第4話 狼狩りのアレクシア

「……えっと」


 私はウィリアムと名乗った騎士とジュリア様を見る。ウィリアムは微かに肩を竦め、「東屋に行きますか」と暢気に言って歩き出した。


「狼狩りのアレクシアか」

 ジュリア様はテノールの声でそう言うと、おもむろに立ち上がる。

 立ち上がって更にぎょっと、した。


 でかい。

 私と同じぐらいの身長がある。

 私は言葉をなくしてジュリア様を見た。


 綺麗な肌も、美しい髪も。

 細い腰もやわらかな身のこなしも女性そのものなのに。


「男、なのですか」

 心の言葉がぽろり、と口から零れでる。ジュリア様はぎゅっと眉根を寄せると、「内緒だぞ」と私を指差してそう言う。


「この秘密を暴露したら殺すからな」

 物騒な事を綺麗な顔で笑顔のまま言う。私は戸惑って東屋の中のウィリアムを見ると、こちらもにっこり笑って、佩刀の鯉口を切っていた。


 とんでもないところに就職が決まってしまった……。

 さすがに顔から血の気が引く。

「狼狩りってなんですか」

 東屋に一足先に入ってベンチに腰掛けているウィリアムが顔をこちらに向けて尋ねている。

「カールスルーエ語で、ヴォルフは狼でヤークトは狩りだ。だろ?」

 ジュリア様は私の顔を一瞥してそう言う。私が頷くと、満足したようで、すたすたと東屋の方に向かって歩き出した。

「私の先祖はカールスルーエ国王の前で狼狩りを行い、その功績をたたえられて男爵位を頂いたと聞いております」

「あの技はなんだ」

 東屋に入り、どしり、とウィリアムの隣りに座って私を見上げ、ジュリア様は尋ねる。

「私の家に伝わる体術です。この国には関節を攻撃する武術がないようですね」

 私はふたりに倣って東屋に入る。

 藤の葉が木陰を作っているせいか、庭より若干涼しい。

 ……まぁ。

 体感温度の問題で言えば、理由はこの雇用主にある気がする。


「あの、ジュリア様」

 私はおそるおそる声をかける。ジュリア様はベンチの背もたれに体を預け、横柄な態度で私を見上げながら言葉を返した。

「3人でいるときはジュリアでいい。様なんていらない」

 そんなことが許されるのだろうか。

 相手は曲がりなりにも王族だ。

 私はジュリア様の隣のウィリアムに顔を向けると、苦笑しながらうなずいている。

「ジュリアなんて名前は偽物だからな。尊称だの敬称だのは必要ない」

 ジュリア様はそう言ってつまらなさそうにそっぽを向く。

 はぁ、そうですか。

 私は小さくそう呟くと、では、と咳払いをする。


「ではジュリア。私を雇っていただける、ということですが、内容は外国語の家庭教師と言うことでよろしいのですか?」

「かまわん」

 ジュリアはもぞりとベンチに座りなおすと、長い脚を組んだ。その拍子にハイヒールの先が隣に座っているウィリアムに当たったようだ。「もう、行儀が悪いですよ」とウィリアムに睨まれているが、全く気にした様子がない。

「表向きはそれでかまわない」

「表向き?」

 私は首を傾げる。ジュリアはそんな私を軽蔑したように鼻を鳴らして一瞥する。

「カールスルーエ語は堪能だ。教師などいらない」

 そう告げた彼の言葉はまさしくカールスルーエ語で、訛りのない綺麗な発音だった。これでは、確かに私の指導はいらないだろう。


「俺の家庭教師と言うことで、外出先には必ずついてこい」

 ジュリアはこの国の言葉にまた変えて、私にそう告げる。


 つくづく。

 私は、ジュリアを凝視する。

 外見と言葉と、声とにギャップのある方だ。


 見目麗しい、非の打ちどころのない上品な容姿をお持ちなのに、言動は粗野で、振る舞いは横柄だ。

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