番外編「石見一家の異世界奮戦記 終」
次の日、昼前から式典が行われた。
城の祭壇の前で伯父さんが祈りを捧げ、儀式が進んでいく。
その後城の中庭にあるバルコニーに伯父さんと伯母さん、イマさんと俺達家族が立つと、そこに集まっていた人達の大歓声に包まれた。
皆が一通り挨拶した後、伯父さんの口から父さんにこの国の大公爵位を授け、母さんがかつて返上した王位継承権を改めて与え、王家の分家を興したと語られるとまた大歓声が起こった。
そして、その次に発表された事を聞いて思わず叫んでしまった。
俺と道彦にも王位継承権を授けるって。
「兄さん、母さんに継承権が戻ったんだから当然だよ」
道彦があっけらかんと言う。
「いや、そうかもしれないけど俺は王様なんて」
「あのね、イマさんに何もない限り僕達にお鉢が回って来ないよ」
「あ、それもそうだな」
その後、マウとイヨさん、キュアにも形だけだが爵位が授けられた。
あとユウは養子だから王位継承権は無いが、分家の後継者候補で王族と同じ扱いとするって。
うん、よかった。
最後は万歳三唱で終わり、夕方からは城ではパーティーとなった。
何かダンスしたりとかお上品なのを想像してたが、普通のパーティーでお酒飲んだり各々歌ったり隠し芸したりって感じだった。
伯父さん曰く堅苦しいのは昼間だけで、夜は無礼講で宴会するのが昔からの伝統らしい。
正直その方がありがたいわ。
母さんは久しぶりに会った友達や親戚と話していた。
父さんは伯父さんや祖父ちゃんの話を聞かされ続け、ウンザリしてるようだった。
道彦とイヨさんは時々同年代の男性や女性に声をかけられつつ、二人でこれからの事でも話しているようだった。
ユウも同年代の女の子達はおろか、年上の女性達に自分もしくは家族を救ってもらったと礼を言われ続けていた。
その横でキュアが膨れっ面になっているが。
俺とマウはバルコニーで星空を眺めていた。
「何か宇宙へ行ったのが夢みたいだな」
「うん。非常時じゃなければもっと宇宙を見たかったにゃあ」
「なあ、マウ」
「何だにゃ?」
「あの時言ってた『もう嫌だ』って、なんだよ?」
「……そういえば前世、千年前も言ってなかったにゃ。じゃあ」
そう言ってマウが話しだした。
あたしはね、女神になる前はただの猫だったんだにゃ。
生まれは古代エジプトの小さな国。
そこでお母さんと一緒にいたんだけど、ある日お母さんは病気になって死んじゃったにゃ。
ひとりぼっちになったあたしは、あちこちフラフラして食べ物を探したけど見つからず、弱って倒れてしまったんだにゃ。
ああ、あたしもお母さんのとこ行くのかにゃあ。
と思っていたら、助けてくれた人がいたにゃ。
あたしを抱きかかえて、家へ連れて帰ってくれて、ごはん食べさせてくれたにゃ。
その後もずっと世話してくれたおかげで、あたしは元気になったにゃ。
お礼にと思ってほっぺペロペロしたらすっごく喜んでくれたにゃ。
他の人達が話しているのを聞いて知ったけど、その人は王子様だったんだにゃ。
王子様はあたしを「バステト」と名付けて可愛がってくれたにゃ。
それからのあたしは王子様の飼い猫として暮らしていたにゃ。
そのうち「あたしが人間だったら、王子様のお嫁さんになれたのににゃあ」なんて思うようになったにゃ。
でもそれは無理だって分かってた。
だから一緒にいられるだけでも幸せだと思ってたにゃ。
あの日が来るまでは……
ある日、大国が攻めて来たんだにゃ。
王様や王子様、皆が戦ったけど、全員死んじゃったにゃ。
あたしも逃げ切れなくて、焼け落ちていくお城の中で……。
死んだ後、ここは天国なのかにゃと思っていたら最高神様があたしの前に現れて、王子様はまた現世に生まれ変わったんだと教えてくれたにゃ。
そして、あたしに女神になってくれないかと言われたんだにゃ。
皆の帰る場所を守って欲しい、あなたなら出来るって。
そんな事言われてもにゃあ、と思っていたら
女神になればいつかまた王子様と会えるって言われたにゃ。
それならと思って女神になって、何千年もの間病魔や悪霊、異星から来た敵と戦い続け、皆を守ってきたんだにゃ。
そして日本に来て……。
後は知ってのとおりだにゃ。
「そうだったんだ。なあ、その王子様には会えたのか?」
俺が尋ねると
「今目の前にいるにゃ」
マウは俺を指さしながら言った。
「え? そ、そうなのか?」
「そうだにゃ。あたしはあの時からずっと、政彦が」
そんな昔から、俺が覚えてなくても、ずっと……
そういえば前世でも、初めて会った気がしなかったな。
遠い昔の遠い国で会ってたような、そんな気がしていた。
うん。
俺はマウを思いっきり抱きしめてやった。
「にゃあ!?」
おお、慌ててる。
「言ったよな、堂々としろって」
「にゃ、にゃ」
「いっつも先にやられてたけど、今日は俺が先にしてやるわ!」
「にゃー♡」
って、結局俺が気を失うまで搾り取られた。
マウは力が戻ったからか、底なしだった。
それから数日後、家に帰った後の事だった。
剣道着に着替え、父さんや道彦と稽古しようと道場へ向かおうとした時
「……ここどこだ?」
いつの間にか見知らぬ場所にいた。
「ここは多くの異世界の中継地点だにゃあ」
チャイナドレスを着て妖怪の姿になっていたマウが言った。
「え、そんな場所にどうして?」
「誰かに呼ばれたみたいだけど、誰かまでは知らないにゃ。それより政彦、あれ」
「ん? あ」
やたら強そうな魔物の大軍がいた。
そして、それに向かっていく人達もいた。
何故か知らないが、あの人達が誰だか分かる。
そして何をすればいいのかが頭の中に浮かんでくる。
「さ、皆と力を合わせて、あいつらやっつけようにゃ!」
「ああ!」
俺とマウは魔物達を倒すべく走っていった。
その後の事は、別物語で。
終
妖怪猫女が侵略者退治して少年と(自主規制)しようとする物語 仁志隆生 @ryuseienbu
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