番外編
番外編「入谷千代のその後」
そこは誰もいない、何もない荒野。
あたしは一人、そこに立っていた。
えと、あたしは入谷千代、二十七歳、教師。
うん、忘れてない。
でも何でこんなとこに?
たしか理科室で実験してたはずなのに。
あいつに飲ませる惚れ薬の。
と、あたしがそう思っていた時
「あら~? あなたこの世界の方じゃないですね~?」
「は?」
後ろから声がしたので振り返ると、そこには銀色の長い髪であたしと同じくらいの歳で同じくらいの大きな胸、何か外国の映画に出てくるような占い師みたいな服着ている何かぽわ~っとした感じの女性がいた。
「ふふふ~。わたしはこう見えてあなたよりかなり年上ですよ~」
女性は口元を押さえて微笑んでいた。って
「あの、あたし声に出しちゃってた? ごめんなさい」
「違いますよ~。とまあそれは置いといて、今あなたを元の世界に戻してあげますからね~」
へ?
「あの、元の世界とか違う世界って、何?」
「それはですね~、ここはあなたから見ると異世界なんですよ~」
……は?
「えと、つまりあたしってラノベみたいに異世界転移したって事?」
「そうですよ~。あら、千代さんは原因不明の大爆発が起こった影響でここに来たようですね~」
「はあ? ってあれ? あたし名前言ってたっけ?」
「うーん。千代さんになら言っちゃっていいですね。読心術使ったんですよ~」
「へ? ま、まさかあんた、もしかして」
「宇宙人じゃないですよ~。あ、ちょっとあれを見てくださいな」
女性が指さした先、空を見ると。
「え……ええええ!?」
あれってドラゴン?
それにペガサスやユニコーンやグリフォン。
なんか漫画に出てくるような生き物がたくさん飛んでいた。
「これで信じてもらえましたか~?」
「え、え? うーん、でもあんな感じの宇宙人もいそうだし」
「だから~、その宇宙人が実際にいるんだから、異世界の存在も信じてくださいな~」
女性の口調はのんびりだが、ちょっと怒ってるような気がした。
「う、うーん。わかったわ。とにかくここって本当に異世界なのね」
「そうですよ~。さてと、信じてもらえた所で今度こそ元の世界へ」
女性が手を合わせて何かしようとした。
「ち、ちょっと待って」
「何ですか~?」
「元の世界へ送るなんて出来るの? あんたって魔法使い?」
「違いますよ~、でも出来ますよ~。では」
「だから待って。ねえ、この世界ってあんなのがいるし、危険なの?」
「いいえ~、あの子達は危害を加えない限り人を襲ったりしませんよ~」
「そうなんだ。あとさ、この世界って人間はどの位いるの?」
「え~と、千代さんが住んでるお国と同じ位ですかね~?」
「という事は……うん。決めた」
「え~? 何をですか~?」
「あのさ、あたしこの世界にずっといたいんだけど」
「へ?」
女性はあたしの言葉を聞いて、目を丸くしていた。
「あの、ダメかな?」
「い、いえ。でも帰らないとご家族が、あ」
「うん。あたしの両親はもうとっくの昔に亡くなってる。兄弟も親戚もいない」
心が読めるならわかるよね。
「でもあなたのお友達や生徒さん達が心配してると思いますよ」
「大爆発でここに来たって事はどうせ向こうじゃ死んだ事になってそうだし、いいよ。それに」
「それに?」
「あたしはここでいいオトコ見つけたいんだよ」
ズコオッ!
あ、盛大にズッコケた。
ちょっと見えた。黒だった。
「あ、あの~、そっちにだっていい男性いるでしょ?」
女性がよろけながら立ち上がって言う。
「いるけどさあ、あいつは」
「あら、千代さんってショタコンだったんですね~」
「違うわ! たまたま年下だっただけ!」
「冗談ですよ~、わかってますって。でも相手が生徒さんだってだけじゃなく、もう……だから」
「うん。惚れ薬で横取りしようと思った。だからバチが当たったのかなあ?」
「どうですかね~? でももしそれでこっちに飛ばしたのなら迷惑千万です~。抗議に行きましょうかね~、今は誰なのか知りませんけど~」
女性は黒い笑みを浮かべて指をポキポキ鳴らしていた。
「? まあとにかくさ、あたしはここで新しく始めたいんだよ」
「後悔しませんか? 今を逃すともう二度と元の世界に戻れない、彼に二度と会えないとしても?」
女性は真顔になって聞いてきた。
「うん。もうあいつの事は忘れ、いやここからあいつの幸せを祈ってるよ」
……理事長とあんたのお父さんが話してたのを偶然聞いたけど、人知れず世界を救ったのはあんただったんだね。
だから、いやそんな事がなくても、あたしは。
うん、彼女と幸せにな。
「……わかりました。あなたの意志を尊重します」
「うん。ありがとね」
「いえいえ~。あ、そうだ。これは新たな旅立ちへの餞別です~」
女性が手をかざしたかと思うと、あたしの服がそれまで着てたジャージから黒いマントと草色のローブに変わった。
これ、なんか魔法使いみたいだわ。
「よくお似合いですよ~。それとこれもどうぞ。これには着替えや食料や生活必需品、お金も入れてますからね~」
女性はそう言って大きめの黒いキャリーバッグを渡してきた。
「え? あの、ここまでしてもらっていいの?」
「いいんですよ~。何もないのは可哀想ですし~」
「う、うんありがと。そうだ、まだあんたの名前聞いてなかったわ」
「あ、そうでしたね~。わたしはこの世界の神をやってるエミリーといいます~」
え?
「あ、あんたって神様なのー!?」
「ええ、そうですよ~」
ぽわ~とした感じだけど実は大賢者か何かかななんて思ってたら桁違いだった。
「って、知らなかったとはいえ、さっきから無茶苦茶失礼な口を聞いて」
「そんな事気にしないでくださ~い。さてと、あまり手を貸すのはダメですので、ここからは千代さん一人で頑張ってくださいね~」
「う、うん。いえ、ありがとうございました、女神様」
その後あたしはこの世界で旅を続け、いい相手を見つけた。
それは世界最強の魔法使い。
顔はイケメンて程ではないけど、柔らかい雰囲気の人。
あたしは彼に半ば強引に弟子入りし、そして
「チヨ。君って僕以上だよ。いや歴史上最強かもしれないね、ははは……」
彼に潜在能力を解放してもらったら凄まじい魔法力が溢れだした。
あたしこんな凄い力があったんだ。
それからはたくさんの子供が生まれ、その子達も大人になって結婚し、孫ができ、ひ孫の顔も見れた。
そして……
「いい人生だったよ。皆、ありがとね」
約三百年後。
「そうだったんだー。でもさー、もしチヨ様が帰ってたら、あたしはこの世にいなかったかもねー」
「ええ。そして世界はどうなっていたか……何度強制的に送り返そうかと思いましたが、踏みとどまってよかったですよ」
「チヨ様って時空に穴あけれるくらいの大爆発起こせたんだよねー。そんな爆弾みたいな人間、あたしだったら」
入谷千代の子孫、魔法使いイリアはエミリーの話を聞いて身震いした。
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