第33話「全ての者達の」

 その後新幹線に乗り換え、一時間足らずで駅に着いた。

 そこは

「ふむ、ここは辺り一面たこ焼きだらけだと聞いたが」

「私は縦縞の服着た人間だらけだと」

 ネイロとスノが何か戯けた事をほざいてた。

「そんなデマ誰から聞いた?」

「ダイマドが」「参謀殿が」

「あのジジイ蘇ったら殴ろう」

 

 ここは新大阪駅。

 目的地があるのは大阪市内であった。


「って、父さん。ここからはどうやって行くの?」

「南に向かって地下鉄で一本だ。てか前世で行った事あるんだろが」

「あのなあ、千年前に電車は無いし、今と雰囲気が違うだろ」

「それもそうだな。さて、行くか」

「うん」


 そして着いた先は、プロサッカーチームの本拠地がある総合公園だった。

 俺達はその公園の中を歩き、様子を見る事にした。


「だいたいこの辺りなんだよなあ、しかし公園になってるのが幸いだったな。町中だったらえらい事になるし」

「それでも真っ昼間から戦えないだろう。それにここって夜も人通りあるぞ」

 兄ちゃんがそう言ってきた。

「え、兄ちゃんはここ来た事あるの?」

「前世云々はややこしいから置いとくが、中学生の時に妖魔退治しにな」

「そんな時からって、お疲れ様です」

 俺は頭を下げた。

「信一兄ちゃんはその時どうしたの? 人に見つからなかったの?」

 奈美が尋ねると

「あの時は偶然なのか、人が全くいなかったんだよ」

「偶然ではないぞ」

 弘法大師様が話に入って来た。

「え、では何故?」

「あそこにいる聖霊達が結界を張ってくれたのだ」

 そう言って指さした場所は博物館みたいな建物だった。

「あそこにはたしか恐竜等の化石が展示されている……まさか」

「そうだ。太古の生物達は死した後、長い時を経て聖霊となった。そしてずっとあそこから今を生きる者達を見守ってくれているのだ」

「そうでしたか」

 兄ちゃんは目を閉じ、その博物館の方に向かって頭を下げた。

 俺達も後に続いて同じ様に……。


「さて、彼等はどうやら今回も手伝ってくれるようだな。では決行は夜としよう」

 弘法大師様がそう言った後、各々自由時間とすることにした。

「では私達は一旦母船に戻って来る。状況確認もしたいしな」

 ネイロとスノはそう言ってスッと消えた。

 転送装置でも使ったんだろうが、そんなのあるなら最初から言え。


 それとさっきネイロが言ってたが、宇宙魔王軍の兵士達はもう全員俺達の味方になっている。

 彼等もまた元の宇宙魔王に戻って欲しいと願っているから、と。

 そして彼等は漁夫の利を狙った侵略者が攻めてこないよう、地球の周りを見張ってくれているらしい。

 昨日の敵は今日の友、かな。


「私も所用があるので席を外すぞ。では後で」

 弘法大師様はそう言うと足早に去って行った。

 用って何だろな?


「さて、俺達はどうする?」

「そうねえ、とりあえず今日泊まるとこに行かない?」

 奈美がそう言ったが

「そういえばどこに泊まるんだっけ?」

 すると父さんが

「ああ、俺が手配してある。行くぞ」

 

 俺達は父さんの後に続き、公園を出て大通りと住宅街を歩くこと二十分。

 やって来た場所は古ぼけた感じの銭湯だった。


「ねえ父さん、もしかしてここ?」

「そうだが?」

「どう見ても銭湯だけど?」

「まあそれは見てのお楽しみ、だ」

 そして裏口の方へ周り、父さんがドアをノックするとすぐに扉が開いた。

「ほっほっほ、ようこそ」

 ……


「ねえ、何でここにいるの?」

「輝彦に頼まれたのじゃよ。最高の宿舎を用意してくれとな」

「そうなのかよ。てかここが?」

「外から見ればそう思うのも無理ないわな。さ、入りなさい」

「う、うん。たけさん」

 そう。

 そこにいたのはたけさんこと池免武蔵いけめんたけぞう

 そしてその正体は伝説の大河童・武蔵むさしだった。


「ご先祖様。後で来るとは聞いてましたけど、ここで待ってたんですか?」

 光が驚きながら尋ねた。

 そうだ、光のご先祖様でもあるんだよな、この人。

 本人曰く七百歳らしいが……妖怪だからか?


 そして中に入るとすぐ左手側にまた扉があり、そこを開けると下に降りる広めの階段があった。

 多分三階分は降りていった先にまた扉。そしてそれを開けると。


「へ?」

 そこは和風旅館の玄関先みたいだった。


「え、えーと? 何ここ?」

「ほっほっほ。ここは妖怪達の隠れ家じゃよ」

「え」

「今の妖怪達はだいたい人間に混じって生活しているが、どうしても人の世に合わん者もおる。だからそれらの妖怪達が住む場所をわしや仲間達で世界のあちこちに作ったんじゃ。ここはその一つじゃ」

「え、じゃあ俺達がいたら気に障るんじゃ?」

「心配するな、皆そこまで人間を嫌っておらん。それに政彦達がこの地球を守って戦っていた事を知ってるわい」

「あ、いやそんな」

「謙遜せんでええ。そして皆その礼がしたいと前々から思ってたようじゃ。だからこの機会にと思うての」


「そうよ、皆あなた達には感謝してるわよ」

 そう言って奥から出てきたのは、藍色の着物姿で眼鏡をかけた若い女性だった。 

「あ、あなたも妖怪?」

「ええ。私は文車妖妃ふぐるまようひというのよ。何処かで聞いた事あるでしょ?」

「えーと、たしか『古い恋文に篭った怨念や情念などが変化した妖怪』でしたっけ?」

「そうとも言われてるけどね、今はここで妖怪達の纏め役をしているのよ。そうそう、彦右衛門さんはあの時以来ね」


「そうじゃった。久しぶりじゃのう、彦右衛門さんに香菜さん」

 たけさんと文車妖妃さんが二人の方を見てにこやかな顔になった。

 そういやご先祖様達もいたんだった。

 てか彦右衛門様、文車妖妃さんとも知り合いだったのか。


「そうだな。こうして顔を合わせるのは三百年ぶりか? 念話はしていたがな」

「そうじゃな。しかし二人共ズルいのう、いくら神様とはいえ若い姿になって」

「拙者からすればお主がまだ生きてるのが信じられん。今は人間のはずなのに」

 神様でもわからないの? って

「あ、たけさんはご先祖様達が神様だって知ってたんだ」

「知っとったとも。彦右衛門さんから直接聞いたからの。さて、皆部屋に案内するぞい」


 案内された部屋は畳敷きの部屋に襖、地下だから窓はないけど、代わりに風景画が飾られていた。

「さ、時間までゆっくり休んでくれ。そうそう、明日は宴会といこうかのう」

「たけさん、明日はって」

「必ず勝つ。皆それを信じて今出来る事をやっとるわい」


 ……そうか。

 これって俺達だけの戦いじゃないんだ。

 妖怪達、宇宙人、そして過去に生きてた全ての者達の。



「……そろそろ私の役目も終わりかもね……にゃあ」

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