第34話「総攻撃」

 俺達はその後仮眠を取り、夜になってから公園へと戻った。

 あ、たけさんも『わしも助太刀するぞ』と言って着いてきた。


 公園の入口に着くと、弘法大師様やネイロ、スノが待っていてくれた。

「皆揃ったな。では行くとするか」

 俺達は公園内のとある場所、宇宙魔王が蘇る場所へと歩いて行った。


 その途中で

「そうそう、既に聖霊達があの辺り一帯に結界を張っているぞ。それとな」

「はい?」

「腕に覚えがある妖怪達が近くに待機してくれている。そうですな?」

 弘法大師様はたけさんに話しかけた。

「ええ。日本、いや世界中から集まって来ましたわい」

「せ、世界中から!?」

 俺はそれを聞いて驚いた。

「ああ。今まで政彦達を手助け出来んかったから、最終決戦くらいは役に立たなければと皆言うとるわい」

「え? あの、妖怪達に何かあったの?」

「ああ。侵略者が攻めてきた影響で妖魔が活性化しての。多くの者は妖魔に取り憑かれてしまい、今までそれを祓う事で手一杯だったのじゃ」

 

 そうだったのか。俺の知らない所でそんな事があったんだ。




 そうこうしているうちに目的地に着いた。

 そこは公園内にある陸上競技場だった。


「ここに宇宙魔王が。でもどうやって呼び出すんです?」

「それは私に任せなさい」

 そう言って弘法大師様は両手を合わせ、お経を唱え始めた。


 しばらくそれが続き……


 そしてお経が止まった時、辺りが大きく揺れ始めた。


「な、何だ、地震か!?」

「違うにゃ……お出ましよ」

 マウがそう言った時、競技場全体から黒い霧のようなものが吹き出した。

 そしてそれは一ヶ所に集まり、


「まさか……あれが」

「そう、宇宙魔王よ」 


 全長20mはあろうかという大きな黒い人型となった。


「い、以前はあんな姿じゃなかったのに」

「妖魔のせいよ。あれ、かなりの数が憑いてるわ」

 マウが苦虫を噛み潰したような顔で言った。

「宇宙魔王様……」

 ネイロは目に涙を浮かべていた。


「よし、じゃあ行くぞ!」

 兄ちゃんが叫び、全員が身構えた。

「火水波!」

 光が火と水の力を放ち

「私も、はあっ!」

「えーい!」

 ラッテと奈美も続けて熱風、電撃を放つ。

「にゃあー!」

 マウも肉球型の気功弾を……何か気が抜けるぞ、それ。


「行くぞ政彦! ……光竜剣!」

「ああ! ……鳳凰一文字斬!」

 そして兄ちゃんと俺も奥義を放った。


「グオオオオオ!?」

 宇宙魔王が悲鳴を上げる。

 どうやら効いているようだ。なんせ全員前世以上だし。


「……グアアア!」

 宇宙魔王が俺達を捕まえようと手を伸ばしてきた。


「させるかい。皆の衆、出番じゃ!」


 オオーーー!

 たけさんが叫ぶと宇宙魔王の背後にたくさんの妖怪達が現れた。


 パッと見ただけでもぬりかべ、一つ目小僧、烏天狗、唐傘お化け、一反木綿。

 狸や狐、大鼠みたいなのもいる。

 更にはミイラ男やカボチャ頭、ドラキュラやフランケンや狼男、ゴブリンやキョンシーっぽいのもいて、まさに妖怪世界連合軍だった。

 そして彼等は一斉に武器や体術や妖術で宇宙魔王に攻撃を仕掛け、更にダメージを与えていった。


「って皆強え!?」

「そりゃ全員一騎当千の強者じゃからのう」

 たけさんが自慢気に言った。

「よし、俺達も負けてられんぞ!」

 兄ちゃんが奥義を撃ちながら叫んだ。

 


「妖魔を追い出すにはある程度ダメージを……ならば私も」

 ネイロがそう言って大剣を構えたが

「ネイロは手を出さないでほしいにゃ」

 マウがそれを止めた。

「でも」

「……貴女は最後の切り札よ」

「え?」

「あいつには元の心が残ってるはず。だからあいつが弱った時に貴女が呼びかければ妖魔を追い出しやすくなるわ」

「そ、そうか。だが」

「皆を信じて」

「……わかった」

 ネイロは俯きながら武器を収めた。



「グ、ガ」

 宇宙魔王は俺達の攻撃に耐え切れなくなり、片膝をついた。


「よし、あと一押しだ!」

「ほっほっほ。ならわしがその一押しをしていいかの?」

 たけさんが俺の側に来てそう言った。

「え? でも」

「政彦、わしは誰じゃ?」

「へ? あ、いやそれはわかってるけど、体に負担かからない?」

「少しくらいなら大丈夫じゃわい。では」


 たけさんは懐から掌に収まる大きさの翡翠の人形を取り出し、

「……雨風と戯れ、土木と語らい、天地水流を従えし我が力よ、今再びこの身に宿れ!」

 そう叫ぶと同時にたけさんの体が緑色に輝き出した。


 そして光が収まると

 緑色の体に背には甲羅、頭に皿があって金色の長髪のイケメン河童がそこにいた。


「我が名は武蔵むさし……行くぞ、宇宙魔王!」

 たけさん、いや武蔵さんが両手に刀を持ち、大きく飛び上がり


「でりゃあああ!」

 宇宙魔王の胸を十文字に切り裂いた。


「グギャアアアアーーー!?」

 宇宙魔王は胸を押さえながら奇声をあげている。

 どうやらかなりのダメージを受けたようだ。


「武蔵……あの姿をまた直に見れて胸が熱くなったぞ」

 彦右衛門様が懐かしそうな目で武蔵さんを見つめていた。


「ネイロ、出番よ」

 マウがネイロを促した。

「あ、ああ。でもどうやれば?」

「貴女の気持ちをそのまま彼にぶつけなさい」

「え? ……ああ」

 

 そしてネイロが宇宙魔王の前に立ち、力一杯叫んだ。

「宇宙魔王……いや、レックス様! 目を覚まして!」

 

「グ、あ?」


「私は……あなたを愛してます!」

 

「ア、い? グ……ネイロ?」

 宇宙魔王がその場に蹲った。

 そして体から黒い霧が吹き出した。


「今だ! でりゃあああ!」

 俺は高く飛び上がり、奴めがけて刀を振り下ろした。


 ズバアッ!

「ギャアアアーーー!?」

 斬った手応えあり、だ。

 

「あ! 宇宙魔王が!?」

 誰かが叫んだ時、奴の体がグングンと小さくなり、やがてそれは青い軍服を着ている二十代位の男性の姿になった。

 あれこそが前世で見た宇宙魔王だ。


「どうやら元に戻ったようね……でもまだ終わりじゃないわ」

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