☆源氏の世界 ⑦艶やかな十二単

 長い長い源氏物語。今回は物語の時代の衣装のお話でも。女性編ね。

 十二単じゅうにひとえという衣装です。おひなさまが着ていらっしゃる衣装といえばなんとなく想像がつきますか?


 日本には四季があって気候も違うし、季節季節を感じさせる花や自然があるわね。だからそんな季節の色や柄を衣装でも表したのね。千年前の女の子たちだっておしゃれはきっと好きだったはず。

 その時代の女の子たちは出かけられないから現代よりずっとずっと楽しめることは少なかったと思うの。それでも部屋から見えるお庭の四季を感じながらおしゃれを楽しむことはできたかなぁなんて想像をするのよね。


 十二単って名前はつくけれど、何も12枚の着物を着たってワケではないみたい。何枚重ねないといけないという決まりもなかったみたい。だからあれもこれもと重ねすぎて重さが20㎏にもなっちゃって動けなくなったってお話もあるくらい。でも平均して12㎏くらいの重さはあったんですって。いくらお部屋の中で動かないとはいえ、座っているだけでも疲れそうね。しかも暑そう。冬ならいいけど。


 もちろん現代と同じように正装と普段着というように衣装にも格があったの。白いひとえのお着物に袴をはきます。これを基本形とするわね。これに何枚かお着物をゆったりと羽織るのが(今でいうならコートやカーディガンっぽく?)普段着の袿姿うちきすがたね。お出かけしないお姫さまや奥さま方はこの服装だったみたい。

 そしてさっきの基本形の上に襟のグラデーションを見せながら何枚もお着物をきっちりと着こんでいくのが重袿かさねうちき(今でならノーカラーのシャツの重ね着?)で、さらにその上に唐衣からぎぬ(今でいうジャケット?)と(腰につける後ろ部分のみのチュール)をつけたのが正装となる唐衣裳からぎぬもといってこれがいわゆる十二単ね。一番格の高い正装となります。宮中でお仕えする女官たちなどがこの服装だったみたいね。源氏物語作者の紫式部センセイもこんなお衣装でお勤めしていたのね。未婚の人が着る十二単と既婚の人が着る十二単と違いがあったみたいよ。


 そしてこれらの衣装も年中同じものを着るわけではないの。もちろん気候も違うので秋冬は綿入りのものを着るし、夏は薄衣になるの。どうやらシースルーのような生地もあったみたい。わざと内側の色や柄を透けて見せたりもしてたみたいよ。おしゃれよね。それから使う色の組み合わせで季節を表したみたいなの。春の組み合わせの色、夏の組み合わせといったように。おそらくそういった衣装を見て、纏って、季節を感じたのよね。この色合わせがものすごくステキなの。ごくごく一例をご紹介。「かさね」とは着物の表の色と裏の色の組み合わせのことです。そでの内側や裾からちらっと見える裏側の色にまでこだわっています。「かさねの色目」は襟元のグラデーションです。


【春】

「襲の色目」外側から内側にかけての襟元のグラデーション

 ◇紫の匂ひ  濃紫・紫・紫・淡紫・さらに淡く・紅

 ◇山吹の匂ひ 朽葉・淡朽葉・淡朽葉・さらに淡く・黄・青

「かさね」着物の表地と裏地の組み合わせ

 ◇若草 表―淡青 裏―濃青

 ◇桜  表―白 裏―赤

 ◇紅躑躅 表ー蘇芳 裏ー薄紅

「紫の匂ひ」は藤壺の宮さまに似合いそう。

 華やかな顔立ちの紫の上には「紅躑躅」はどうかな。彼女は春のイメージ。


【夏】

「襲の色目」

 ◇藤  淡紫・淡紫・さらに淡く・白・白・白

 ◇菖蒲 青・白・紅梅・淡紅梅・白

「かさね」

 ◇葵  表―淡青 裏―紫

 ◇撫子なでしこ 表―紅 裏―淡紫

 「葵」の袿姿は花散里さまにぴったりなんじゃないかな。

 「藤」の襲の唐衣裳はどこまでも淡い源氏のお母さんの桐壺の更衣のイメージ。


【秋】

「襲の色目」

 ◇紅紅葉くれないもみじ 紅・淡朽葉・黄・濃青・淡青・紅 

 ◇青紅葉 青・淡青・黄・淡朽葉・紅・蘇芳すおう

「かさね」

 ◇紅葉 表―紅 裏―蘇枋

 ◇竜胆りんどう 表―蘇枋 裏―縹

 鮮やかな色合いの「紅紅葉」の唐衣裳は美女さんの朧月夜尚侍かな。後宮でも目立ちそう。


【冬】

「襲の色目」

 ◇雪の下 白・白・紅梅・淡紅梅・より淡く・青

 ◇梅重ね 淡紅梅・内側より淡く・紅梅・紅・濃蘇枋・濃紫

「かさね」

 ◇雪の下 表―白 裏―紅

 ◇椿   表―蘇枋 裏―紅

 赤紫色の蘇芳に紅の組み合わせの「椿」は明石の君に似合いそうかな。



 どうですか? それぞれの色の組み合わせ方にまで名前がついているの。おしゃれでしょう? そしてその命名センスには感嘆するばかり。

「あら今日のお色目は藤なのね。そうね、もう夏だものね」

「そちらのかさねは葵なのね」

 なぁんてファッションチェックしたのかしら? なんだかおしゃれで素敵! だけど……、一体何枚のお衣装を持っていなければならないのだろう。朝、衣装を用意するのだけでも大変そう。いくらお付きの女房がいても大変そう。そして着付けも大変そう。

「えっと、まず白を着て、それから白、あっそれからそこの薄い紫とって~」

「あらやだ、白一枚抜けちゃった。じゃ、この紫をいったん脱いで~」

「裏を紫にして、その上から淡青を着て……」

 タイヘンそうだけれど、楽しそう。そんな風にしておめかしするのだからみんなに見て欲しいでしょうにね。この時代の姫はお出かけしないし。あ、でもそんな風にサイコーにおしゃれして夜に恋人や夫が来てくれるのを待つのかな。綺麗に着飾ってるんだから、みんなに見て欲しいし、褒めてほしいわよね。


 それはさておき、日本古来の色使い、とっても素敵です。単に濃い淡いのグラデーションだけでなく、一番内側にグラデーションに関係ない効かせ色を持ってきたり、色合わせの参考になると思いませんか?


 今も春らしくパステルカラーを選んでみたり、夏には涼しげな色を着たり、秋にはシックな色の洋服に目がいったりするでしょう? 

 千年たった現代も季節に合わせておしゃれを楽しむ。季節の色を感じる。昔の「襲の色目」を参考にしてみる? 夏はさておき、秋冬のコーディネートなら重ね着の参考にできるかも。



追記:倉木麻衣さんのMPV「渡月橋 ~君 想ふ~」で十二単姿が見られます。総重量24㎏、総額800万円の衣装だそうです。とても綺麗ですよ。興味のある方は検索してみてくださいね。


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