topics38 ウジウジ薫宇治へゆく
第45帖 橋姫(【超訳】源氏物語episode45 若きエリートの苦悩)に寄せて
さて、宇治十帖が始まりました。まずは第三部のダブル主演のうちのひとりの薫くんです。表向きの父は准太上天皇まで位を極めた光源氏、母は元内親王の女三宮。皇族にもひけをとらない身分の高い貴族の血筋に生まれました。誰もがうっとり見惚れてしまうほどの美しい容姿に浮ついていない真面目な性格、成績優秀で仕事もバッチリ、笛を吹かせたらこれまた一流の腕前で「非の打ち所がない」カンペキ男子です。おまけに香を焚きしめていないのにいい香りがするだなんて、素敵男子の要素120%ですね。
そんなパーフェクト男子の薫くんには陰があります。
一体自分は何者?
「薫さまはホントに源氏の院さまのお子さま?」
「殿(源氏)にちっとも似ていないわよね?」
「薫さまがお生まれになった頃って殿は紫の上さまのご看病で忙しかったわよね?」
小さい頃にそんな女房達のウワサ話を聞いていたのです。
源氏の院が父じゃないなら本当の父親は誰なんだ?
母は誰と恋をしたんだ?
源氏の正室でありながら禁忌を犯したのか?
だから母は出家しているのか?
僕は生まれてきてはいけなかったんじゃないか?
周囲は源氏の息子として扱ってくれる。
でもそれは真実ではないんじゃないか?
源氏の子でないとするなら、周囲の皆の気持ちを裏切っていることになる。
源氏の子だから可愛がってくれているし、苦労なく出世もできている。
こんな華やかな暮らしをしていていいんだろうか?
恐らく僕の出生には良くないことが起きている。僕は生きているだけで罪なんじゃないか? それならば出家して今からでも悔い改めた方がいいんじゃないか?
悩めるウジウジ薫くんです。
そんなときに聞いた八の宮という人の話。
それだ! それこそ僕の理想の生き方だ!!
ぜひ会っていろいろ教えてほしい!
出家がしたくてもすぐにはできそうもない薫は八の宮の話にがぜん盛り上がります。
念願叶って八の宮に会ってみるとやはり素晴らしい人柄で寝ても覚めても八の宮の教えに薫は夢中になります。
ウジウジ薫くんの宇治通いはここから何年も続くことになります。若くて出世もしている美貌の貴公子なのに人生に冷めている薫にとって、八の宮は理想の暮らし方だったようです。出家していないけれど心は修行僧のような「
そして八の宮の宇治の山荘で出会った弁の君から自身の生い立ちの真相を薫は聞きました。やはり自分の出生には人に言えない闇があった。源氏の子ではなかった。自分は破滅的な恋の形見だった。けれどもこの先も源氏の子として生きていかなければならない。でもそれは源氏の子だということで目をかけてくれている人たちを裏切っていることになる。そうかと言って真実を明らかにすることはできない。
真実を知りえたあとも薫の闇は晴れません。やっぱり「ウジウジ」薫くんですね。
そんな薫を我が子のように可愛がっている方がいます。自宅に薫専用の部屋を用意し、薫専用の女房まで雇っています。
冷泉院です。元冷泉帝ですね。源氏と藤壺の宮の子です。そう禁断の恋の証の子です。表向きは桐壺院の子で源氏の弟となっていますが、冷泉院は自分が源氏の子だと知っています。誰にもその真実を明かしていませんが、陰ながら源氏を父と思いながら接していました。
だから冷泉院にしてみれば薫は源氏の残した子なので源氏亡き後は自分が父の代わりに大切に見守ろうと思っているんだと思います。けれどもその薫は実は源氏の子ではありません。そう、冷泉院と薫はどちらも禁忌の罪の子なんです。もちろんどちらも自分の出生の秘密は知っていても相手もまさか同じ秘密を抱えているとは思いもしません。
ですが、どちらの事情も知っている読み手にとって冷泉院が薫を特別大事にしている状況は「ううぅぅぅん、エピソードのリフレインだわ」と唸ってしまいます。
出生の真実を知ることはできたけれど、それはそれでまた思い悩むことになってしまいました。「いっそ出家したい」とまで思うくらい生きる情熱なく世を儚なんでいるウジウジ薫くんにあらまなんと恋の兆しです。
第三部の本格的な幕が上がった宇治十帖。
「恋なんかしない。出家の邪魔になるだけ」
そんなことを言っていた薫くんの恋物語がいよいよ始まるようですよ。
「ウジウジ薫くんの宇治恋」です。
☆☆☆
【超訳】源氏物語のご案内
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topics45 若きエリートの苦悩
https://kakuyomu.jp/works/1177354054881684388/episodes/1177354054886921651
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