第12話 列車制圧戦


「こちらレーヴァテイン02、第2中隊は4号車の守備線を突破。敵兵の殲滅を開始します」


 蹂躙じゅうりんという言葉は、基本的に強者が弱者を踏みにじった時などに使われるが、こと今回の戦闘においてもそれは適用出来るだろう。


「くそっ! くそっ! この化物め――――がぁッ!?」


 何が言いたいかというと、人ならざるものから人外と呼ばれてしまう程に、我々315大隊は敵を圧倒していた。


 広い列車内を駆け回り、飛んでくる拳銃弾ほどの弾速を誇る魔法は、並の人間には不可能な3次元的機動を行いながら避けきり、引き金を引くごとに神の傀儡くぐつを肉の塊へと変える。


 その淡々とした作業は、傍から見れば一方的な狩り。

 魔導ブーストによって生み出される圧倒的な戦闘能力、これこそが第315魔装化機動大隊の真髄なのだ。


 既に占領された7両のうち4両を制圧、進行形で5両目の敵部隊を駆逐しつつあった。


「前方敵集団、即席のバリケードの後ろから射撃を行っている。第4中隊に掩護求む」


『04了解、すぐに向かいます』


 中間まで進攻した辺りで、ようやく執行兵が防衛線を張ってきた。俺は釘付けにされ動けないので、ナスタチウム中尉率いる第4中隊へ支援を要請。


 仕事の早い彼女はすぐに駆け付けてくれたが、驚いたことに部下の姿が見えない。おまけにその足で床を思い切り蹴ると、なんと敵軍のど真ん中へハンドガン2丁で突っ込んでしまった。


 なんて戦闘狂だ、俺がバカ野郎と叫ぶ前に戦闘は始まってしまう。


「なんだこいつ!? 1人で何を......がはッ!!」


 華奢(きゃしゃ)な外見からは想像もできない凶暴な蹴りを放ち、無駄のない動きで拳銃弾を穿うがつ。ふところへ侵入された執行兵は誤射を恐れているのか近接戦闘を行おうとするが、もはや彼女の思う壺。


 彼らに残された選択肢は、両手を飾る9ミリ拳銃で撃ち抜かれるか、よわい19の彼女が打ち出す軍隊格闘に骨ごと粉砕されるかの2択のみ。


「この......ッ、人間如きがあああ!!!」


「ッ!?」


 恐れていた事態、1歩後ろで仲間の死を見ていた敵兵が破れかぶれに魔法弾発射機マジックライフルを振り上げる。

 今俺が撃てば彼女に当たる危険がある! 掩護射撃はできない......ッ!


 ――――ダァンッッ――――。


 直後響いた発砲音......同時に、ナスタチウム中尉へ襲い掛かっていた執行兵のこめかみが木っ端微塵に吹き飛んでいた。


『突出しすぎだこの戦闘バカ、死んでも知らねーぞ』


 乾いた轟音の正体は、12.7ミリ対物狙撃銃アンチマテリアルライフルが吠えたもの。

 大隊一の射撃精度を誇るグラン・アルバレス中尉が、後部車両から縫うようにして撃ち放ったオーバーキルも甚だしい一撃だった。


『遅いのよバーカ、女の背中一つくらいしっかり守ってくれる?』


 通信越しにやや力んだコッキング音が聞こえる。

 こいつらは戦場にあってどうしてこう緊張感が持てないんだ。


「夫婦喧嘩は後でしてくれ、これより6両目へ向か――」


 その時、後方にいたテオがいつの間にか俺の腕を叩いていた。

 左手に持つ時代錯誤な剣が、相変わらず違和感を醸し出している。


「どうした? っつーか、本当に剣で戦ってたのかよ」


 驚嘆する俺に、テオは兵士のように冷静な表情で天井を指す。


「上に敵がいる、この車両を挟むようにして左右10人づつ。多分別働隊だと思う」


「思うってお前、なぜ分かるんだ? そんな確信がどこに......」


 だが、確信ならすぐに見つかった。


「前に言ってた魔力探知か」


「そう、あいつら自身は魔力で形作られてるから比較的容易に探知できる。現れた時感じられなかったのは、それなりに隠蔽されてたのかもしれない」


 銀色のアホ毛がピコピコと動く。俺にはそれが対魔法用レーダーにも見えた。


「なるほど、じゃあ先制するに越したことはないな」


 サイドアームのサブマシンガンに手を伸ばし、ナスタチウム中尉と同じく両手に構える。


「ちょっエルド!? どんな手を使うつもりで......!」


「こうだよッ!!」


 連結部に出た俺は、捻るようにして上へ飛び上がる。日差しに照らされた瞬間、車上であっけらかんにこちらを見上げる敵兵が視界に入った。

 確かに左右10人づつ、計20体がそこに立っていた。


「天に戻れ! 神の操り人形がッ!!」


 生憎俺は特定の存在に優しくない、着地と並行してムチで薙ぎ払うようにサブマシンガンを掃射。

 10、15と風穴を開けられた執行兵が列車から落ちる中、噴き出していた発射炎マズルフラッシュがピタリと止まる。


「なっ、弾切れ!?」


 迂闊だった、発射レートが早く敵を倒しきる前にマガジンが空になってしまう。

 先頭方面の残敵4、気の緩みが起こした最悪の状況に歯を食いしばる俺へ、眩く光る魔法弾が向けられた。


「っさせるかあ!!!」


 輝いたのは光沢のある剣、俺を神の攻撃から守ったのは、奇しくももう1人の神だった。


「いたぞ! 裏切り者だ!!」


 執行兵が声を荒らげる。車上へ上がってきたテオは、そんな彼らへ慈悲なき刃を煌めかせた。


 瞬きする間に4体、外見と一致しない動きで舞い踊る彼女の前に、執行兵は2度と喋らない残骸と化した。


「お礼はいらないわよ。エルドに死なれたら、この世界で私をエスコートしてくれる人がいなくなっちゃうことだしね」


 当然とばかりに振り返る。

 ほぼ同時に、ラインメタル少佐より掃討完了の知らせが届いたのだった。


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