topics37 想定外、常識外と千年続くテッパン
【超訳】源氏物語、【別冊】源氏物語をお読みくださりありがとうございます。現在物語の第二部とされる第四十一帖【幻】までの超訳を公開しました。
拙作【超訳】源氏物語ではepisode41で第四十一帖【幻】を、episode41extraとして【雲隠】をご紹介しました。
【超訳】でも書きましたが【雲隠】はタイトルのみで本文がありません。タイトルだけで源氏の死を表現した巻とされています。ですが本文がないために現在は全五十四帖に【雲隠】はカウントされていません。
千年も前の物語です。印刷技術もなく人々は書き写して物語を楽しみました。【雲隠】は本文がなくなってしまったとか、紫式部でない他の誰かが【雲隠】を足したなどさまざまな説があり本当のところはわからないようです。
でも、後に加えられたとしても、第四十一帖【幻】のラストが源氏の出家の準備で次の第四十二帖【匂兵部卿】の冒頭が「源氏が亡くなったあと……」で始まるのでやっぱり源氏の亡くなるシーンはないんですよね。
源氏物語の主人公は光源氏です。その主人公の生涯を第一帖から四十一帖までで描いてきました。その光源氏の最期をまったく描かなかったのです。
普通なら源氏の死にゆく様子を細かく描写して読み手の心をつかむと思うのですが、紫式部センセイはそれをしませんでした。
源氏の最愛の妻、紫の上の臨終シーンもシンプルに「加持祈祷の効果もなく息を引き取った」と書かれているだけでした。源氏がどのようにしていたか、何と声をかけたのか、紫の上は何を思って瞼を閉じたのか一切描写がありませんでした。
よく行間を読むとか余白で語るという表現を見聞きします。紫センセイはすべてをつぶさに実況中継するのではなくて、読み手に想像する自由を与えてくれているのでしょうか。
それにしても紫の上や源氏の最期のシーンは想定外、常識外の表現方法でした。
そんな斬新な書き方と対極にあるのが、千年後の今も通用するテッパンストーリーとも言えるエピソードです。
夕霧と雲居の雁の幼なじみのハツコイ婚が代表例ですよね。
想い合っているのに周囲の思惑で引き離され、それでもお互いを想いつづけ、やがて純粋な初恋は成就してふたりは結ばれました。国がどこでも時代がいつでも成立する「テッパン」設定で多くの人の共感を呼びますね。
源氏と末摘花のストーリーも人気者男子と地味女子のラブコメディと考えるとこれも現代のラノベや漫画にも登場する「テッパン」設定ですよね。
源氏と藤壺の宮、源氏と朧月夜などの「禁断の恋」「許されない恋」というテーマも現代でも描かれる恋です。いいか悪いか、認めるか認めないか、そんな二択の判断で簡単に語ることのできない恋に今も昔も「胸がしめつけられたり」「心がざわついたり」するのかもしれません。
紫の上を見初めて半ば強引に自宅に連れて来るエピソードは現代からすると事件性を感じなくもない「常識外」ストーリーです。けれどもその後美しく成長した彼女と結婚し、愛し愛される様子は美男美女の「王道」ラブストーリーとも言えますね。
「常識外」と誰もが共感する「テッパン」
好きな人の身代わりの人を愛する、許されない人に恋してしまう略奪愛など人を変え、リアクションを変え何度も登場する似た設定の「リフレイン」
源氏物語にはひとことで説明できないたくさんの構成が織り込まれているのですね。だからこそこれほど長い物語なのに多くの人を飽きさせないのかもしれません。
そして物語は最終章、第三部へと入ります。源氏亡きあとの物語です。
第四十二帖から第五十四帖までが第三部でこれで源氏物語は完結となります。四十二、三、四帖が「匂宮三帖」、四十五帖以降が「宇治十帖」と呼ばれます。
源氏物語の主人公の光源氏が亡くなり源氏不在の源氏物語になります。新しい主人公は源氏の子の薫と源氏の孫の匂宮のふたりです。薫は表向き源氏の子ですが、あの女三宮と柏木の不義の子です。匂宮は源氏の娘の明石の中宮の三男です。
「匂宮三帖」では薫と匂宮の紹介をしながら源氏ゆかりの人のその後が語られたり、その人たちの子孫の様子が書かれます。
波乱怒涛急転直下の展開だった第二部と比べると、とっても淡々と物語は進みます。それゆえかこの第四十二帖以降は別作者説もあるらしいです。紫式部の娘が書いたという説もあるようです。
その判定は専門家の先生方に委ねるとして、話を進めますね。
とにかく第三部は薫と匂宮、このふたりに尽きます。ふたりの恋物語です。
薫と匂宮
あさきゆめみしでは……。
女好きでとにかくチャラい匂宮
マジメでカタブツな薫
第二部までの源ちゃんポジションの匂宮と夕霧ポジションの薫といったところでしょうか。
源ちゃんと夕霧は親子関係でしたが、今回の匂宮と薫は良き友です。表向きは源氏ゆかりの親戚同士ということになっていますね。
そんな源氏亡きあとの人物紹介に費やされた「匂宮三帖」の次の「宇治十帖」からまた物語は動きます。それはまるで宇治に流れる川のごとく。
ゆるゆると穏やかに流れている上流から勢いを増してくる中流へと物語は流れ、その流れは思いもしない方向へと……。
またもや現代の小説でもおなじみのテッパン設定も登場する「宇治十帖」です。ツッコミどころも多々出てくると思います。
どうか最終章第五十四帖までお付き合いくださいね。ワタシのつぶやき(ボヤキ?吠える!?)エッセイ【別冊】にもお立ち寄りくださいね。
◇◇◇
ああ、遅くなった。久しぶりだな。俺だよ、俺。
空の彼方にあるあの世とやらへ来ちまったんだけど、物語は続いているんだと。
俺のラストが物語のラストじゃなかったのな。式部センセイも頑張るのな。
あの薫と匂宮の話らしいぜ。
あのふたりに俺の代わりが務まるかねぇ?
やつらもそれなりにイケてるけどな。オトコは中身だろう?
「死ぬほどキミに恋してる」
「いつだって俺は本気だぜ」
女の子にはいつも全力で向き合わないとな。やつら、大丈夫なんかな。
ま、俺に言えることは「愛を恵み愛に恵まれる人生を」
人を想い人に想われ豊かな人生を送って欲しい。
そんなふたりのことを俺もみんなと一緒に見守るとするよ。
じゃ、今日ちゃん、第三部も頑張れよ。【超訳】も【別冊】も楽しませてくれよな。
◇◇◇
それでは残り13巻の源氏物語を【超訳】と【別冊】でお楽しみくださいね。
☆【超訳】源氏物語のご案内
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episode42 ふたりのイケメン
https://kakuyomu.jp/works/1177354054881684388/episodes/1177354054886199626
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