第12話 集まる仲間たち

 紫の光を発見したあのときから数日が経過した。


 魔族による日本への侵攻は続いており、止める気配を見せない。


「小夜子ちゃん! 兵士ポーンの群れがそっちに逃げた!」

「分かった! 片付ける!」


 その日も何体もの魔族が街に押し寄せ、白昼堂々市民を襲撃していた。

 私と中川は飛翔魔法を展開し、上空から魔族を追い、それぞれの攻撃魔法で殲滅していく。市民に犠牲者が出ないようにするため、一匹も漏らすことは許されない。


「そこの小鬼ゴブリン! 待ちなさい!」


 私たち魔法少女を無視して市街地を駆け抜ける魔族たち。私は多数の光剣を召喚し、彼らへ向かって放った。


「ギギィッ!」


 光剣が体を貫通し、アスファルトへ伏していく小鬼蟲。

 それでも、何体かは私の攻撃を回避して市民の密集地へと走り続ける。


「どうして……私たちを無視するのよ!?」

「おそらく、魔族は作戦を変えてきている」

「さ、作戦?」


 私の隣に浮遊するハワドが答える。


「所詮、下級魔族では魔法少女を仕留めることはできないと判断したんだよ。だから、多少犠牲が出ても、一般市民へダメージを与えることに専念し始めた」

「それじゃ……尚更、魔族を止めなきゃ!」


 彼らの狙いは、力の無い市民へと絞られた。

 私は逃走を続ける小鬼蟲を追い、飛翔魔法を加速させる。


「当たれぇっ!」


 私は再度召喚した剣を、上空から彼らに向かって発射した。

 しかし、小鬼蟲はその小さな体を巧く使い、私の攻撃を回避する。小柄な体で放置された車両の陰や路地裏に隠れ、遮蔽物で私の攻撃を防ぐ。壁や道路に突き刺さった剣は魔法の効力を失い、煙のように消えていった。

 私の攻撃が外れたことを感知した彼らは、ケタケタと笑い声に似たような鳴き声をあげる。まるで、焦る私を煽るかのように……。


「このままじゃ……一体一体にかけられる時間は少ないのに……!」


 焦燥感が私の心を支配し、魔法の軌道が乱れる。間髪を容れずに投げ続けるも、小鬼蟲らは身軽に攻撃をかわす。


 私が彼らに気をとられている間、私の視界の外では、別の魔族が人口密集地へと足を進めようとしていた。数体の死神が屋根や屋上を飛び移り、多くの人間が避難している公共施設へ入ろうとする。

 それにようやく気付いた私は、死神たちに向かって魔法を使おうとするも、私と彼らとの距離が遠く、追尾することは不可能だった。


「し、しまった!」


 そのとき――


「凍れ! 魔族たち!」


 突如、天空から巨大な氷柱つららの雨が死神に向かって降り注ぐ。


「グオォォォッ!」


 氷柱が全身に突き刺さった死神は痛みで悶え、その場に倒れ込んだ。さらに、氷柱が突き刺さった部分を中心に氷が広がり、死神へダメージを与えていく。

 その氷柱に突き刺さったが最後、死神はあっという間に氷漬けとなり、絶命した。


「これも……魔法なの?」


 私は氷柱が降り始めた上空を見た。


 そこに、私と同じ白い衣を着た少女が浮いている。


「あなたも魔法少女で……人々を守っているんですよね!?」


 空に佇む少女が私に尋ねた。


「ええ……そうだけど……」

「私も魔法少女です! 魔族討伐に、私も協力させてください!」


     * * *


 このような調子で、私と中川の周囲には魔法少女が増え始めた。

 魔族からの防衛戦を繰り返す毎に、人々を守りたい魔法少女が加勢してくれたのだ。

 最初は私と中川の2人だけだったのが、3人となり、5人となり、10人となり、徐々に数を増やしていく。

 それによって、より充実した殲滅作戦を組めるようになった。迫り来る魔族を効率よく倒し、人口密集地へ辿り着く前に撤退させる。


 順調に見えた防衛戦だが、魔族もそれに対抗するように戦術・戦略を発達させていたのだ。


     * * *


 仲間が増え始めて2週間ほど経過した。

 敵が市民を狙おうとする手は休まず、昼夜問わずに魔族が送り込まれている。


 こうした苦しい状況を打開するため、私たち魔法少女と彼女たちの契約妖精は拠点としているホテルのラウンジに集合し、こちらから攻撃する計画を立てたのだ。

 そのラウンジの中央でハワドは大きな地図を広げ、赤色サインペンで地図に印を付ける。


「敵の出現頻度や数からして……おそらく、この近くに小鬼蟲戦車ゴブリン・セクト・ルークが複数体陣取っている」


 魔族侵攻の中で頻繁に出現する小鬼蟲ゴブリン・セクト

 また新たな名前が登場した。


「また小鬼蟲ゴブリン・セクトの仲間? 今度はどんなヤツなのよ?」

戦車ルークは他のヤツに比べて、かなり特殊だ。他の小鬼蟲ゴブリン・セクトの運搬・転送手段を兼ね備えている」

「運搬……? 転送……?」

「つまり、遠くから仲間をワープで呼び出すことができる」

「そんな敵もいるのね……」


 この会話で魔法少女たちに動揺が走った。

 ワープで仲間を呼び出す――つまり、その戦車ルークを撃破しない限り、永遠に敵が近くまで運ばれてくるということだ。


 魔法少女たちは日々の防衛戦闘で、精神的にかなり辛い状態にあった。市民の犠牲者は日が過ぎるごとに増えていき、それが彼女たちの心に重く圧しかかる。

 無残に裂かれ、食われる市民と、彼らの散らかった死体。

 嫌でもそれを見続けなければならない状況に置かれている私たち。

 ここに集まっている魔法少女の中に、明るい表情をしている者は誰一人いない。それは、あの中川も例外ではなかった。出会った頃は明るく振舞っていた彼女だが、顔に不安が滲み出ているような気がする。

 みんな、こんな戦いは早く終わって欲しいと願っているはずだ。


 少しでも敵の襲撃回数を減らすために、この魔族の撃破は必須だった。


「早く……ここの戦車ルークを倒しましょう……」


     * * *


 こうして、私たちは小鬼蟲戦車の撃破に向けて作戦を開始することになった。人口密集地防衛のため数人を拠点に残し、多くのメンバーがその作戦へ参加した。


 その戦いが、熾烈を極める戦いになるとも知らずに……。

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