第36話「今になって気づいた」
女神バステト……マウが?
「え、え? マウさんって女神様だったの?」
奈美や皆も呆然としていた。
「ああ。バステト様は人間、いや全ての生き物を悪霊や病魔から守る役割を持った御方。『家』の守護者でもあるのだ」
弘法大師様が説明してくれた。
「そう、皆の帰る場所をね」
マウがこっちを見て言った。
「そうだったのか。でも何で日本で妖怪になってたんだ?」
「それはね、この国が地球の気脈の中心部だからよ。ここを妖魔や侵略者に押さえられたら一巻の終わり……この国には多くの神仏がいるけど、皆は直接手を出せないから私がやってきたの。それと姿を変えていたのは敵に気取られない為だったのよ」
「そういう事か。だったら前世で言ってくれたらよかったのに」
「……言えなかったのよ」
マウは一瞬悲しそうな顔をした。
「え? なあ、マウ」
「今はあいつを倒すのが先」
マウは妖魔獣の方を向いた。
- ……ショウショウオドロイタガ、キサマガイテモケッカハオナジダ ―
妖魔獣がマウを見下ろして言う。
「たしかに私一人じゃ難しいわね。でも信一さんにラッテ、光に奈美、そして政彦と力を合わせればあんたなんかあっという間よ」
「え、マウ? ……あ、そうか!」
「前世でのあれを、だな?」
俺と兄ちゃんが聞いた。
「ええ。今はあの時より威力が増しているはず」
「でも、あれって時間がかかるでしょ?」
「それまで誰かがあいつを押さえこまないと」
奈美と光が言った時、
「あれとは以前の私にぶつけたものだな? それなら我々が奴を押え込んでおこう」
レックスやネイロ達が立ち上がって言った。
「え、何か手立てでもあるのか?」
「ああ、今になってやっと気づいたのだ。では」
そう言って彼等は妖魔獣の前に歩いて行った。
- グロロロ……ナニヲスルキダ? -
「長い時を経たが、ようやく手に入れた……我々が得たいと望んだ力をな!」
レックス、ネイロ、スノ、オークボ、ダイマドの体が光輝き出した!
「え!?」
「あ、あれってまさか!?」
「完全に神力……うむ、彼等は元々人を愛する事を、慈しむ事を知っていた。心の強さもあった。それでも気づかなかったが、今やっと最後の一歩を踏み出せたのだな」
弘法大師様がそう呟いた。
「はああっ!」
そして五人が手をかざすと、そこから放たれた光が帯状になって妖魔獣をしばり上げた。
- グロロローーー!? ウ、ウゴケヌ!? -
「よし、今のうちに!」
「ええ!」
俺達は手を繋いで円陣を組んだ。
「妖怪達、政彦達を守るんじゃ!」
元に戻ったたけさんがそう叫ぶと、妖怪達が俺達の周りを囲んだ。
「皆……やるか!」兄ちゃんが
「ええ!」奈美が
「うん。僕達の力を」光が
「私達の心を」ラッテが
「あいつにぶつけてやるぞ!」俺が
「ええ、行くわよ!」そしてマウが叫ぶと
俺達の頭上に太陽のような大火球が現れ、
- グ、グロロロ…… -
「「「「「「大神力・太陽撃!」」」」」」
それは妖魔獣目掛けて落ちていった。
- グロロロロローーーー! ー
妖魔獣はあっという間に炎に包まれた。
「やったか?」
「……まだみたいよ」
マウがそう言った時
「おのれ、よくも……だが我は消えてはおらぬぞ」
俺くらいの大きさになった妖魔獣が炎の中から出てきた。
「な、なんて奴だ。あれを喰らってまだ」
「でももうかなり弱っているわ。政彦、私と一緒にとどめを」
「え? ……ああ、わかったぜ! 兄ちゃん、俺に刀を貸して!」
「あ、ああ?」
「我は消えぬぞ……決して」
妖魔獣がこちらに向かって来た。
「……もう帰りなさい、あなたが戻るべき場所へ。……はあっ!」
マウが手をかざすとそこから暖かい光が放たれ、それが妖魔獣を照らした。
「な、何だこれは? 体が、崩れていく?」
「政彦!」
「おお! さっきのたけさんを見て思いついた技を見せてやるぜ!」
俺は二本の刀を持ち、やや上段にして十字の構えを取り
「……受けてみろ! 鳳凰十文字大切断!」
刀を交差させ、二つの衝撃波を放った。
「ギャアアァーーーーー!」
妖魔獣はそれを喰らい、木っ端微塵になって消滅した。
「今度こそ」
「ええやったわ。あいつは完全に消えたわよ」
「や、やったわー!」
「勝ったー!」
奈美や光が飛び跳ねながら喜んでいる。
「これで本当に終わったのね、あ」
「そうだな」
兄ちゃん、何気なくラッテを抱き寄せるなって、まあいいか。
「ふう、俺達は本当にサポートだけだったな」
「ええ。あなたが怪我した妖怪さん達を後ろに下げ、わたしが回復、を繰り返してたものね」
父さんと母さんがそんな事を言ってが、それも大事だろ。
「……あれは拙者があの世で武神様から習った技だ」
「でもあなた、政彦はその事をまだ知らないわよね?」
「お二方、政彦殿はご存知の通りその武神様の子孫でもありますぞ。だから遠い先祖の記憶が閃きという形で現れたのでしょうな」
「ほっほっほ。わしの技がその閃きの役に立てたのですかの」
彦右衛門様、香菜様、弘法大師様、たけさんが何か話しているが、よく聞こえなかった。
「これで長き戦いが終わった……さて、私達は去るとするか」
レックスが仲間達の方を向いて言う。
「いえ、もうしばらく地球にいましょう。この星を狙う侵略者はまだいますから」
ネイロが空を見上げてから言った。
「それなら俺がそいつらを全員片付けてやるぜ」
オークボは胸をドンと叩く。
「私もオークボと一緒に戦うわ」
スノがオークボに寄り添い、
「それじゃあワシも。地球はワシらに素晴らしい物をくれた。その礼にのう」
ダイマドの顔は好々爺のそれだった。
「終わったな、マウ」
「ええ……」
マウは何か寂しそうな顔をしていた。
「……あのさ、俺マウの事が」
「前世は前世よ。政彦、今はどうなの?」
「前世は関係ない。今頃だけどマジで惚れた。いや、ずっと前からそうだったんだけど、今気づいたってとこかな」
あんま上手く言えないが、俺はありのままの気持ちを伝えた。
だけど……
「……ありがと。でも私はあなたと結ばれてはいけないの」
え?
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