第15話 彼女の本性を知る

「アタシね……最初見たときから、小夜子ちゃんのことが好きだったんだ。スタイルも抜群だし、仕草も可愛いし……」


 中川は私の体と自分の体を密着させながら、甘い声で囁いた。

 両手で私を壁に押し付け、頬同士を擦る。


「中川さん……あなたは……」

「アタシはさ、みんなの前じゃ元気キャラみたいに振舞ってるけど、本当はそんなんじゃないんだ……すごく根暗で、好きな子にもなかなか告白できないようなウジウジした女子高生だったんだよ」

「え……」

「でもさ、今日の戦いを終えて、『魔法少女も死んじゃうんだ』なんて考えたら、『やっぱり告白しておかないと絶対後悔する』と思ってね、勇気を出して言ってみたんだよ?」


 彼女の大胆な告白に、私はどう反応してよいのか分からなかった。

 私の中で築かれていた中川へのイメージが一気に崩れ、頭が真っ白になっていく。


「好きだよ……小夜子ちゃん」

「う、うん……」

「だから、最後まで生き延びようね」

「うん……」


     * * *


 その後、私は中川の部屋へほぼ強引に連れて来られた。


 正直、女の子同士の行為に興味はなかったが、それでも私は彼女に応じたのだ。


 ――それが彼女の心の支えになれば、それでいいと思って。


     * * *


 気が付けば、彼女の部屋に連れ込まれてから数時間が経過していた。ベッドから体を起こして時刻を確認すると、ベッドの横に置かれたデジタル時計は朝の4時を示していた。


「……中川さん?」

「……」


 彼女は私の横で眠っている。昨夜の行為で疲れ果てたのか、少し揺すってみても起きる気配を見せない。

 彼女が深い眠りに就く一方、私はあまり睡眠をとることができなかった。

 昨日の魔法少女の犠牲や行為のことが強く頭に残り、今も心が落ち着かない。こんな時間に目覚めてしまったのも、それが原因だろう。


「それじゃあ、帰るね、中川さん」

「……」


 私は彼女を起こさないよう、こっそりと部屋を退出した。












     * * *


 一方、私の知らないところでも、事態は深刻になっていた。


「ところで、お前らが契約した魔法少女の様子はどうなってる?」

「ダメだぁ。ウチのヤツは精神がもうボロボロだよ」


 日の出が近づく頃、契約妖精たちだけがホテルのラウンジに集い、少女たちに極秘で状況報告が行われていた。

 犬や猫、兎などのぬいぐるみのような姿をした契約妖精たちが一本の蝋燭を囲み、薄暗い部屋の中で、互いが得た情報を交換していく。


「ウチのヤツは毎晩悪夢を見てうなされてる」

「こっちも似たような症状が出ているよ」

「やっぱり、魔法少女になって強い力を得ても精神は子どものままだから、強い刺激には精神を崩壊させられちゃう」

「みんな、PTSDか」

「無理もないよ。人が死ぬところをたくさん見てきちゃったし。しかも、食われたり、八つ裂きにされたりする残酷な場面を……」

「それに、今回の戦闘で一緒に戦う仲間も失った。今後、みんなの心の病は悪化するだろうな」

「うん……」


 黙り込む一同。

 彼ら妖精たちは、ここまで戦況が悪化するとは考えていなかったのだ。予想以上に激しい戦闘を強いられ、彼らも少女たちと同様に希望を見出せずにいたのである。


「ところで、ハワド。お前の相棒の小夜子の様子はどうなんだ?」

「え?」

「小夜子、今回の作戦でかなり参っていたみたいだけど、もう精神的に限界なんじゃないか?」

「アイツは……精神的な限界ならとっくに迎えている。それでも弱みをあんまり見せないのは、年長者とかリーダーとしての責任があるからだと思う」

「そうか……」

「アイツは魔法少女になる前から辛い経験をしてる。だから本当は……もうアイツをどこか安全な場所で休ませたいんだ」

「ハワド……お前、彼女のことを……」

「この戦いが終わったら、すぐに魔法少女を辞めさせて、ちゃんとカウンセリングを受けさせて、のんびり暮らさせる。それが今の目標かな」

「なかなか良い将来設計だと思うよ」







     * * *


 一通り妖精による少女たちの状況報告が終了し、会議は終了しようとしていた。


 そのときである。


「あの……」

「ん? どうした?」


 妖精の内の一匹が小さく手を上げた。


「天界からの通信による情報で、まだ確定したわけじゃないんですけど、一応、報告したいことがあって……」

「何だ?」


 妖精は、天界から聞いた噂話を口に出す。


蠅の王ベルゼブブ刈者リーパーが動いている――らしいです」

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