第46話 加勢部隊
「もう貴様に魔王の役割を任せるのには飽き飽きしていた。これからはワタシがこの世界の舵を取らせてもらう、
「
あれは一体……?
私は目の前で起きている状況を理解できず、口を開けて停止していた。
そんな私に、横たわる蟻兵が顔を向ける。
「小夜子さん、あなたはここから逃げなさい」
「えっ」
「
蠅の王に与えられた一撃が致命傷になったのか、蟻兵はその場に動かなくなった。ようやく話が通じる魔族に出会えたと思ったのに。
自分たち種族を脅威から守る。
生まれも育ちも種族も違う蟻兵だったが、そこだけは私と共感できていた。私も魔族サイドに生まれていたら、あんな風になっていたのかもしれない。魔族に対して湧いていた殺意も、不思議と彼女の前では治まっていた。
蟻兵の死。どこか悲しみに似た感情が私の心の奥で渦巻く。
「これが気になるカ、そこにいる元人間の醜い小娘ヨ」
「あなたは、彼女に何をしたの?」
「我々魔族の主導権ヲ強奪させてもらった。この『皇蜂の紋章』を持ツ者には『魔王』の称号が与えらレ、兵を自由に動かすことができるのダ」
そんな道具があるのか。
蟻兵は私に向けて「『皇蜂の紋章』が効かない」と言っていた。おそらく、私には何らかの理由で紋章の効果が現れなかったため、戦闘に移行したのだろう。
「……蟻兵は仲間じゃなかったの?」
「こいツのような甘い考えの仲間なド必要ないからだ」
その瞬間――
「グオオオオオオオッ!」
周辺から一斉に死神の咆哮が響く。
先程、私が全滅させた死神だが、別の群れが集合してきたらしい。荒野のどこまでも広がる蠢く海が、私と
「さァ、魔族同志諸君! 集まってきたカァ!」
「グオオオオオッ!」
「今からワタシがリーダーとなり、この世界を制圧スる! 長らく続いてきた戦争に決着をつけるときが来タ! 人類も妖精も打ち滅ぼし、我が手中に収めるのダァ!」
「グオオオオオオッ!」
高らかな声が死神たちを煽ると、それに返すように彼らは咆哮を上げる。
新魔王誕生の瞬間だった。
そこは私にとって絶望的な状況だ。
目の前に集まっている死神は数万体はいる。今まで相手にしたことのない巨大な群れだ。
対話できそうだった蟻兵はもうこの世にいない。彼女との戦いで4枚あった
そして、一番の問題点は
しかし――
「ダメ……これ以上、人間を傷付けさせたりはしない」
それでも私は剣を構える。
このまま
まだ生きたいと願っている人間はたくさんいるはずだ。かつての私と同じように。
彼らの命を無駄に奪わせたくない。私が体感したあの恐怖を、彼らに味わってほしくない。
「何年も前から続く貴様との因縁も、これでお仕舞いだ」
「そうだったわね。あなたとはずっと前から互いを知っていた気がする」
今から何十年も前、
市民を守るために集まっていた魔法少女たちを全滅させられたのが、彼との出会いだった。彼のせいで友人だった
次に会ったときは海上で、どうにか撤退させた。前回の経験から攻撃を凌ぎ、別の戦闘手段に切り替えさせたのが勝利の要因だったと思う。
そして今。
最初の出会いから、互いの姿はかなり変わった。
私は魔法少女であることを捨て、強大な力を手に入れるため魔族になった。
「私もこの因縁を終わらせたいことに賛成ね」
私は
だから、剣となった
しかし――
ドスッ!
「強力な戦車はな、それをカバーできる歩兵ガいるからこソ真価を発揮できる」
「そんな……」
「貴様ガ蟻兵とノ戦いで
私が向かわせた
その攻撃は死神の肉壁によって防がれた。何千体もの死神が瞬時に巨躯を覆い、肉の装甲を形成していたのだ。敵は表面が動く山と化し、さらに外見のおぞましさが増す。
これによって刃の威力は削がれ、奥まで攻撃が通らない。反魔法コーティングを剥がせても、光剣が届かない。先程までは死神を体ごと軽く裂いていた刃が、皮膚を傷付ける程度に能力が落ちている。
「じゃあ、これなら……!」
私は何万本もの光剣を召喚し、敵本体を覆う死神に向けて発射した。これで一気に大量の死神を殺し、肉の壁に大穴を開ける作戦だ。
そのとき――
キュオオオオオオオン!
運よく何本かは死神に到達した。しかし、覆っている死神を殺しても、すぐに別の死神がそこをカバーする。補充される死神を殺そうにも、数が多すぎる上にビームによって妨害された。
「そんな……」
私の攻撃は完全に殺され、現状有効な対抗手段がない。
詰みだ。
呆然と立ち尽くす私に、死神の群れが迫っている。
このまま私は
人間に戻る夢を捨てて、魔法少女であることも捨てたのに、結局何も成すことができない。
これじゃ……!
「何も意味がないじゃない!」
悔しさで唇を噛み締める。拳がわなわなと震えた。
「どうシた? ワタシを倒すんジゃなかったのかァ!?」
騎兵が煽ってくる。
うるさい。
「なかなか壊しガいのある小娘だと思っていたが、ワタシの期待外レか」
キュイイイイイイ!
「これで終わりだ、魔法少女ォォォォォッ!」
それが発射される寸前――
ギュオオオオオオオオオオオン!
「ぐおおおおおっ!?」
「な、何! この攻撃!」
強烈な閃光。凄まじい熱気。
突如どこか遠くから発射された魔法粒子ビームが、
これは間違いなく別の魔族が放った攻撃だ。
さらにその粒子ビームは放つ方角を変え、私を囲む死神たちに向けられた。六角形の反射板らしきものが宙を漂い、それに当てられたビームはあらゆる方向へ拡散する。直径何メートルもある光の束は次々と死神を飲み込み、荒野を一瞬で焦土に変えていく。
「く、くそォ! ワタシの護衛がァ!」
大量消失した死神。これによって
誰かが私へ加勢している。
私に敵本体へ攻撃する機会を与えてくれたのだ。
「まさか、この攻撃って……!」
私はそのビームの出所を見つめた。
観覧車のような魔力ジェネレーターの頂上。
紫の蝶羽。
重火器のような魔法武器。
そこに、私の親友だった少女がいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます