第14話 崩壊する絆と失う尊敬
「何あれ……見たことのない形になってる」
仲間の召喚時、背中に瘤のようなものが形成され、それが召喚した仲間へと変化させる能力を持っている。
その背中に、新たな形の魔族が生まれようとしていた。
人間の大人と同じフォルム。
エメラルド色に光る複眼。
全身に張り巡らされた、黒光りする筋肉。
背中の甲殻はマントのような形状をしている。
そして手には、先端が鋭利な刃物になっている黒い槍が握られていた。
その姿が、私にあるものを連想させる。
「――
それは
戦車による騎士の召喚が完了すると同時に、それは脚の発達した筋肉を使い、戦車と応戦する魔法少女目がけて高く跳躍する。
騎士は空中で槍を突き出す体勢になり、仲間の少女に向かって襲いかかった。
「に、逃げて!」
ドスッ!
私の警告も虚しく、仲間の胸に騎士の黒い槍が突き刺さる。
刺された少女は何が起きたのか分からないような、驚いた表情をしたまま硬直していた。口から血液がゴボゴボと音を立てながら溢れ、魔法少女の白い衣が一気に赤く染まる。
「う……嘘……!」
騎士は空中で彼女の腹部を蹴って強引に槍を引き抜く。
蹴られた少女は飛翔魔法を失い、地面へと落ちていった。
「よくも……やりやがったなぁ!」
落ちた少女と共闘していた仲間が声を荒げる。
仲間を失ったことで怒りに我を忘れた彼女は攻撃魔法を展開し、騎士へ放った。彼女の魔法によって形成された氷柱の雨が騎士に降り注ぐ。
「キュオオォォッ!」
氷柱が突き刺さり、悲鳴を上げる騎士。
刺さった部分から徐々に体が凍りつき、その動きは徐々に鈍っていく。
少女は敵に止めを刺すため敵の近くに降り立った。
彼女の手に握られているのは氷で作られたサーベル。
サーベルの柄の部分を強く握り、騎士へ刃を突き刺す構えをした。
「これで……終わりよ!」
仲間を殺された怒りで彼女の心は騎士への殺意に支配されていた。
私は彼女に向かって「迂闊に近寄ってはダメ」と叫んだと思う。
しかし私の声は彼女に届かず、少女は攻撃の構えを崩さなかった。
そして刃先が騎士に届く瞬間、命の危険を察知した騎士の複眼が一気に輝きを増す。
ドオォォォン!
「……えっ」
周囲に広がる轟音。
体全体に圧し掛かる熱気。
激しい閃光。
その突然の出来事に私の頭は理解が追いつかなかった。
騎士が自ら爆発して仲間の少女を巻き込んで命を絶った――そう認識するには数十秒の時間がかかった。
* * *
それからのことはあまり覚えていない。
残る小鬼蟲戦車を倒し、私たちは拠点とするホテルへ戻ってきた。
どうやって戻ってきたのかは、あまり記憶に無い。気が付けば、ホテルの個室ベッドに横たわっていた。
残るもう一体の戦車さえ倒せば、この戦闘は終わりだ。
最初の一体と同じ要領で、もう一体撃破すればいい。
そんな風に自分の中で安堵していた部分があったのかもしれない。
魔法少女の犠牲。
その事実が心の中に重く圧し掛かる。
これまで非力な一般人の犠牲は何度か経験していた。一般人は私たちよりも圧倒的に多く力もほとんど無いため、全ての人間を守りぬくことはできないという諦めがつく。
守れなかったのは誰のせいでもない。そうした考え方をすることで、罪悪感や無力感から自分の心を守っていたのだ。
しかし、魔法少女の犠牲は初めてだ。
今回の作戦で2人死んだ。
これはつまり魔法少女が魔族に敗北したことを示していた。魔族は確実に私たちのことを研究し、殺しにかかっている。
今回の小鬼蟲騎士が送り込まれてきたのも彼らの研究の成果だろう。実際、魔法少女が倒されてしまった。このデータを基にして次はさらなる脅威を送り込んでくる可能性が高い。
次に死ぬのは私かもしれない。
今回の犠牲が出たことでそうした不安が一気に仲間内で広まった。みんな顔色が悪く、誰一人として明るい話題を口に出すものはいない。拠点としているホテル内のムードは最悪だ。
それに加え、私は自分の無力さを責めていた。
戦車殲滅作戦のリーダーを務めていたのは私である。自らリーダーに立候補したわけではないが、魔法少女に犠牲が出たとなると私への責任は大きい。
『あなたの采配が悪かったせいで、仲間が死んだのよ』
そんなことを言われるのが恐かった。
当時は戦闘が激しく、落ち着いて指揮を執る余裕など無かっただろう。ハワドや中川は「今回は誰のせいでもないよ」と言ってくれたが、口に出さないだけでみんな私のことを心の中で責めているのかもしれない。
* * *
深夜みんなが寝静まった頃、私は自室をこっそりと抜け出した。なかなか眠りに就くことができず、夜の街でも散策して気を紛らわせようと思ったのだ。
みんなと顔を合わせるのが恐い。
私は仲間に会わないかとビクビクしながら暗い廊下を歩き、ひんやりとした空気の中、出口を目指す。
そのとき――
「小夜子ちゃん?」
不意に背後から名前を呼ばれた。
私の体は恐怖で硬直し、振り向くことができなかった。
「どこ行くの? 小夜子ちゃん?」
中川の声だ。
彼女は私の前に立つと、表情を覗き込んできた。
「……どうしたの? 小夜子ちゃん、恐い顔してるよ?」
「ちょ、ちょっと外の空気でも吸いたいな、と思って……」
「ふぅん……」
すると中川は私の腰へ手を回し、胸部に自分の顔を埋めてきた。
「え……あの……中川さん?」
「小夜子ちゃん、話したいことがあるんだけど……いい?」
「べ、別にいいけど……」
中川が私に話したいこと?
まさか、今回の私の采配についてだろうか?
そんなことを考え、私は身構えた。手が震え、冷や汗が首筋を伝う。
しかし、彼女の口から出たのは意外な言葉だった。
「アタシね……小夜子ちゃんが欲しい」
「え……?」
次の瞬間、中川は私の唇に、自分の唇を重ねてきたのだ。
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