topics47 源氏フィナーレ!

 第54帖 夢浮橋(【超訳】源氏物語episode54 これからの道)に寄せて


【別冊】ならびに【超訳】源氏物語をここまでお読みくださりありがとうございます。

 大長編源氏物語全五十四帖はいかがでしたか?


 ラストは何エンドだと思いますか?

 少なくともハッピーエンドではないでしょう?

 かといってバッドエンドとも違いますね。

 ワタシに名付けさせてもらえるのなら

「もやもやエンド」

 でしょうか?

 なんかスッキリしないでしょう?

 霧が立ちこめたような

 もやがかかったような


 源氏の父母となる桐壺帝と桐壺の更衣の恋で幕を開けた絢爛豪華な平安恋絵巻のラストはお姉ちゃんに会えずお使いから戻ってきた小君浮舟の弟の報告を聞いた薫があれやこれや思い惑うシーンでした。

 薫と浮舟も涙の再会とはならず、浮舟は自分の気持ちを押し殺し尼で居続けようとし、薫も土足で踏み込むようなことはせず、(におちゃんなら速攻乗り込んでますね)

「え? 終わり? このさきどうなるの?」

「復活するの? しないの?」

 とハッキリしないエンディング。


 初めて恋した大君と死に別れて、次に想いを寄せた妹の中の君は匂宮と結婚し、運命の女性だと愛した浮舟には裏切られ、薫の恋はどれも成就しないまま物語は終わってしまいました。

 不義密通の子ながら表向きは源氏の子として出自を偽って生きていく辛さの中で恋を知り、愛を覚えたのに報われることのなかった薫の想いでした。


「源氏物語は世の無常を語る小説」

 そう評することがあるそうです。仏教思想の無常観が根底にあるそうです。人は目の前の現実の苦しみと自分の想いのギャップに思い悩むけれど、現実から逃避するんじゃなくて現実を受け止めよう。変わりゆくもの儚さや美しさ、頼りなさが「もののあはれ感慨深さ」なんだと。


 そうかもしれないけれど、この薫くんのストーリーは可哀想で「世の無常」では語れないんじゃないかなと思います。現実を受け止めろって言ってもね。消えゆく命が儚くて、移ろいゆく人の想いが「あはれ」だと言ってもね。報われることも救われることもなかった薫くん。辛いものはツラいですよね。

 匂宮クンの自信過剰なオレ様ストーリーも「あはれ」どころじゃありませんしね。におちゃん、最後に登場したのなんて浮舟を忘れようとしてオンナ遊びを再開させたという記述ですよ。「あはれ」じゃなくて「ありゃりゃ」じゃん。

 におちゃん! こら! とっとと中の君のところに帰りなさいっ!

 一生恋してゆける理想の姫だって言ってあんた結婚したのよ?

 正室の六の君ちゃんもいるでしょうが。大事にしないと夕霧義父おとーさんに怒られるよ。

 なぁにがオンナ遊びよ。何開き直ってんのよ。そのオンナがらみで悲劇を生みだしたんでしょうが。わかっとらんの? あんた阿呆なの? 凝りてないの?


 41帖までの光源氏の物語とは「色合いの違う」宇治十帖でしたね。なんだろう、ひたすら可哀想で報われない薫とどこまでも利己的で共感しづらい匂宮。だからなのかな、42帖以降は別作者説なんてのもあるようです。真偽のほどはワタシにはわかりませんけれどね。

 源ちゃんパートでは多重恋愛が引き起こす大勢の登場キャラが並行して物語を展開させましたが、宇治十帖は薫と匂宮と宇治の三姉妹にフォーカスされていて、1巻1巻の展開が連ドラを見るようでしたよね。

「わぁ、この次はどうなるの?」

「えっ! うそ、マジ……」

 なんて思わされ、「続きは来週!To be continued!!」と言われているようでした。


 ただ浮舟視点から見ると男子に惑わされずひとりで生きていくと心に決めたエンディングでした。

 薫と匂宮、ふたりから求愛されて彼女はこころをふたつに引き裂かれるほどに苦しみました。穏やかな海のような薫、身を焦がすほど情熱的な匂宮、どちらにも惹かれました。けれどもふたりのうちのひとりを選ぶことのできなかった彼女は姿を消し、尼となりました。


「なにもかも許すから僕のところに戻ってきてほしい」

 薫からの言葉にもなびきませんでした。

 その名のとおり運命に翻弄されてばかりだった浮舟が初めて自分の意思でここにとどまると決めることができました。


 これまで大勢の女子たちが男子の思惑にばかり翻弄され続けましたが、最後に登場した浮舟が自分で生きていく道を選びました。

 恐らく薫への想いがまだ浮舟の中にあります。でも薫の元に戻ることでまた世間の波に揉まれることになる。自分も周りも不幸にしてしまうかもしれない。それに消すことのできない過ちをおかしてしまった。

