第28話「ご先祖様は……」

 その後俺達は銅像の前に立っていた。

「では、はぁっ!」

 弘法大師様が錫杖を振ると銅像の下から金色に光り輝く玉が現れた。

「にゃあ~、これがホントのきんた」


 ドゴオ!

「何言おうとしてた、てめえはー!?」


「痛いにゃ~シクシク」

 マウはわかりやすい嘘泣きをした。

「説明するぞ、おい」

 弘法大師様は呆れ顔をした後、その玉を手に取って話し始めた。

「これは『神聖石』と言って神力や法力等の源、と言うよりはそれらを身に宿しやすくする為のものだ」

「え、じゃあそれ自身が力を発してる訳じゃない?」

「ああ。それらの力は本来この宇宙に漂っているものだが」

「それらの力を集め、使う者の身に取り込む為のもの、という訳ですか?」

 兄ちゃんが後に続いて言った。

「そのとおり。だが元からその身に宿している者もいる。神々の血を引く者や妖怪などがそうだ」

「そうなんですか。じゃあマウは妖怪だから、元から持ってたって事ですか」

 俺がそう言った時

「マウ殿は妖怪ではないぞ」

 弘法大師様が俺の方を見て言った。

「へ? じゃあマウって」

「それは全員目覚めてから話そう。前世の皆もその事は知らないはず。そうですなラッテ殿、光殿?」

 弘法大師様が二人に尋ねた。

「は、はい。私の記憶でもマウは妖怪でした」

「僕もそうです。あ、前世の政彦なら知ってるかも?」

「え、何で?」

「それも目覚めればわかるだろう。ではこれを使うとするか」

 弘法大師様が玉を上にかざそうとした。


「え、それで何をするんですか? 俺達の記憶はご先祖様が戻してくれるんじゃ?」

「だからそのご先祖、彦右衛門様の姿が見えるようにするのだ」

「へ?」

「まあ見てなさい……はあっ!」

「うわあっ!?」

 弘法大師様が気合を入れた時、神聖石が眩しい光を放った。



 光が収まると、そこに羽織袴を着た二十代後半くらいの男性がいた。

 やや長い髪を後ろで束ねていてなんか時代劇に出てくる素浪人という感じの。

 ……って、まさか!?


「おお、拙者の若い頃そのままですな。弘法大師様、かたじけのうございます」

「いやいや。私の力だけでは彦右衛門様の体を造るなど無理です。これがあったればこそで」

 やっぱりこの人は俺達のご先祖、石見彦右衛門様だった。


「何を仰いますか。本来なら拙者などではなく貴方様がなるべきはずなのに、先代様も何を考えておられるのか」

「それはもうご存知でしょう?」

「はあ、それでもですな」


「あの~、お二人共いったい何の話をしてるんですか?」

 俺がおそるおそる尋ねると

「おおすまん。では順を追って話そう。まず拙者がお主達の先祖の彦右衛門だ」

 彦右衛門様が改めて自己紹介してくれた。

「あ、はい、あの」

「どうして若いのか、か?」

「は、はい。たしか彦右衛門様は享年九十歳だったはず? あ、そうか。弘法大師様と同じようなものか」

「そういう事だ。この姿は拙者の全盛期の頃だな」


「へ、へえ。ご先祖様ってこんなイケメンだったんだ」

 奈美、何うっとりしてる?

「か、かっこいい……っていけないわ」

 ラッテ、見とれるくらいいいと思うぞ?

「にゃあ~♡ ご先祖様~、あたしと(ズキューン!)しよ~♡」


 ピカッ!

 ドゴオーーーン!


「ピギャアアアー!?」

 晴天にも関わらずいきなり雷が落ちて、それがマウに直撃

 

 って何だってーーー!?



「……ご心配なら貴女様も来られてはどうですか?」

 弘法大師様が空を見上げて言った。って誰と話してんですか?

「……わかりました。では」

 弘法大師様の手にある神聖石が再び輝きだし、それが収まると


「やったー! 若~い!」

 手鏡で自分の顔を見ている俺と同い年くらいの女の子が現れた。

 髪型は長い髪をリボンで括ったポニーテール。

 目がぱっちりして可愛らしい子だけど、鎖帷子の上に紺色の忍者服を着ていて、腰に刀を差している。

 うん、どう見ても忍者……あ、もしかして?


「香菜様、ようこそ現世へ」

 弘法大師様がその人に話しかけた。

 ってまたやっぱりこの人は彦右衛門様の奥さんで俺達のご先祖、香菜様か。

 若い頃は忍者だったって言い伝えは本当なんだな。


「あ、ありがとうございます! わたしだけおばあちゃんのままだったらどうしょうかと!」

「貴女様だって全盛期の頃になりますよ。なにせ神なのですから」

 へ?


「あ、しまった。口が滑ってしもうた」

 弘法大師様が口を押さえながら言った。

「あの、拙者がこれから言おうとしてたんですが」

「え? あの、どういう事ですか?」


「あのな、拙者は死後あの世でこの世界を守る守護神様から『自分はもう引退するから跡を継いでくれ』と言われたのだ。初めは拙者などには荷が重いと断ったが、何度もしつこくてなあ」

「で、業を煮やした前守護神様は夫に無理矢理自分の力を授け、ついでにわたしにも力を授けた後でドロンと消えたの。そうして夫は新守護神、わたしはその補佐役の神になったの」

 香菜様が彦右衛門様の後にそう言った。


 マジっすか。

 ご先祖様達が神様だったなんて。

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