☆源氏の世界 ⑤好きな男子の探し方

 平安トリビアをご紹介している「源氏の世界」。②では男子がどうやって女子のことを好きになるかを書いたけれど、今回は女子バージョン。お出かけもできない箱入り娘(イマドキこんな表現通じる?)がお気に入りの男子をどうやって探すかのお話。


 学校にも行っていない、友達もいない女の子(お姫さま)はどんな男子がいるのかも知らないの。ここで一番頼りになるのが、身近にいる女房(お付きの女中)かな? 女房には女房のネットワークがあるからそこのウワサ話を姫さまにも流すのね。友達がお仕えしている若君はとっても素敵だとか、カッコいいとか。


 それから自分のお父さんはある程度の官位の役人だから、家へもお客として多くの貴族がやってくるの。彼らの姿を女子達は部屋の中から見ることができたのね。御簾みす越しにね。それにだれそれは蹴鞠けまり(当時の貴族のたしなみ。今でいう数人でするサッカーのリフティング?)がとても上手だ、とか、だれそれは和歌の名手だ、琴や琵琶がうまいのはだれそれだの噂が飛び交うの。

「あの人、かっこいいわ」

「あら、こっちもイケメン」

「あの方の琴が聞いてみたいわ」

 なんて思うこともあったでしょう。けれども女性の側からアクションをおこすことはできないのよね。お父さんに「あの人のことが気になるんだけど」とうっすら伝えるのがやっとだったかもしれないわね。それも人づてに。あくまでもうっすらと。お父さんが娘につりあうふさわしい相手だと認めれば、お父さん経由で男子に話を持ち込むことはあったかもしれないわよね。

「いや、うちの娘がね、これが結構キレ―でね、年頃なんだよねぇ」

 なぁんてつぶやいてみるのです。カレの前で。


 そしてそれとなく宴会などを開いて若い男子を家に呼ぶのです。


 やれ花が咲いただの、やれからの珍しいものを取り寄せただの、特に何もないなら月でも見るべ? だとか、もうなんでもいいからとにかく飲もうぜ、だとかで宴会が行われるのです。


 そこで行われる舞や歌などを見て(また御簾ごしね)、素敵な人だわとうっとりする。

 もしくは、お昼間に行われる蹴鞠けまり(今でいう大人数でするリフティング大会)でカッコいいわぁとときめいてみたり。


 今だって歌って踊れるあの大人数のダンスグループやリフティングが得意で運動神経のいいサッカー選手はモテるでしょ? 1000年前も同じこと。


 お父さんもこの男だったらいいかな、と認めたのなら

「娘にラブレターでも書いてみる?」

 とけしかけてみる。もしくは

「年寄りは夜が早くてね」

 なぁんて言いながら自分は寝殿(主の寝室)に引き上げて、暗に娘の部屋に行ってもいいよと促してみる。


 男子の方もまぁつきあってみてもいいのかな、と思えばラブレターや和歌を贈る。こうして彼女との文通のお付き合いが始まるのかな。


 まぁ、想像もつかないくらいに回りくどい。見知らぬ人とでも簡単にチャットができるようになった現代とはあたりまえだけれど、比べようにならない世界よね。でも、そうした回りくどい行程を経ながら恋しい気持ちが増幅していくのかもしれないわよね。

「そこまで焦らされるなら絶対会ってやる。彼女を落として見せる!」とか

「そんなにいいコなの? くれるラブレターも可愛いしな」ってね。そしてそんな情熱的な歌がいくつも届けば

「あら、そんなにまで私のことを……」

 とこちらも盛り上がるのかもしれません。あくまでも推測だけどね。


 今の子達には信じられないほどに女子からの好き好きアプローチはできない時代だったのよね。それでも百人一首などを見ていると、恋多き女性はやっぱりいたみたい。どうやってアプローチしたのかしらね? それともいいオンナだから次々男子が言い寄ってきたのかしら?

 源氏物語にもいるのよね、女子から源氏にアプローチした人。夕顔さんがその方です。身分も不釣合いで、まさに眩しく光るような源氏の君に自分から和歌を贈ったの。自分からの押せ押せの恋愛しかしたことのない源氏くんはそりゃあ……、ときめいたでしょうね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る