第3話 これはどう考えても男だ

「いかがも何も……」


 私はぽかん、と自分より背の高い騎士を見上げた。

 願ったりかなったり、と思うものの。

 私は顔をしかめて騎士と少女を見比べた。


「あの、失礼ですが、どちらのジュリア様ですか?」

 まず、身元がわからない。

 「姫」と名乗っている限りは、王家に続く誰かなのだろうとは察しが着くのだけど。


「この方は、先王ジョージ様の遺児であるジュリア・オブ・ルクトニア様です」

 答えたのは、館主だ。

「我が家の庭が今、見ごろなのでお招きし、散策していたところだったのです」

 

 ルクトニア。


 私は目を見開く。

 このルクトニア領の領主権を持っているということだろう。

 現在の国王であるヘンリー王は、先王ジョージの実弟だ。

 ジョージ王が崩御し、実弟であるヘンリー王が立たれた後、王位継承権はヘンリー王の子供たちに移っている。


 この少女は、先王の忘れ形見、ということか。

 王位継承権が離れたことにより、王都からこのルクトニア領に移ったのだろう。

 私がまじまじと少女を見つめると、少女とばっちりと目が合ってしまった。

 私は慌ててスカートをつまんで、膝を折って頭を下げた。

「アレクシア・フォン・ヴォルフヤークトと申します」

 頭を下げる私の耳に、くすり、と笑い声が聞こえた。

 ちらり、と失礼にならない程度に顔を上げると、ジュリア様が私を見て笑っていた。

 私が見ていることに気付いたのか。

 騎士を手招きしてまた耳に口を寄せると、何事が伝えている。騎士はうなずき、館主に言った。


「しばらく、この東屋をお借りしたいのですが、構いませんか?」

「それは、構いませんが……。あの、暴漢を捕まえたあと、どのように処罰すれば?」

 館主はせわしなげに視線を庭に彷徨わせる。私だって同意見だ。私の就職斡旋は嬉しいが、まずはこの少女を襲った犯人たちを追わなくてもよかったのだろうか。

「やっぱり、あの男たちはこの家の庭師ではないんですよね?」

 私が尋ねると、館主は、とんでもないと言いた気に首を横に勢い良く振る。

「この庭は自然を模したものでして、手入れは必要最小限にしております。庭師は常時おいておりません」

「犯人が捕まれば、当家にお引き渡し下さい。ただ、そう簡単には捕まらないとおもいますが」

 騎士はいともあっさりとそう言い、東屋を指差す。

「借りますよ」

 館主はあいまいに頷き、「では、お茶でもお持ちします」と再び館に続く小道のほうへ歩き去っていった。


「アレクシア殿」

 館主が立ち去ったのを確認すると、騎士は私におもむろに向かい合った。

 正面から見ると、なかなかに凛々しい美丈夫だ。年は私よりいくつか上だろうけど、まだ二十歳は超えて居ないように見える。

「僕はウィリアム・スターラインと申します。このたびはジュリア様をお守りいただき、ありがとうございました」

 そう言って頭を下げる。

 私は慌てて手を横に振った。

「いえ。私こそ、雇って頂きありがとうございます」

 思わずそう言い、それから改めてジュリア様を見た。

「あの、お雇いいただく、ということでよろしいんですよね」


 相変わらず地面に座り込んだままの少女は、私を見上げて口端を両脇にきゅっと上げた。青い瞳に意地悪そうな、勝気そうな光が宿る。


 思わず私は、ぎょっと背を逸らす。

 か弱そうな、思わず守ってやりたくなるような。

 そんな外見とは裏腹に。

 その瞳は猫科特有の、獲物をみつけて喜んだような色が滲んでいた。


「雇った」


 ジュリア様がそう言う。

 その、声に私は目を見開く。


「給料はお前の言い値の倍を出そう」

 私は驚く。


 低いのだ。

 少女の声ではない。


 これはどう考えても男だ。

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