番外編「両親は強かった、先祖は偉大だった」

「はあっ!」


 杖から光の矢が放たれ、それが敵を貫く。


「ぐ、この程度ではやられぬわ!」

「ならこれはどうだ? うりゃあああ!」


 一筋の光が閃いた。


「ん? なんとも……なああああ!?」


 敵は血飛沫をあげ、真っ二つになった。





「……マジ?」

「ふ、ふにゃあ」

 それを見ていた高校生の少年、政彦と猫耳の少女、マウは驚きのあまり言葉が出なかった。



「ふう、久々に運動したから明日は筋肉痛かもなあ」

 剣道着に袴、手には日本刀を持った顔つきは若いが、髪の白い中年の男性が言う。


「わたしも久しぶりにこの姿になったわね。どう、まだまだいけるでしょ?」

 女性は魔法少女のような格好をしていた。

 可愛らしくてよく似合っているが、実年齢的には痛


「ねえ、死にたいの~?」


 ……い、いえ。

 だからドス黒いオーラ出さないで。



「ん? まあ、ほんと変わんねえな、優華は」

「そういうあなたも変わらないわよ、白髪以外は」


 その二人は政彦の両親、輝彦と優華だった。

 


 政彦達は地球侵略にやって来たヤラレヤク星人の罠にかかり絶体絶命のピンチだったが、そこに輝彦と優華が現れ、星人達をあっという間に倒し、今しがたボスも倒したところだった。


「ね、ねえ政彦。伯父さんと伯母さんってあんなに強かったの?」

 奈美が震えながら政彦に尋ねる。

「お、俺も今まで知らなかった」

「こ、怖いにゃあ……」


「あ、あの二人って、もしかしてうちのご先祖様より強い? ……あわわわ」

「もしお二人が政彦やマウと一緒に私達マウス星人と戦っていたら、私なんか木っ端微塵になってた……あわわわ」

 光とラッテも震えていた。



「そうだ、なあ父さん母さん、そんなに強いならもっと早く戦ってくれたらよかったのに」

 政彦が気を取り直して両親に言うと

「今までも戦っていたぞ、お前達が見てない所で。そうだ、お前が言ってた姿を見せなかったマウス星人ともな」

 輝彦は手を腰に当てながら言う。 

「あ、マウがあっさり消した……って生きてたんだ」

「そうだぞ。あいつはマウちゃんに吹き飛ばされた後、うちまで飛んできたんだよ」

「で、勝ったの?」

「俺の軽い一撃で消滅したぞ。見かけ倒しだったな、あいつ」


「い、いえ。あいつって地球を破壊出来るくらいの力があったんですけど」

 それを聞いたラッテはまた震え出した。


――――――


「思えばあれ以来宇宙人とは戦ってなかったな、俺達」

「そうね。あの時以来よね」

 輝彦と優華が以前を思い出しながら話していると


「あの~、俺達が先にそいつらと戦っていたんだが」

 誰かが二人に声をかけてきた。

「ん、そうだったのか? 余計な事してしまったかな」

 輝彦がすまなそうに言ったが

「い、いやいいんだ。しかしあんたらって無茶苦茶強いじゃねえか」

「そう? わたし達って結構衰えてるのよ?」

「……嘘だろ?」

 辺りを見渡すと、大勢の宇宙人達が死屍累々と倒れていた。

 どうやら二人がやっつけたようだ。


「本当だよ。でもこいつら数は多いが、個々の実力は大したことなかったし、楽勝だったなあ」

「でもあなた、以前ならこんなの数秒で吹き飛ばせたわよ」

「それを言うなよ、ははは」


「お、おい? そいつらは俺達元宇宙魔王軍に匹敵する強さの宇宙人だぞ。それを大したことない、楽勝だと? ま、マジかよ」

「え、え、何者なの、この人達?」

 先程声をかけた者、元宇宙魔王四天王のオークボとスノが震えていた時、


「あ、あの~、ちょいと聞いてもいいかのう?」

 輝彦と優華に声をかけた強者がいた。


「ん? あんたはたしかダイマドだったか?」

 輝彦が思い出したかのように言う。

「そうじゃ、元宇宙魔王参謀のな。で、いいかのう?」

「ああ、何か?」

「いやなあ、ワシは以前奥方によく似た少女に世話になった事があるんじゃが、もしかしてお身内かと思うてなあ」

 ダイマドがそう尋ねたが

「わたしによく似た? 誰かしら?」

 優華が輝彦の隣で首を傾げていた。

「で、世話になったとは?」

 輝彦が尋ねると

「おお。ワシはその昔この地球に偵察に来ていたんじゃが、その際に不覚にも流行病に感染し、高熱を出して倒れてしもうたんじゃ」


――――――


 う、宇宙船まで戻る力もない。


 もうダメかもなあ。


 宇宙魔王様、ネイロ司令官……



 そこでワシの意識は途切れた。




「……はっ?」

 目を覚ますと布団で寝ていた。

 ワシはいったい?


「あ、気がついた?」 

「え?」

 そこに水色の短めの髪で、眼鏡をかけたそれは美しい少女がいたんじゃ。


「あなたは高熱を出して倒れていたの。だからこの空き家まで運んで治療してたの。もう大丈夫よ」

 少女は笑みを浮かべて言った。


「そ、そうか。礼を言うぞい。でもお嬢さんや」

「何?」

「何故ワシを? 見てのとおりワシは」

「そんな事関係ない。たとえ誰であっても同じ命よ」

 ワシは何も言えなかった。


「さ、これを飲んで」

 少女は湯気が出ている器を差し出した。

 どうやらスープのようじゃった。

 

「う、美味い」

 いや、本当に美味かった。

 このようなものはワシの知る限り何処にもなかったわい。


「よければおかわりもあるから」

「そうかい、ではいただこうかの」


 そして翌日、病が癒えたワシは宇宙船に戻る事にした。

 

「世話になったの。この恩は忘れんぞ」

「いいの。気をつけてね」

「ああ……地球侵攻の時はあんただけは助けてやるからの」

 ワシは小声でそう言ったわ。


「え、何か言った?」

「いや何でもない。と、そうじゃ。まだ名前を聞いていなかったの。ワシはダイマドじゃ」

「わたしはユカ」


――――――


「え!? そ、それ約三百年前のご先祖様で、初代女王様の名前!?」

 その名を聞いた優華は驚き叫んだ。

「おいおい、ご先祖様とは別人じゃないのか? だって優華は元は異世界の」


「いや、彼女と奥方は本当によく似ておる。こうして見ると気の流れもな。そうかそうか、異世界から来た者だったのか、彼女は」

 ダイマドは懐かしそうに優華を見つめ、笑みを浮かべていた。

「なあ、本当にそうなのか?」

 輝彦は首を傾げた。

「ああそうじゃ。しかしもう三百年も経っておったのか……思えば彼女と出会えたのもあったから、ワシは神力に近づけたのかものう」

 ダイマドはしみじみとそう言った。


「……でも何故ご先祖様はこの世界にいたのかしら?」

 優華は首を傾げた。

「おおそうじゃ。そういえばお仲間の家から帰る途中だとか言うとったのう」

「え、この世界にご先祖様の仲間が? わたしそんな話知らないけど」

「そうなのか? でもたしかに言うとったぞ」



「(もしかしてその仲間って……彦右衛門様ですか?)」

 輝彦は二人から少し離れ、心の中で自分の先祖に問いかけた。


 声は聞こえなかったが「そのとおりだ」と言っているように感じた。

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