第13話 戦車要塞攻略戦

「あの倒れたビル群を抜けた向こうに、戦車ルークが陣取っている可能性が高いわ」


 ホテルでの作戦会議後、私たち魔法少女と契約妖精は小鬼蟲戦車ゴブリン・セクト・ルークの殲滅作戦を実行に移した。


 晴れた日の正午、私たちは飛翔魔法で一斉に飛び立ち、敵が構えているとされるポイントへ直行する。

 魔法少女たちの先頭で飛行するのは、私だ。

 私は集まった魔法少女の中で一番年上であり「落ち着いていて、リーダーらしい雰囲気がある」という理由で任された。

 まぁ、所詮子ども同士のリーダー選考なんてこんなもんだろう。


 私たちが向かっているポイントは日本国内で、すでに魔族の支配領域となった場所だ。自衛隊が奪還作戦を行ったらしいが、返り討ちに遭い、基地を放棄しなければならない状況まで追い込まれたという。

 元々その地域は高層ビルの並ぶ大企業が集まるビジネス街だった。

 しかし現在は高層ビルが倒され、それが巨大な壁となって要塞と化しているようだ。魔族がそこを支配地域に置いたのは大企業のオフィスを襲撃して経済を停滞させることが目的だったのだろう。もしかするとビル群を倒して要塞建設の材料にすることまで計画していたのかもしれない。

 とにかく、魔族内部には恐ろしいほど頭のいい敵がいるのは間違いないのだ。


 こちらの動向だって彼らに読まれている可能性がある。

 これが罠である可能性も高い。


「みんな、魔法による対空砲火があるかもしれないから気を付けて!」

「はい!」


 私の注意喚起に、後方を飛ぶ仲間が応えた。


 目標の倒れたビル群との距離は徐々に縮まっていく。それとともに魔族の気配も強くなっていった。

 これまでに感じたことのないほど、たくさんの気配がそこに蠢いている。


 そして私たちはビル群の上空に差しかかった。

 自衛隊の奪還作戦の跡だろうか。私たちの真下に横転した戦車や黒焦げになった装甲車が見える。あちこちに散らかる薬莢や血痕からして激しい戦闘が行われたのだろう。


 もうすぐで、ビル群を抜ける。


 魔族の気配が強まる。


 そのときだ。


 ゴォォォォッ!


「み、みんな! 避けてっ!」


 突如、私たちの真下から炎魔法によって形成された火球が上がってきたのだ。

 その数、1つや2つではない。

 200以上の巨大な火球が、魔法少女目掛けて放たれたのだ。


「きゃあっ!」

「あああっ! 熱いッ!」


 その逃げ場の無い攻撃に、仲間が被弾する。

 魔族による対空砲火。地上では何体もの小鬼蟲僧侶ゴブリン・セクト・ビショップが私たちを見上げていた。彼らがこの火球を放ったに違いない。

 その中に混じって体長10メートルほどの黄金虫コガネムシのようなモンスターが2体いるのが確認できる。おそらくあれが戦車ルークだろう。


「とにかく、下の魔族に向かって魔法を撃つのよ!」


 私は対空砲火を避けつつ一斉に召喚できるだけの光剣を作り出し、魔族の群れに向かって発射する。


 ブジャァッ!


「キュイイィィッ!」


 敵の頭上に剣の雨が降り注ぎ、魔族の黒ずんだ血液が周囲を染めた。私の攻撃で多くの僧侶ビショップが絶命し、作り出される火球は減少する。


「さぁ、アタシたちも小夜子ちゃんに続いて魔法を撃ちまくるのよ!」


 私の後方を飛ぶ中川が声を張り上げた。その号令に背中を押され、回避に専念していた仲間の少女たちも魔法を放ち始める。

 高威力の魔法の撃ち合い。

 すでにそこは魔法を持たない人間が入ることが不可能な、人智を越えた戦場となっていた。


戦車ルークさえ、倒せば……!」


 今回の目的はそこにいる魔族を全滅させることではない。

 小鬼蟲ゴブリン・セクトを呼び出す戦車ルークさえ無力化すれば目標達成となる。


 だが敵も一筋縄では落ちない。

 多くの小鬼蟲ゴブリン・セクト戦車ルークを取り囲み、自身の肉体を盾として親玉を守っていたのだ。


「邪魔よ!」


 魔法を展開しても、光剣は戦車ルークへ当たる前に周りを囲む雑魚に命中する。庇った仲間が地面へ伏すと、別の敵がそこに立って親玉を守った。


 さらに戦車ルークは自身の危険を察知したのか、背中に描かれている魔法陣のような模様を光らせ始めた。その瞬間、戦車ルークの背中が瘤のように盛り上がり、小鬼蟲兵士ゴブリン・セクト・ポーンの形となって体から離れる。

 背中から新手の魔族を呼び出したのだ。


「このままじゃ……キリがない!」


 そのとき――


 ゴオォォォッ!


 戦車の足元から巨大な火柱が噴出した。その炎は戦車ルークを包み込み、周囲の兵士ポーンを上空へ吹き飛ばす。

 その火柱は中川の魔法だった。彼女は私のすぐ横に現れ、私の顔を覗き込んだ。


「小夜子ちゃん! 援護するよ!」

「ありがとう、中川さん!」

「早く、小夜子ちゃん、戦車にとどめを!」


 炎に包まれた戦車ルークに視線を戻すと、それはまだ絶命していなかった。姿勢を保ち、自身を安全な場所へ避難させようと脚が動く。


 中川さんの魔法を喰らっても生きているなんて……!


 戦車の生命力に驚愕しつつも、私は自分の魔法を展開した。


「終わりよ! 戦車ルーク!」


 その戦車に、私の魔法から庇ってくれる護衛はもういない。体の軽い兵士ポーンは中川の魔法によって吹き飛ばされ、灰と化した。

 戦車ルークは新たに味方の召喚を試みているようだが、自身に纏わり付く炎が邪魔をしてうまく形成できないようだ。


 ドスッ……!


 戦車ルークの頭部に、私の光剣が深々と突き刺さる。私は確実に止めを刺すため、さらに数本の剣を頭部へと刺し込んだ。傷口からは炎魔法によって煮えた血液が噴出し、脳漿が溢れ出る。


 ドサッ……!


 頭部が針山のようになった戦車は動きを止め、その巨躯はようやく地面へ伏した。

 再び動き出す気配は感じられない。轟々と音を立てて燃えていく。


 戦車は絶命したのだ。


「やった!」

「安心するのはまだ早いわ、中川さん! まだ、もう一体残ってる!」


 上空から確認できた戦車は2体。倒れたビルによって囲まれたこの要塞に、まだ倒すべき敵が残っている。その敵を撃破するまで、油断はできない。


「いた! あそこ!」


 中川が指差す先に、別の戦車がいた。先程と同じように、多くの小鬼蟲に守られており、その壁を崩そうと、他の魔法少女たちが応戦している。

 その戦車と戦う彼女たちも、苦戦しているようだ。次々と戦車の背中から召喚される肉体の壁に阻まれ、本体に魔法が届いていない。


「私たちも加勢するわよ、中川さん!」

「分かった!」


 私と中川は飛翔魔法の出力を一気に強め、彼女らの元へ向かう。


 そのとき、私の目は捉えていた。

 残った戦車の背中が、これまで見たことが無い形へと変化しているのを……。

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