第4章 退廃した戦蠅
第28話 紫光の急襲
「
太平洋上。
海面を飛ぶ私たちの遥か上空から、紫の流星、
強大な殺意の塊の接近に、魔法少女の魔族感知能力は私に「逃げろ」と警告した。しかし、
「ここでどうにか処理するしかねぇ!」
「分かってる」
かつての決戦では私の光剣も中川の炎も、ヤツの
急速に距離を詰めてくる紫光。
それに伴って、光に隠された姿も明らかになってくる。黒い甲殻に覆われた人間の形。巨大な目玉が私を捉えていた。
魔法少女の強化された動体視力を以ってしても、今の私では動きを追うのがやっとだ。
前回の戦闘経験を活かして攻防をしていくしかないだろう。
「くっ……!」
振り下ろされる鋭利な爪。
うまく避けられたのは、勘だった。
どんなに不規則な動きをしていても、狙ってくる場所は変わらない。
爪は胸に当たる数ミリ手前を通過した。
次は首を狙ってきた。飛翔魔法を全開にして、後方へ回避。
何となく避け方は分かってきた。
あのときに死んでいった仲間と、私の受けた痛みが教えてくれる。
こういう動きは、こうやって回避すればいい――と。
そんな私の状況を理解したのか、
「まだ抵抗を続ケるつもリか、魔法少女よ」
しかし、私は緊張状態で答えることができず、無言を貫く。
「……」
「貴様を知ってイるぞ。どこかで見た」
「……」
「こウやってワタシの攻撃を回避でキているのも、今の戦術をそのときに見られたからだろうな」
そう言った瞬間、
「――ならば、ワタシの見セていない戦術で仕留めるマでだ」
漆黒の槍。
それが
「ハアアアッ!」
槍による乱舞を繰り出しながらの急接近。
私は光剣を召喚し、防御体勢に入った。
バギィン!
光剣と黒槍の衝突。
やはり、魔法同士ならば攻撃は打ち消せるようだ。私へと放たれた槍は剣によって防御され、そこで動きが止まる。
ただ、こちらの光剣は防御にしか使えない。
「ふむ、やはり貴様の魔法を知っているぞ。何十年も前に見た」
「くっ……」
バギィン!
再度、敵は槍による乱舞を開始。
召喚した光剣は立て続けに破壊され、私は剣を遮蔽物として後退せざるを得ない。攻撃スピードも、光剣の召喚速度を遥かに上回っている。
私は飛翔魔法を使って猛スピードで後退するも、敵もそれに追い付いて来た。一瞬も目が離せない槍の動き。
空中には私が飛翔魔法で放出する光の粒子と敵の闇魔法粒子が軌道を描き、ケミカルライトを振った直後のように美しく輝いていただろう。海面には光剣のキラキラとした破片が降り注ぎ、季節外れの雪のような状態だった。
「小夜子、このままじゃ勝ち目が……!」
「分かってる!」
一方的にこちらが攻撃を受ける展開。
このままでは私の方が先に魔力が尽きて殺される。
――だから、私は賭けに出ることにした。
「ハワド、ごめん、付いて来て!」
「え!?」
私はハワドの腕を掴み、一気に急降下した。
目の前には海面。
――水中戦。
これならどうだろうか。敵の高速飛翔能力は羽の振動によって生まれている。水中に持ち込めば水の抵抗によって敵の能力の低下が期待できるのではないか。
ヤツはでかくなった羽虫だ。バケツの水面に浮かぶ蠅や蚊の死体のように、ヤツも水中には潜れないのではないか――と。
ザッパアアアン!
私は飛翔魔法の速度を最大にした状態で、一気に海面へ頭から突っ込んだ。水中での抵抗を少なくするため、ハワドを抱きかかえて私の体に密着させる。彼は苦しいのか、私の腕の中でジタバタ暴れていた。ごめんね、ハワド。いきなりこんなことを考え付いちゃって……。
海中は沈没した戦艦だらけだ。おまけに水の透明度もあまり高くない。水中から見える海面も荒れていて、空中の様子を窺うことは不可能。乱雑に屈折した光が海中に届く。
だが、相手の姿を捉えられないのは敵も同じはずだ。
私が考えたとおり、ヤツは水中が苦手なのだろう。
潜水したままこの海域を離れれば、ヤツを撒けるかもしれない。こちらの移動速度はかなり下がっているが、敵から見えなければ問題ない。
そう考えたとき――
ザッパァァン……!
私のすぐ近くの海面。
そこから海底へに何かが落ちてくる。
まさか、敵だろうか。
私は視界の悪い状態でどうにか目を凝らして、落ちたそれが何なのか認識しようとする。
そして、ぼんやりと見えた。
あれは……棒?
いや、違う。
あれは……
どうして槍だけを落としたのだろうか。
敵を見失って、要らなくなったから捨てた?
そんなことを憶測しながら、ゆっくりと海底へ沈んでいくそれを見つめていた。
しかし、本来はそこを早く離れるべきだったと思う。
ゆっくりと沈んでいく黒槍。
そして――
カツン!
槍が海底に接触した瞬間――
ドオオオオオオオオン!
槍は闇魔法粒子を一気に放出し、海底で大爆発を引き起こしたのだった。
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