第29話「一気に色々と」

 ご先祖様は神様だったなんて、あ。

「あの、それなら宇宙魔王をなんとか出来ないんですか?」

 俺は彦右衛門様に尋ねた。

「うーん。そうしてやりたいのはやまやまだが、それは掟で禁じられているのだ」

「へ? 掟って?」


「あのな、今の世には物語で異世界転生というものが描かれているだろ?」

「あ、はい。ってまさか」


「もしかして本当にこの世界以外にもたくさんの世界、異世界があるという事ですか?」

 兄ちゃんが聞く。

「そうだ。拙者は数多くある世界の一つ、この世界の神にすぎん。そしてそれぞれの世界に神がいてな、その上には高位の神、最高神様といった神様がおられるのだ。それらの方々から見れば拙者などは神になりたての小僧だ」

 彦右衛門様がそう言った時、弘法大師様が話に入って来た。

「何を仰る。貴方様はたしかに神としてはお若い方ですが、その力は神々の中でもかなり上の方ですぞ」

「え、そうなんですか? うちのご先祖様ってそんなに凄いんですか?」

「ああ。なんせ彦右衛門様は傍系とはいえ素盞鳴尊の子孫だからな」


「え、マジで!?」

「俺もそんな話聞いた事ないですよ!?」

 俺と兄ちゃんが口々に言うと彦右衛門様が

「ああ。拙者も生前とある事があってそれを知ったが、子孫に伝えると不都合が生じる恐れがあったので、拙者と香菜だけの秘密にしていたのだ」


「そ、そうだったんですか。あれ? という事は」

 奈美が何かに思い当た、あ。

「そうだ。お主達も、という事だ」


「ええええ!? そうだったんですか!?」

 俺達が素盞鳴尊の子孫だなんて。

「ああ。それに政彦は現時点では拙者の一族中最強だろうな」

 マジで!?

「政彦が……あれ? でとは?」

 兄ちゃんが首を傾げた。

「それはな、今から約三百年後の子孫に素盞鳴尊や天照大御神様をも上回る者が生まれるからだ」

 な、なんだってー!?

 

「な、何でそんな事が、って神様だからわかるのですか?」

「いや、生前とある場所に赴いた時にな、その子孫である双子の姉弟に会ったからだ」

「その二人ってタイムスリップ、時間移動もできるんですか?」

「出来るから出会えたのだ。ああ、そこで政彦やマウ殿とも会ったぞ」

「え? 俺知りませんけど。あ、もしかしてやはり何か不都合があって、記憶を消したとか?」

「いいや、詳しくは言えぬがそれは今からそう遠くない未来の事だから、お主たちは知らなくで当然だ。そしてその姉弟は拙者の嫡流、すなわち政彦の嫡流でもあるとだけ言っておこう」


 そうなのか、俺っていずれ子孫と会うんだ。

 てかさ、俺に子孫がいるって事はいつか誰かと。


「政彦、それは後にしようね。今は前世の記憶を呼び起こしましょ」

 香菜様が俺にそう言ったが、あれ?

「あの、俺今声に出してました?」

「わたしも一応神様だからね。心を読むくらい出来るのよ」

 あ、そうなんだ。

「でも弘法大師様やマウさんみたいな同格以上の存在だと読めないけどね」

 へえ……え?

「ちょっと待ってください香菜様、今何て言いました?」

「へ? 『同格以上の存在だと読めない』と」

「弘法大師様やマウみたいな、とも言いましたよね?」

「あ、しまった」

 香菜様は慌てて口を押さえた。

「あの、弘法大師様はなんとなくわかるんですが、マウちゃんもひょっとして?」

 兄ちゃんが香菜様に尋ねると

「うーん、あの」

 彦右衛門様と弘法大師様の方を見て「どうしましょ?」と言った。

「それは三人の記憶を戻してからにしましょう。さ、彦右衛門様」

「ははっ。では政彦、奈美、信一。目を瞑れ」

 俺達は言われた通り目を閉じた。

 

「いくぞ……はあっ!」

 彦右衛門様が気合を入れると、俺の奥底から何かが湧き出てくるような感覚になった。


 ……あ、思い出してきた。


 ……俺は前世では。


 ……え?


 ……そうか、俺って。


 俺が湧き出てくる記憶に浸っていた時、弘法大師様が言った。

「おや、もしかして待っていてくれたのか?」

 え?


「ああ。この隙に討ち取ってもよかったが、どうせならと思ってな」

 声がした方を見ると、そこにいたのは全身黒い鎧で黒い大剣を持った奴だった。

 ってこいつは、

「宇宙魔王軍司令官、ネイロ」

 俺が戻ったばかりの記憶を辿って言うと

「思い出したようだな。そうだ、私はネイロ。かつて」

「前世では俺と奈美があんたを倒したんだったな」

「その通りだ。だが今度はやられぬぞ」

 ネイロはそう言って大剣を構えた。

「前世でもそうだったけど、やっぱ簡単にはいかないよな」

「そうね。さ、今度も一緒に戦いましょ。政彦」

 奈美が俺の側に来て言った。

「ああ。しかし奈美は前世じゃ俺の妹だったんだよな」

「双子の、ね。ってそれはいいから」

「ああ、やるか」

 俺達も身構えた。


「そして俺は二人の兄か。一気に色々とわかってしまったな」

 兄ちゃんがボソッと言った。

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