第8話 全てを切り裂く光剣
大丈夫、これだけ威力のある魔法なら……!
私は両手に光剣を召喚し、死神を統率する魔族、
「うらぁっ!」
私は光剣を敵に向かって投げつけた。剣は私がイメージしたとおりの軌道を描き、黒い巨人へと飛んでいく。
ガギィィン!
大量の火花を散らし、巨人の甲殻を貫く剣。しかし、剣一本が突き刺さった程度では大したダメージは与えられていない。
「グオォォォッ!」
上げた咆哮は地を揺るがし、大気を震わせた。咆哮は衝撃波となり、私の全身をビリビリとした感覚が襲う。甲虫頭は自身に突き刺さる剣を引き抜きもせず、私に向かって走ってきた。
「小夜子! 距離を取るんだ!」
「分かってる!」
私は飛翔魔法で後退しながら、手の中に別の剣を再度召喚する。
一方、甲虫頭は真っ直ぐ私へと迫っていた。散乱する乗り捨てられた車を踏み潰し、信号機すらも吹き飛ばす。
「当たれぇっ!」
召喚した剣を何本も投げて突き刺すも、甲虫頭の勢いは衰退しない。巨人は体の奥から湧き出る魔法少女への敵意と殺意を力に変換し、私のもとへ走り続ける。すでに巨人の胸板は何本もの剣が突き刺り、生け花の剣山のようになっていた。
「頭だ! 小夜子、ヤツの神経が集中している頭を狙うしかない! 他の部分はタフすぎる!」
ハワドが叫ぶ。
私は頭を攻撃するためのチャンスを窺うために高度を上げた。甲虫頭の突進するコースから外れたが、ビルから上がる黒煙が視界を塞いでくる。あまり上空へは上昇できない。
それに加え――
「小夜子! 回避しろ!」
「えっ!?」
突如、下方から何かが飛んできた。間一髪のところで回避し、それの正体を確認する。
「あいつ……車を!」
飛ばされてきたのは潰された自動車だった。下にいる甲虫頭が私に向かって投げてきたのだ。私の見つめる先には、すでに別の車を掴んでいる巨人の姿がある。巨人の顔にある4つの目玉は全て私を捉え、再び投げる準備を整えていた。
「いつまでも上にいても駄目だ! 早く決着をつけるしかないぞ、小夜子!」
「でも、あいつ、車を投げて……!」
「その車ごと、お前の魔法でぶった斬るんだ!」
「そんなこと……」
「やるしかないぞ! あいつが投げてくる瞬間に、車ごと頭を斬れ!」
私は光剣を縦に振り下ろした。
剣は車のボディーを簡単に裂き、敵の頭部へと到達する。
「グォオオッ……」
ゴトッ……!
鋭過ぎる刃は、傷口が広がるまでに時間をかける。甲虫頭の目や口の位置が徐々にずれ始め、最後はゆっくりと切断された頭部がアスファルトへと落ちていった。巨大で誇らしい角を持つ重量感のある頭部が地面へと転がると、それにつられるように巨躯もゆっくりと血液を噴水のように撒き散らしながら倒れる。
「こ、殺したのよね?」
「ああ。上出来だ、小夜子。あれだけタフなやつでも、さすがに頭を潰されちゃ再起できないだろ。これで近くにいる魔族の指揮系統が乱れるはずだ」
ハワドの言ったとおり、甲虫頭の死亡を察知したのか周囲から死神の気配が消えていくのが感じられた。まるで私から逃げていくかのように、察知できる範囲外へと消えていく。
私は甲虫頭の死体を見下ろした。
この巨大な生物も、死神と同じように人間から変化したのだろうか? もし、そうならば、死神以外にも強靭で巨大な敵が現地で生産されているということになる。
「この魔族も、元々人間だったのかな?」
「いや、違う。こいつは
「あーく……?」
「魔族が住んでいる世界のことだ。この世界とは別の次元に存在していて、魔族はそこで生まれいる」
「つまり、ウイルス型魔族によって誕生する魔族と、魔界っていう場所から来る魔族がいるってこと?」
「ああ。元が人間の魔族は本来の魔族の眷属的な存在になる。人間界侵攻のために使い捨ての兵士にするつもりさ」
「私たち人間を、自分たちの兵隊として用いているのね」
「しかし、この状況は厄介だな」
「え?」
ハワドが真下に横たわる死体を見て呟く。死体にビルの炎が燃え移り、その煙に死肉が焦げる異臭が混ざる。私はその激臭に、眉間にしわを寄せた。
「何が厄介なの?」
「こいつ、
「それが、どうしたの?」
「ウイルス攻撃だけでこの国には十分にダメージを与えられているのに、わざわざ強力な兵士を送りつけているんだ。この意味が分かるか?」
「え……」
ハワドの言うとおり、すでにこの国はウイルス型魔族によって甚大な被害を受けている。多くに人が死に、多くの建造物が破壊されつつある。
それでも、魔族はこの国に直接強力な兵士を送りつけてきた。
この魔族の行為の意味するところは……?
「つまり、魔族はこの国への攻撃に本腰を入れ始めている、ということだ。これから、この国で戦場が拡大するぞ……!」
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