☆源氏の世界 ②恋の仕方

 ①でお話したとおり、女子はお出かけできません。じゃあ、どうやって結婚するの? どうやって恋するの? って思うわよね。家の中だけじゃ出会いがないもんね。いるのは家来だけだし、まぁ今小説なんかで見られるお嬢様と執事の恋があるかどうかぐらいよね、敷地内でできる恋なんて。でもその頃は身分制社会だからね、そうはないと思うのよ。なくはないかもしれないけれどね。『源氏物語』でも山ほど恋物語は登場するけれど、家来との恋はなかったと思うわ。


 さて、本題。どうやって恋するか。男子だって女子が外に出てこないんだから出会うチャンスはないわけよ。男子は仕事に出かけるけどね。男社会よ。女子社員はいないわ、残念ながら(例外を除いて)。ボスはもちろん天皇ね。天皇や皇族の方々のご意向に従って、政治を行っていくのよ。

 そういった仕事先で友達もできるし、人付き合いも増える。そうした中で始まるのよ、噂話が。

「うちの娘がね、これが結構可愛くてね」

「いやいや、うちの娘は頭がよくて……」

「よかったらおたくの息子さんと……」

 娘を持つお父さん達はきっとこんなことを話すのよ。今と大して変わらない?


「だれそれさんの娘さん、キレ―なんだってよ」

「オレはあの人の娘さんがめっちゃいいって聞いたぜ?」

 と若い男子も噂話で盛り上がります。こっちも今と変わらないわね。

 ウワサ話は妄想話へと進展し、その子に会ってみたいなと思うようになります。他のヤツも気に入ってるみたいならそいつより先に連絡コンタクトとらないと。


 ここでひとつ注釈。キレ―だと噂をしているお嬢さんの顔を誰も見たことはありません。①の家族構成でもお話したけど、当時家族といえどもべったり一緒には暮らしません。まして年頃の娘には親とはいえ、父親は面と向かって対面もできません。手紙のやりとりをしたり、御簾みす(すだれね)越しにお話するくらい。

 でもいずれは娘を結婚させたいお父さんはそれとなく娘をアピールするわけです。この頃は家などの財産は息子ではなく、娘のものとなるのが一般的なので婿にきてもらって家系と財産を継いでほしいのです。


 さあ、じゃあ気になるその子に会ってみよう! となるんだけど、いきなり会いにもいけないのよ。そこでまずは自分の家来に探ってもらうのよ。相手の女の子のことを。家来には家来の人脈があって人づてにその女の子の家来と連絡をとるのよね。どんなお嬢さんなのか。どんな性格なのか。どんな容姿なのか。付き合っている彼氏はいるのか。口説こうとしてきているヤツはいるのか。などなど。


 さて、女の子の方の家来にもそうしたさぐりが入ってくることになるでしょ。こちらはこちらで調べるのよ。どんな家柄か。お父さんの役職は? 大体同じくらいまで出世をするだろうからね。人柄は? 見た目は? どちらも情報合戦ね。女の子側の家来(女性の場合は女房っていうの、奥さんって意味じゃないからね)がまぁ、この人ならいいんじゃないかと思えば、一家の主(姫のお父さんね)に相談したり、姫さま本人にも打診してみたりするのよ。評判の悪い男子はすでにシャットアウトね。それで気になる男子には彼の家来に「ふみ(手紙)でもどうぞ」と言ってみる。


 許可が出た男子は必死で手紙を書くのよ。まぁラブレターよね。

「噂に聞いた美しいあなたにお逢いしたいです」とか

「ちょ、キミってめっちゃキレ―だってウワサなんだけど、オレたち会わない?」とかね。


 今でもそうだけど、手紙に性格とか意外と出るでしょ。字を見れば優しいのかいい加減なのかとかね。もちろん書いてある内容も本気なのか、興味本位なのか。で、女子側は興味がなければ返事は返さない。もうちょっとお話してみてもいいかな、と思えば返事を出す。文通の始まりね。この時代だから和歌のやりとりとかもするわけよ。だから百人一首にも恋の歌が多いのかもしれないわよね。

 あなたに逢いたいです。逢いたくて逢いたくてどうにかなりそうです、とかってね。そうして何度か手紙をやりとりしてお互いが相手に好意を抱けばようやく会いましょうということになるの。また家来同士が打ち合わせをしていついつの何時になんて設定をする。あ、デートは夜ね。昼間は男子はお仕事してるし。夜に女の子の家に行く。


 家に行くっていってもピンポーンと呼び鈴をならして正門から入っていくわけじゃないのよ、これが。女の子の家来に指示してもらって裏口からこっそりその子の部屋へ忍んでいくのよね。家の人(お父さんやお母さん)もうっすら知っているけれど、見て見ぬふり。ま、そいつならいいんじゃないかと認めているからね。認めてなければそもそも手紙のやりとりはできないんだろうし。


 ようやくここで姫さまの部屋までたどりつきました。けれどすぐには会えない。というか直接顔を見ることはできないのよ。もどかしいわよね。まずは御簾みす越しの対面。お話も姫さまは直接話さず、そばにいる女房が代わりに答えるの。でまぁ、そのうち直接姫さまが答えたりして、やっとのことで直接会えることになり、仲良くなることができるのです。


 朝になる前に男子は家に帰ります。帰っても「疲れた~」と寝るわけにいかないの。後朝きぬぎぬの歌といって彼女に歌を贈ります。この歌を早く贈れば早いほど誠実さを表すんですって。

「今日のデート、めっちゃ楽しかった。また行くね(^_-)-☆」

今でいえばこんな風にLINEするカンジ?

「アタシもまた来てくれるの待ってるね~」

なんて女の子も返歌を返します。

 さて、自宅に戻った男子は夜の出来事を思い返します。そう、初めて相手の女の子の顔を見たわけです。人柄は手紙のやりとりでわかってきていただろうけれど、実物の彼女には初めて会ったわけよ。想像以上に綺麗なお姫さまもいたでしょう。残念ながらその反対も。男子は3日連続で通うことがその女の子への誠意の証とされるの。雨が降ろうが槍が降ろうが病気になろうが何が何でも3日。だから反対に

「あんま、好みじゃなかったなぁ」

「ま、ケッコンまではなぁ」

 なんていう場合は3日通わない。


 そうして3日通った翌朝に女の子のお父さんからお婿さんと認められるのです。

 ええ、3日付き合っただけで結婚です。どうなんだろね、このシステム。これもまた恋バナで話してみてね。

 公にうちの娘はどこそこのだれそれと結婚しました。うちの婿です。と公表するわけです。ここから通い婚が始まります。

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