topics41 愛と想い出の家

 第48帖 早蕨さわらび(【超訳】源氏物語episode48 宇治から都へ)に寄せて


「大きくなったらここに住んでね。そしてここの紅梅と桜が咲いたら眺めてあげてね」

「ときどきは仏さまにもお供えしてね」


 最愛のおばあさまである紫の上から匂宮は二条院のお屋敷を譲り受けました。

 この二条院は宮中で暮らしていた源氏が初めて独立して住んだ家です。元々はお母さんの桐壺の更衣の実家で、源氏がリフォームしました。

 少女だった紫の上が連れてこられて源氏と一緒に暮らしたのもここです。裳着をしたのも結婚したのもここでした。源氏が明石で謹慎しているときに妻として紫の上が守り、待っていた家もこの二条院でした。紫の上にとっては想い出のたくさん詰まったお屋敷で、大豪邸六条院に引っ越したあと体調を崩してしまうとこの二条院に戻ってきます。

 冒頭の台詞は二条院で療養中に一番可愛がっていた孫の匂宮に伝えたものでしたね。


「ぼくの紅梅と桜なんだよ。おばあちゃまからもらったんだよ」

「いいこと思いついた! 桜の周りに几帳を立てようよ! そうしたら桜が散らないでしょ?」


 紫の上おばあさまが亡くなった春に幼い匂宮クンはそんな風に庭の紅梅と桜のことを源氏おじいちゃんに話してあげます。聞いた源氏はまた紫の上のことを思い出して涙、涙でしたね。

 身分柄両親である帝や中宮さまとは一緒に暮らせなかったからか、匂宮はおばあさまの紫の上にとても懐いていました。

 そのおばあさまと一緒に過ごし、受け継いだ二条院に匂宮は成人してからも住み続けます。親王さまなので宮中にもお住まいはあるのですが、匂宮のお気に入りは二条院でした。

 大好きだったおばあさまから譲ってもらったお屋敷。そのおばあさまがおじいさまと愛を育んだお屋敷。自分も心から愛する人とこの二条院で過ごしたかったのかもしれませんね。その昔、源氏が紫の上を迎え入れたようにね。


 そしてとうとうめぐり逢えた理想の姫、中の君。女遊びの激しかったあの匂宮クンがパタリとどこにも通わなくなり、中宮さまお母さんの反対にも妨害にもめげずに想いつづけた中の君。匂宮クンの粘り勝ちでお母さんのお許しももらえたみたいで二条院自宅に呼び寄せることになりました。


 中の君と結婚した当初は「俺ん家近くに住むトコ用意するね」なんて言っていたけれど、自分の住んでいる二条院に迎えることに。「俺ん家近くのトコ」なら「通いどころ愛人扱い」ですものね。二条院俺ん家に住むということはれっきとした奥さまです。夕霧の娘との縁談も政略的に進んでいますが、俺が好きなのは中の君、愛しているのは中の君なんだぞ、と世間にアピールもできますね。


 一方の中の君は住み慣れた宇治を離れることで不安いっぱいです。お父さんとお姉さんを亡くした悲しみからもまだ立ち直れていません。そんな中の君は光り輝く二条院へとやってきます。匂宮クンダーリンがわざわざ車寄せ駐車場まで出向いて中の君を牛車から抱きおろしてあげます。どうやらこれは最上級の出迎え方みたいです。

「あの高貴な匂宮さまが御みずからお抱きおろしになるなんて、姫君はなんて愛されているんだろう」

 と従者たちのあいだで評判になり、

「匂宮さまぞっこんベタぼれの奥さま」

 として都中でウワサになるのです。


 中の君の部屋はもちろんのこと、女房たちの部屋まで匂宮の気配りが行き届いていたので、匂宮がどんなに中の君のことを待っていたか、どんなに愛しているかがよくわかったようです。

 それまでは

「しょせん匂宮のアイジン」

「いっときのお相手」

 くらいにしか周囲は思ってなかったけれど、

「(正式に自宅に呼んだんだから)正真正銘の奥方さまだ」

 って周りも中の君のことを認めるようです。

「あの匂宮さまがねぇ……」

 ちょっとの驚きとともにね。


 愛と想い出に溢れる二条院。

 源氏ゆかりの二条院。

 大好きなおばあさまからもらった二条院。


 におちゃんと中の君ちゃんとの新しい二条院ライフが始まりますね。

 お幸せにね。

 におちゃん、中の君ちゃんにはもうあなたしかいないんだからね。

 幸せにしてあげてね。

 お願いだからね。におちゃん……。


 宇治十帖はまだまだ続きます……。



 ☆【超訳】源氏物語のご案内

 関連するエピソードはこちら。よかったらご覧になってくださいね。


 episode48 宇治から都へ

https://kakuyomu.jp/works/1177354054881684388/episodes/1177354054886938672

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