第32話「いざ決戦の場へ……って、おい」

 そして次の日の朝、俺達は宇宙魔王がいる場所へと向かう事にした。

 だけどな

「ねえ、何で電車でなんだよ? 車は?」

 俺は向かいの席に座っている父さんに尋ねた。

「あんなとこまで運転してたら疲れるわ。昨夜言っただろうが」

「そうだけどさ」

 

 あ、今まで言ってなかったけど俺達は愛媛県に住んでいる。

 んで今は最寄り駅から岡山行きの電車に乗ってる所である。

「岡山から新幹線に乗りかえ、そして目的地へか。結構な距離だよな」

「だから疲れては元も子もないだろ」

「うん。てか父さんも戦う気?」

「ああ。宇宙魔王が相手ではサポートに徹するしかないだろうが、もし雑魚がいたら露払いしてやるぞ」

「……そういや父さん母さんも以前宇宙人倒したんだった」

 てか父さんもやっぱり彦右衛門様の子孫だし強いのはわかるけど、母さんが意外だった。

「まさか魔法少女みたいになるなんて。見た目はともかく年齢考えると痛」

「政彦~、彦右衛門様と一緒に向こうへ行く~?」

 父さんの隣に座っていた母さんがドス黒い気を放って睨みつけてきた。

「……ごめんなさい。てか母さんって何者だよ?」

「あら、言ってなかったっけ?」

「聞いてないよ」

「異世界の王女で魔法使いよ」

「それ母さんが書いた小説の主人公だろ。『魔法少女ユカ』……ってまさか?」

「ええ。あれはわたし自身がモデルよ。キャラの名前は初代女王から取ったの。わたしの名前の由来でもあるわ」

 俺はどう言っていいかわからなくなった。


「わたしはこの世界に遊びに来た時、輝彦さんと出会って、そして」

「国を捨ててまで俺とな……ありがとうな、優華」

 二人は息子の前でイチャつき始めた。


「もう放っておこう。てかそれ、どこまで本当なんだよ?」

 俺は席を立ち、他の皆の所へ行く事にした。



 

「うわ~、はや~い!」

「本当に凄いもんだな、文明開化というものは」

 ……

「あの~、何でご先祖様達までいるんですか?」

 そこにいたのは彦右衛門様と香菜様だった。

「わたし一度電車に乗ってみたかったのよ~」

「拙者もな。天から見ていたが、実際に乗るといいものだな」

 さいでっか、ん?

「あれ、そういえば二人共服装が?」

「ああ、今の時代に合わせたぞ。あれでは目立つしな」

「あ、なるほど」

 彦右衛門様はグレーのスーツに水色のカッターシャツ。

 香菜様は白いワンピースに白い肩掛け。

 そして二人共髪を下ろしている。

 うん、よく似合ってるわ。これなら現代人に見える。

「あ~、これがただの旅だったら最高なんだけどなあ」

「また今度ゆっくり来ればいいだろ」

「そうねあなた。その為にはなんとしても政彦達に勝ってもらわないと」

「ああ、直接手を出すのはダメだがな。可能な限り助力はするぞ」

 彦右衛門様が俺の方を見て言った。

「あ、はい。ありがとうございます」


 そして別の席では

「ちょっと政彦! これなんとかしてよ!」

 奈美が俺の顔を見るなり怒鳴ってきた。

「いや、どうにかしろと言われてもなあ」


「あ、ああ」

「ああ、お姉様~」

「にゃあ~ペロペロ」

 マウがネイロとスノの頬や首筋を舐めまくっていた。

「……おのれら何しとんじゃ」

「ナニしようとしてんだにゃ」

「やめんかー!」

 するとネイロとスノがこっちを見て

「ふふ、しなければ車掌を斬るとマウを脅したのだ……はあはあ」

「そうよ。電車ごと凍らせてやると……はあはあ」

 息遣いを荒くしながら言った。

「だからしかたなくにゃ~♡ しくしく」

 ゴラー! ヨダレ垂らしながら嘘泣きすんなー!

「……って、あれ?」

「どうした?」

「いや、ネイロの顔」

「ああ、昨夜治してもらった。今頃気づいたのか」

 ネイロの顔にあった傷は綺麗さっぱり無くなっていた。

「ずっとあのままじゃ悪いと思ってね、私がやったのよ」

 奈美がちょっと離れた所から言った。

「そうか。そういや奈美には治癒能力もあったんだよな」

「ええ。しかしこうして見るとネイロさんって美人ね」

 ああ、大人っぽくて何かキャリアウーマンって感じだ。

 服装も今はグレーのスーツとスカートだし。


 ちなみにスノは灰色のスーツとスカート。

 二人共気を使ってるんだな。

「にゃあ~、後で脱がし甲斐があるにゃ~」

「だからおのれは何言うとんじゃー!」


 すると

「まあ放っておきなさい、一応節度は守るだろう……たぶんな」

 ……

「弘法大師様、あなたまでいるんですか?」

「この戦いを最後まで見届けたくてな」

「そうですか。で、やはり服装変えてるんですね」

「ああ。袈裟のままでもいいが、彦右衛門様達も現代の服装にしているからな」

 弘法大師様の服装は黒いジャケットに黒のズボン、白いカッターに緑のネクタイだった。そして、

「何で髪の毛まで?」

 茶色でボサッとした感じの髪型。

 イケメンの顔に合ってる。

 この格好じゃ誰もこの方が偉大な御坊様だなんて思わないだろうなあ。


「ん? これは以前テレビアニメを見ていたら私と同じ名前の者がいたのでな。その者の服装を参考にしたついでに、髪型も合わせようと思ってなあ」

 俺には元ネタがわからないが、わかる人にはわかるんだろうな。


「ああそうだ。あっちには近づかないようにな」

 弘法大師様は遠くの席を指さした。

 そこには兄ちゃんとラッテが座っていた。

「何で? って、そうですね」

 二人共前世じゃあと一歩だったんだよな。うん、そっとしとこう。

 

 あ、そういえば

「奈美。光はどこ行った?」

「あれ、さっきまでいたけど?」




「後で合流するんですね。それじゃあ」

 光は車両のデッキにいた。

 どうやら誰かと電話で話していたようだ。

「ご先祖様、僕にある事を教えるって言ったけど、何だろ?」

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