光の闇 ~ だから俺は彷徨うんだ ~

俺は




何を探しているんだ


何を求めているんだ



帝の皇子として生まれ

父さんや母さんの愛情に包まれた


けれども俺には母さんの記憶はない

3歳のときに亡くなった

美しく可憐で

どこまでも儚く

小さな薄紫の桐の花は

後宮の愛憎の波にもみ消された



俺の容姿見た目が美しいとか

漢詩や和歌の成績デキがいいとか

琴や絵なんかも素晴らしいとか

周りはやたらと褒めてくれるが

それだって俺が皇子帝の子だからかもしれない


地位も身分も

何もかも恵まれたおぼっちゃんだと思われているだろう


そうはいっても俺は臣下に下ろされた

帝の皇子として生まれた

父さんの考え次第では東宮(皇太子)となり帝になることだって可能だったはずだ

そんな未来を考えたことがないと言えば噓になる

母さんがすでになく

その母さんの実家のチカラもないから

大勢いる皇子兄弟たちのあいだで権力争いをさせたくないからと

父さんが俺を皇族から外した


父さんは俺を愛してくれている

それはわかっている

臣下に下ろしたのだって

俺のことを想ってのことだっていうこともわかっている

そうして俺は臣下として父さんや東宮の兄さんに仕えることになった

他の兄弟たちは皇族なのに俺だけが源氏姓の臣下

藤原姓の貴族たちとも異質な立場


ひとりきりだ

俺の心に寄り添ってくれる人なんて誰もいない


元服(成人式)もして

親の決めた結婚もしたし

他に付き合っている恋人もいたけれど

やっぱり俺の心は満たされない


俺が望めばある程度のことは叶うし

俺が口説けば大抵の女の子はなびいたけれど

心はきしんでいたんだ


満たされない想いがあったんだ


心の奥にこびりついて離れないもの

いや、そこに穴があいているから

愛情や好意を注がれても

心が満たされることがない


そんな俺の心にさしこんできた光

俺の心を満たしてくれる日の光

輝く日の宮


母さんに似ていると父さんが入内じゅだい(帝の后に)させた人

俺より5歳年上の女性ひと

初めての出会いは9歳のとき

優しいその人を母のように姉のように慕った


周りは侍従や女房ばかりで友達もいない環境で

その人への親しい気持ちが恋へと変わったのは俺的には自然なことだった


だけれども


あの人だけは手に入れられない

俺の想いは叶わない


あの人は父さんの后


けれど父さんが本当に愛しているのは俺の母さんだ

その死んだ母さんに似ているからってあの人を后にしたんだ


あの人を本当に心から愛しているのは俺なんだ


なのに


どうしてこの想いを成就させてはいけないんだ?

愛しているのに

死ぬほど愛しているのに


出会ったころのように

あの光り輝く陽ざしに包まれていたい

あの人に差し上げる梅の花が咲くのを心待ちにしながら眠ったあの夜のように

あの人への想いで満たされていたい


俺の心の穴を埋めてくれるのはあの人だ

あの人が振り向いてくださったなら

あの人がお言葉をくださったなら

あの人が応えてくださったなら


想いが通じるのなら

俺はすべてを受け入れる、罪も罰も

何もかもを捨てる、地位も身分も

死んだっていい

あなたと想いが交わせるのなら




あの人と夜を過ごした

注げるだけの愛を伝えた


けれども未来はない


―― もう逢いません

―― 文もやめてください


あの人からのメッセージ


辛くなることなんてわかっていた

幸せな未来があるなんて思っていなかった


わかっていたってこの想いはせきとめられなかった


たとえ拒まれても

応えてくれなくても


これからも俺は想いつづけるんだ

あの人を


愛しつづける




そして絶望しつづける




だから俺は彷徨う


心の穴を埋めてくれる何かを


あの人の代わりに愛せる人を



俺が憧れて

焦がれてやまない

そんな存在を




求めるから彷徨う

もがくから求める

餓えるからもがく


俺は

飢えているんだ



愛に


人生に


現世うつしよのすべてに


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