第30話「黒鎧の中は」

 俺は家宝の刀を構え、ネイロと向かい合った。

「ふふ、今度は負けぬぞ。私も以前とは違うからな」

 ネイロの表情は黒い兜に隠れていて見えないが、口調から笑っているように感じた。

「そうかよ。だが俺だって」

「わかっている。では行くぞ!」

 ネイロがそう言った後、大上段で斬りかかって来た。

 俺は素早く右横にそれをかわし、ネイロの頭目掛けて刀を振り下ろす。

 だがネイロはそれを大剣で受け止め、そして

「はあっ!」

「ぐふっ!」

 俺はネイロの蹴りを腹に受けて倒れた。


「政彦!? よーし、今度は私が!」

 奈美が両手を組み、気を集中し始め

「はあっ!」

 掌から電撃を放った。

「ふん!」

 ネイロは気合だけでそれをかき消した。


「にゃあ! あいつ前より強いにゃ!」

「政彦と奈美だって以前より強いのに、それでもか」

  

「ぐ……」

 俺はよろけながらも立ち上がった。

「ふ、そのくらいで倒せるとは思っていない。さあ来い」

 ネイロは大剣を構えながらそう言った。


「くそ、前世のあれでも通用するかどうか」

「そんなのやってみなければわかんないわよ」

 俺の呟きに奈美が答えた。

「でも向こうはパワーアップしてるぞ」

「こっちだって前世よりも条件がいいじゃない。なんせ私達は」

「あ、そうだった。よし、やってみるか!」


「ふふ、あれで来る気なら私も……」

 ネイロの剣先に黒い気が集まりだした。


「奈美、頼む」

「ええ。そりゃ!」

 奈美が放った電撃が俺の刀に吸い込まれ、刀身が光輝きだした。


「やはりか。行くぞ、はああっ!」

 ネイロは大剣を振り下ろし、黒い気を俺達目掛けて放ってきた。


「……くらえ! 鳳凰一文字大電撃!」

 俺は先祖伝来の技と前世の力、衝撃波と電撃が合わさった技を放った。

「何!?」

 ネイロもこれは計算外だったようだ。

 それは黒い気をかき消し、勢いが弱まる事なくネイロに向かっていき

「うわあああ------!」

 それをまともに喰らい、着ていた鎧が粉々になって倒れた。


「よっしゃあ!」

「やったわ!」

 俺達は抱き合いながら喜んだ。


「うにゃ~……奈美って前世じゃ今で言うブラコンで政彦大好きだったのよね。あ、今世ではいとこだからしようと思えば結婚できるのよね。強敵だわ……ふにゃ?」

 マウが何か呟いてるような気がした。


「う……」

 あ、ネイロが立ち上がってきた……へ?


「え、ネイロって!? 皆知ってた!?」

「僕の前世の記憶にも無いよ、あれは」

「俺も知らんかった、まさか」

 ラッテと光と兄ちゃんが話していた。


「ふ、ふふ、以前は見られる前に消えたからな。知らなくて当然だ」

 鎧が脱げたネイロの姿は、黒くて長い髪に鋭い目つき。

 黒くて体のラインがくっきりとわかるボディスーツ、そして胸が大きい女性だった。

 ただ、その顔の左半分には大きな傷があった。

 

「あ、あれって?」

「いえ、あれは今ついた傷じゃないわ。たぶんもっと昔に……まさか?」


「そうだ。私のこの傷は前世のお前達がつけたものだ」

 ネイロは俺達を睨みつけながら言った。


「げ、前世では粉々にしたと思ってたが」

「ああ、お前の言うとおり本来なら体が粉々になっていただろう。だが」

「だが?」

「ダイマドが私に予め魔法をかけておいてくれたのだ。死に至る程の事があった時に防御膜を張るものをな。だからこの程度で済んだのだ」

「そうだったのかよ。で、今回はパワーアップしてたから鎧だけで」

「いや、今回もダイマドが助けてくれた。この鎧は彼が新たに作ってくれた物。これがなければおそらく今度こそは」

 ネイロは鎧の破片を手に取り、それを見つめていた。

 その目は少し潤んでいるようにも見えた。


「あ、もしかして!?」

 光が突然声を上げた。

「どうした?」

 兄ちゃんが尋ねると

「うん、もしかしてダイマドさんが愛していたのは……ネイロさんじゃ?」

「え?」


「そうだ。だが私はその思いに答える事は出来なかった」

「何でだよ? こう言っちゃ何だけどあいつって良い奴だったと思うぞ」

 見た感じじゃ祖父さんと孫娘に見えるけどな。


「そんな事は仲間である私の方がよく知っている。だが私は」


「宇宙魔王が好き、なんでしょ?」

 奈美がネイロに言った。


「……よくわかったな」


「ええ、ダイマドさんが宇宙がひっくり返っても叶わない思いって。だとするとあなたが想ってる相手は限られてくるでしょ」

「ああ。だが我が主君は……でもいいのだ。この生命にかえても貴様等を倒し、力を捧げれたらな」

「……じゃあ私、全力であなたを止めるわ」

「ふふ、出来るかな? ダメージはあるが貴様一人で止められるほど私は弱くないぞ」

「うっ。た、たしかに」


「よーし、ならわたしが力を貸すわ。いいでしょあなた?」

 今まで黙って見ていた香菜様が彦右衛門様に言った。

「うーん、だが掟が」

「直接じゃなければいいでしょ?」

「……そうだな。よし、頼む」

「はーい。じゃあ奈美ちゃん。わたしの後に続いて九字を切ってね」

「え? あ、はい!」

 二人は同時に両手を組んだ。

 そして、


「「臨・兵・闘・者・皆・陣・烈・在・前!」」


 香菜様の掌から光が放たれ、それが奈美の体に吸い込まれていく。

 

「……退魔雷轟電撃!」

 奈美の掌からさっきのより数段大きな電撃が放たれ、それがネイロに当たり


「ギャアアアアアーーー!?」

 ネイロは悲鳴をあげて倒れた。


「凄い、さすが神様」

「香菜だけでなく奈美の力もあるぞ」

 彦右衛門様がそう言った。

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