の見せた初めての一面に、テオは若干涙目になりながらコクコクと頷いている。

 息を荒くする彼の軍服に包まれた肩へ、俺は手を置く。


「中尉、一旦落ち着け。気持ちは分かるが、何故なぜという点を教えてやらなければただ怯えさせるだけだぞ」


 俺の言葉にハッとした彼は、その言葉や表情をいつものそれに戻した。


「すみません大尉......、つい直情的になってしまいました」


「謝るなら俺じゃなく、後ろで半泣きになってる神の方にしてやってくれ」


 見れば、後部座席で耳まで顔を赤くしたテオが、目尻に涙を浮かべながらこちらを見ていた。


「あああゴメン! 驚かせちゃったかな、ほら泣かないで! ああー大尉〜助けて下さいーー!」


 その後、アルバレス中尉は急遽ラインメタル少佐にケーキ屋の場所を教えてもらい、甘味かんみを奢ることによって事なきを得た。


※ ※ ※


【重機関銃】

大型の機関銃で、車両や航空機、陣地等に設置して運用する。威力が強く、射程も長大。


本作においては、12.7ミリ口径(対物ライフルと同等)をモデルで描いています。

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