番外編「マウの異世界道中記 その6」

 マウとユウは眷族に教えてもらった村に辿り着いた。

 そして、


「ゴホゴホ……おお、治った?」

 

「よかったにゃあ。じゃあお大事ににゃ」

 マウは診療所兼薬局を開き、神の力を使って村人達の怪我や病を治していた。

 村に元々いた医者は年老いて先頃亡くなってしまい、村人達が困り果てていた所にマウ達がやって来たので皆大助かりであった。

 

 そして

「お姉ちゃん、薬作ったから届けてくるにゃ」

「うん。気をつけてにゃ」

 ユウはどうやら薬作りの才能があったようで、医者が残していた書物を読んだだけでたくさんの薬を作れるようになった。


「にゃあ~。村の人達は皆信頼できるし、これならユウを」

 そう思っていた時、診療所を訪ねてきた者がいた。


 それは勇者だった。


 マウは彼の左脇腹に古傷があるのを確認してそれを治した後、病に倒れた彼の仲間を治療した。



 そしてその夜、診療所に戻ったマウは、

「ユウ、話があるにゃ」

「何だにゃ?」


「あたしは旅に出るにゃ。ユウはここで留守番しててくれにゃ」

「え? 嫌だにゃ! 僕もお姉ちゃんと一緒に行くにゃ!」

「ユウまで行ったら誰が村の人達を治すにゃ? 他にもお医者さんになれそうな人はいるけど、まだユウ程ではないにゃ」

「にゃあ……お姉ちゃん、もう会えないの?」

 ユウは涙目でマウに言う。

「え? そんな訳ないにゃ。用事が終わったら戻って来るにゃ」

「そう。でも、ここでお別れしたらもう会えない気がするにゃ」


「大丈夫にゃ。きっと戻って来るにゃ」

「……うん、わかったにゃ。」



 そして翌朝、マウは勇者達と共に旅立っていき、幾多の苦難を乗り越え、ついに大魔王を倒した。


――――――


「と、いう訳だにゃ」

「そんな事があったのか」

 元の世界に戻ったマウは、政彦に異世界での事を話していた。


「そうだにゃ。心配かけてごめんなさいだにゃ」

「いいよもう。こうして戻って来てくれたんだからさ」

「政彦……にゃあ」

 マウは政彦に抱きつこうとしたが、彼はそれを止めて尋ねた。


「なあ、話にあったユウと道彦はどうしたんだ?」

「ふにゃ? ……あ、道彦は自分で戻って来るはずだけど、ユウは」

「置いてきぼり?」

 

 マウは真っ青な顔で冷や汗をかいていた。

「……い、今すぐ迎えに行ってくるにゃあ!」

「待て、俺も連れてけよ。マウの弟なら俺の弟でもあるしな」

 そして二人で異世界にワープした。




「えーと、この子がユウ? 聞いてたのと違うな」

 政彦の顔に縦線が走っていた。

「……ユウ、ごめんなさいにゃ。だから元に戻ってにゃ」

 マウは土下座して謝っている。

「ふんにゃ。どうせおれよりその男がいいんだにゃ。ねーちゃんなんか知らんにゃ」

 ユウはマウに置いてかれたショックからかグレていた。

 髪型をリーゼントにしてサングラスをかけ、特攻服を着てるが、口調が「にゃ」なので全然迫力がない。


 マウはその後も謝り続けたが、状況は変わらない。


「な、なあ。わざとじゃないんだからもう許してやれよ」

 見かねた政彦がユウに言ったが

「ふん、あんたって格好いいにゃ。これならねーちゃんもおれを忘れるにゃ」

 褒めてるのか貶してるのかよくわからん事を言った。

「あのなあ、拗ねてないで」

「ふん、どうしてもって言うならお願いを聞いてくれにゃ」

「お願い? 何だよ?」

「また僕と一緒に暮らして欲しいにゃ。今度は政彦兄ちゃんも一緒に」

 ユウはあさっての方向を見ながらそんな事を言った。


「え? あ、あの。それでいいの?」

 政彦がおそるおそる尋ねる。

「いいにゃ~。わかってたにゃ、わざとじゃないって事くらい」

 ユウはサングラスを外して表情を和らげる。

「おい、じゃあ何で」

「でも寂しかったから、ちょっと意地悪したくなったにゃ」

「あ、あのなあ……おいマウ、許してくれるってさ……って、おい?」

 マウは緊張の糸が切れたのか、気を失っていた。


「にゃあー!? お姉ちゃんごめんなさいだにゃ~!」


 その後政彦とマウ、そしてユウは元の世界に戻った。


――――――


「僕が戻ってきた時にいなかったのは、そういう訳だったんだね」

 そう言ったのは魔王ミッチーこと道彦だった。


「そうだにゃ。あたしがあんたの事を説明してあげるはずだったのに、ごめんなさいにゃ」

「あ、気にしないで。ご先祖様が皆に説明してくれたから」


 道彦が戻って来たのは丁度マウがユウを迎えに行っていた頃だった。

 彼は元部下達がそれぞれの場所に落ち着くのを見届けてから戻るつもりでいて、つい先頃それが達成されていた。


「よかったにゃ。さ、今日は家族水入らずで過ごすにゃ。あたしはユウと出かけてくるから」

「ん? マウ義姉さんやユウ君も家族だろ? ねえ政彦兄さん」

 道彦が側にいた政彦に尋ねる。

「ああ。そうだぞマウ。俺達皆家族だよ」

「ふにゃあ……にゃあ~!」

 それを聞いたマウは、おもいっきり泣きだした。


 やっと帰れた、家に、家族の元に……と。

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