 匂宮と犯した罪に対しての罰として恋い慕う薫に添う道を諦めました。

 そして罪をつぐない悔い改めるために出家して生きることにします。

 この時代、女子が男子に頼らずに意思を持って生きていくためには出家するしかなかったのかもしれませんね。


 桐壺帝と桐壺の更衣の愛から源氏が産まれ

 その源氏は藤壺の女御との恋から報われない想いを募らせ

 紫の上を愛することで心の穴を埋めようとして

 多くの女性たちにも恋の幻影を追い求め

 源氏をとりまく大勢の人がさまざまな想いや思惑の渦に翻弄され

 源氏亡きあとは薫や匂宮もまた恋の激流に飲み込まれ


 世の中とは

 人の世とは

 愛とは

 生きるとは


 女性が意思を持って自分らしく生きることが叶わなかった時代に女性の紫式部が綴りあげた大河ドラマ。

 さまざまな恋物語を通して多くの女性たちの生きる姿を描きました。


 おとぎ話のような大団円のハッピーエンドでないけれど、壮大なる平安恋絵巻の大フィナーレです。

 ただの惚れたはれた、くっついた別れたの恋愛ストーリーだけじゃない深い人間ドラマでした。


 世の中の悲哀を身にまとったような薫くん

 オレ様チャラ男のにおちゃん

 自分で生きる道を見つけた浮舟ちゃん

 におちゃんの愛妻の中の君ちゃん

 生きる気力のなかった薫くんに恋をさせた大君ちゃん


 テッパンストーリー元祖の夕くんと雁ちゃん

 恋に溺れ死んだ柏木くん

 その柏木くんに翻弄された女三宮ちゃん

 

 当時の定番? 寝室乗り込み婚の髭黒と玉鬘ちゃん


 源ちゃんの愛の証の冷泉院さま


 匂宮ちゃんママの明石中宮さま


 源ちゃんのオンナ版? 似た者同士の朧月夜サン

 源ちゃんをフッて友情を貫いた朝顔さん

 元祖シンデレラストーリー? の末摘花ちゃん

 セレブ未亡人の六条御息所サマ

 源ちゃんの青春胸キュン夕顔ちゃん

 掴めそうで掴めなかったヒトヅマ空蝉ちゃん

 夕くんママのツンツン葵さん

 心のオアシス、エバーグリーンの花散さん

 カンペキ彼女の明石さん

 永遠の憧れ藤壺の宮さま

 最愛のベターハーフ魂のかたわれ紫ちゃん


 そして千年語り継がれる主人公スーパーヒーロー源ちゃん


 源ちゃんのパパとママの桐壺帝サマ&桐壺の更衣サマ


 キャスト全員でのカーテンコール。


 ブラボー! エクセレント!!


 そして



 源ちゃんと紫ちゃんがエスコートしてセンターに登場されるのは……



 紫式部さま


 スタンディングオーベーションです。

 素晴らしい物語です。

 千年先の今も読み継がれている物語です。

 魅力的なキャラクター

 今も通用するテッパン設定

 ドキドキさせるストーリー

 憤慨せずにはいられない展開

 目に見えるような美しい情景描写

 今も変わらない人の想い

 物語の魅力がすべてつまったこの物語を今も楽しめることがワタシ達「やまとのくにの遺産」なのでしょうね。


 

  

紫式部 『源氏物語』

★★★excellent!! 千年分の星をこの作品に

愛を求め愛に彷徨うある男子の物語。

その男子をとりまく人々の物語。

悦びと嘆きの物語。

儚く美しい物語。


なぜ千年も語り継がれるのか

なぜ読み手を惹きつけるのか

あなたなりの源氏物語を見つけてください


評価の星

共感のハート

憤慨のつぶて

悲哀の涙


あなたが心に抱くものは?


やまとのくにの

やまとことばで綴られた

遙かな物語

 

これまでの千年のように

これからの千年も


消えゆく儚さを永遠に



 





 ☆【超訳】源氏物語のご案内

 関連するエピソードはこちら。よかったらご覧になってくださいね。


 episode54 これからの道

https://kakuyomu.jp/works/1177354054881684388/episodes/1177354054886938819




※ここで源氏物語全54帖は完結ですが、ぼやきエッセイ【別冊】はまだ続ける予定です。よかったらまたぼやきや遠吠え(?)にお付き合いくださいませね。


☆次回予定

源氏の世界 ⑫『源氏物語』ツアー宇治編 

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