第31話「千年かかって辿り着いた」

「さてと、これで四天王は全員やっつけたな」

 兄ちゃんがそう言った。

「うん。後は宇宙魔王だけだよね。でもまだ復活してこないんだろ?」

 すると弘法大師様がこう言った。

「いや、もうじき蘇ってくるぞ」

 なんだって!?


「え!? 文献のとおりなら、まだ三ヶ月はあるはずでしょ!?」

 兄ちゃんが驚きながら尋ねると


「どうもズレがあったようだな。気配からしてあと七日、といったところか」

 マジかよおい。


「……そ、それは本当なのか?」

 目を覚ましたネイロが倒れたまま言った。


「ああ。私の見立てに間違いはない」

「そ、そうか。我々も何もしない限りは約三ヶ月後だと思っていたが。フフフ、これでお前達も終わりだな」


「まあ、こちらとてただ手をこまねいて待っているつもりはないがな」

「な、何?」

「今はまだ不完全な状態であろう。それでもかなり強いが、ここにいる皆なら倒せる。そして今度こそは」

「完全消滅させられる、と?」

 兄ちゃんが言った。

「そういう事だ」

「でも宇宙魔王って今どこにいるんですか?」

「それはネイロが知っているだろう」

「そうか。でもそいつが口を割るとは思えませんが」


「香菜様、ネイロさんの心を読めませんか?」

 ネイロの側にいた奈美が香菜様に尋ねたが

「うーん、この人強い精神障壁を張ってるから読めないの」

 精神障壁? てか神様でも読めないの? 

「うーん、何かで気を逸らせれば読めるんだけどなあ」

「無駄だ。私はたとえ拷問されても口を割らん」

 ネイロは目を瞑って言った。

「にゃあ~、それならあたしに任せるにゃ~」

「マウさん、どうする……えええ!?」

 マウはすっぽんぽんになっていた。

 そして

「にゃあ~♡」

「な、何を!? あ、あ……♡」


 ……ネイロに(ズキューン!)し始めた。


「あ、あ、って男共は見るなー!」

 香菜様がブチギレながら俺達の前にどでかい壁を出した。 


「あ、いつの間にかラッテさんも壁の向こう側に行ったみたい。一緒にやってる声が聞こえるよ」

「前世でもちょっと百合のケあったもんな、花蘭は……今世もかよ」

 光と兄ちゃんが話していた。


「ま、まあこれで居場所がわかるでしょうな」

「そ、そうですな」

 弘法大師様と彦右衛門様が呆れながら言った。


「しかしマウ殿いや……様こそ本来なら守護神に相応しい御方でしょうに」

「いえ、……様と貴方様では御役目が違いますからの」

 え、何の話? てかマウって妖怪じゃないんだよな。

 前世の記憶でも本当は何なのかわかってないけど。


「お、壁が消えた。どうやら終わったようですぞ」


 そこを見るとマウは既に服を着ていた。

 んでネイロがマウに擦り寄っていた、猫なで声で。


「えーと、マウ。わかったのか?」

 俺が尋ねると

「にゃあ~、ネイロは耳たぶが弱いってわかったにゃ」

「違うわー! 宇宙魔王の居場所だよ!」

「わかってるにゃ。宇宙魔王は」

「千年前に宇宙魔王様とあなた達が戦った場所にいる」

 ネイロが先に言った。


「え、千年前に戦った……あ、あそこか」

「そうだ。できれば行かないで欲しいが」

「いや、そう言われても」


「お願いだ、どうかあの方を倒さないでくれ」

 ネイロは涙目でそう言った。

「あ、完全にいっちゃった訳じゃないのか」

「ああ。女の子はマウだが、男は」

「……そんなのあり? ってまあ、宇宙魔王がもう悪さしないなら倒さなくてもいいがな、それは無理だろ?」

「いや、あの方は元々そんな考えを持つ御方ではなかった。だがある日突然人が変わったようになり、宇宙征服を……だからどうにかして元に戻せれば」

「え? もしかして……彦右衛門様?」

 俺は彦右衛門様の方を見た。


「ああ。どうやら宇宙魔王には妖魔が取り憑いているようだな。それなら政彦が家宝の刀で斬れば」


「え、元に戻せるのか!?」

 ネイロが身を乗り出してきた。

「確実にとは言えんがな。おおそうだ、お主も協力してくれんか? 愛する者が呼びかければ確率は上がるはずだ」

 彦右衛門様がネイロに言った。

「ああ、そうさせてもらおう……できれば千年前にそうしたかったが、あの戦いがなければ今こうして解決策に辿り着けなかったかもな」

「そうだ。意味のない道程などないのだ」


「オークボやダイマドが死んだのも、ですか?」

 

 そこにいたのは四天王の一人、スノだった。

 こいつは一向に目を覚まさないから保健室に寝かせといたんだが。

「もっと早くに知る事ができたら、二人は死なずに済んだ。恨むのは筋違いかもしれないけど、それでも」

 スノが涙を流しながら言うと


「二人を生き返らせる方法ならあるぞ」

「えっ!?」

 俺達は弘法大師様の方を見た。


「宇宙魔王なら二人を蘇らせられる。そうだな?」

「あ、ああ。たしかに元の宇宙魔王様ならば。だが昇天した者は無理だ」

 弘法大師の問いにネイロが答えた。


「魂なら私が保護してある。どうやらあの世に行けなくて彷徨っていたからな」

 いつの間にそんな事してたんですか?

「え、え? 本当にオークボは生き返れるんですか?」

 スノが戸惑いながら尋ねた。

「ああ。だがそれには」

「わかってます。それなら私もお手伝いします!」

 スノは真剣な顔つきになって言った。



「にゃあ~……千年かかったけど、これで皆が帰れそうね、それぞれの場所に。でも私は……にゃあ」

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