番外編「石見一家の異世界奮戦記 10」
次の日の朝、俺がフラフラになりながら食堂に行くと
「ねえ兄さん、声が僕達の部屋まで聞こえてたよ」
道彦がニヤニヤしながら言ってきた。
「そうかよ。で、それ聞きながらそっちもか? 二人共目が赤いが」
俺がそう言うと
「ううん。向こうの皆のその後や、僕達の世界の事を朝方まで話してたんだ」
「ええ。それにこいつ、そういう事は学校卒業してからにしたいって」
イヨさんが道彦を指さしながら言った。
「あ、そうだったんだ。ごめん」
道彦は今現在、夜間中学に行ってる。
俺達の高校に入ったらって言ったが、もっと基礎から学びたいって。
それでその後どうするかは、まだ考え中とか。
「いいって。それにイヨも一緒に行きたいって言うんだ」
「ええ。あたしも勉強したいなって思ったの」
「ああ、それなら話を通しておこう。戸籍も頼めばすぐに出来るだろうしな」
父さんがやって来てさらっと言ったが、それっていいのかよ。
「ありがとうございます。お義父さん」
「ああ。しかし娘が二人、いや三人も出来るとはなあ」
「え? あ」
父さんの目線の先では、ユウとキュアが仲良く話していた。
「ふふふ、ユウ君ったらやるわねえ」
「うん、微笑ましいね」
イヨさんと道彦が笑みを浮かべて言う。
「だがなあ、話している内容が」
何か薬の作り方らしいが、俺にはよく分からん。
ってユウはともかくキュアも頭いいみたいだな。
やっぱ竜神様の一族だからか?
「ユウ君、後で私ともお話してくれないかしら?」
イマさんがユウの側に来て声をかけた。
「うん、お姉ちゃん」
ユウがにっこり笑みを浮かべると
「ふふふ、可愛い子……ハアハア」
イマさんは何か涎を垂らしてって、まさか!?
「ねえ兄さん、殺る?」
道彦が剣を取りながら聞いてきた。
「ああ、せめて苦しまないようにしよう。仮にも従姉だし」
「やめたげなよ。いくらなんでも一線は超えないだろうし」
イヨさんがそう言うが、彼女はいつの間にかキュアを抱きしめて頬擦りしていた。
「ま、まあそっちはキュアが嫌がっとらんから、いいか」
「そうだね、ところであれ、どうする?」
「本当に何もしないならいいけど」
「ねえ、お話した後で一緒にお風呂入ろ、そしてアレを触らせ」
ゴン!
「な、何するの!? 酷いじゃないですか!」
イマさんが頭を擦りながら言うが
「やかましいわこの変態ショタコンがー!」
俺が怒鳴ると
「ショタコンの何が悪いのよ! 無理矢理じゃなければいいでしょー!」
開き直って怒鳴り返して来やがった!
「うう、やっぱりそうだったのね。部屋中美少年のヌード写真や男の娘フィギュアだらけで、本棚には十八禁で少年が受けの本ばかりだったものね……ううう」
伯母さんがオイオイ泣き出した。
って、あの時涙目だったのはそういう事か!
すると母さんが
「サエだって好きでしょうに、もう」
は?
「あのねえ! 私はBLが好きなだけでショタコンじゃないわよ!」
そうなんかい!?
「はい? ご先祖様の少年時代の肖像画でハアハアしてた変態が何を言うの」
「ふにふにほっぺでお可愛らしいとは思ったけど、やましい目で見てないわよ!」
「はいはい。とにかくイマちゃんはサエに似たのよ。それは認めなさい」
「ううう、おのれええ!」
伯母さんが叫びながら母さんに抱きついたかと思うと
「あ、あれ?」
次の瞬間には二人の姿が無かった。
「ああ~、おそらく無人の荒野にでもワープしたんだろうな。もう四十二歳だし、流石に見境無くあちこち破壊したりしないか」
伯父さんが何か呆れながら言った。
「そ、そうですか……え? あの、四十二歳って誰が?」
「ん? サエとユウカは同い年だから、二人共そうだが?」
そうなんかい。
母さんってもうそんな歳だったのかって
「昔は破壊しまくりだったんですか?」
「ああ。幼い頃からしょっちゅうな、ん?」
「え、あ」
見るとイマさんがユウを抱きかかえてどっか行こうとしていた。
「ってこら待」
「にゃあー!」
ドゴオッ!
「グフッ!?」
マウがその後ろから脳天踵落としを食らわせた。
「ってマウ、何処行ってたんだよ? 起きたら居なかったから、どうしたのかと思ったぞ」
「ちょっと散歩してたんだにゃ。ところでイマさん。ユウをどうする気だったにゃあ~?」
マウの顔は笑っていたが、目が笑ってなかった。
流石に義弟を拐かす奴は許さんか。
するとイマさんが
「私は男臭いのは嫌なの! 可愛い可愛い少年がいいの~!」
そう言って泣き出した。
「うーん。それならいい子紹介してあげるにゃ」
はい?
「え、義姉さん、それもしかしてあの人?」
「そうだにゃ」
あ、道彦も知ってる人なのか?
「えーと、彼はたしかに彼女募集中だけど、いいのかな?」
「彼って大人っぽい女性が好みみたいだし、見た目はショタだからイマさんも気にいるんじゃないかにゃ」
待て、見た目はって何じゃい?
「あ、あの、どんな子なのですか?」
イマさんがマウに尋ねる。
「写真あるにゃ。はい」
マウがどっからか出した写真を見せた。
すると
ブー!
「マ、マウさん! こ、この子紹介してください!」
イマさんは鼻血出しながらマウに詰め寄った。
「い、いいけど彼は別世界の住人だからすぐには連絡つかないにゃ。だからしばらく待ってほしいにゃ」
「ええ、待ちますとも!」
「なあ、この子とはどういう関係だよ?」
俺も写真を見せてもらった後、道彦に尋ねた。
「この人はね、異世界で一緒に戦った仲間の一人だよ」
「へえ……っておい、変態に仲間を売る気か!?」
「大丈夫。この人の実年齢はたしか五十歳以上だもん、問題ないよ」
「うえ!? す、すっげえ童顔だな! どう見たってユウより少し上くらいにしか見えないぞ!」
「いや、実はそれ仮の姿でね。本当はガラクタで作られたロボットなんだ」
「……まあ、お互い気に入ればいいか」
それから母さんと伯母さんが戻ってきた。
二人共何か晴れ晴れとした顔だった。
後で聞いたが、魔法は使わずどつき合いしてたそうだ、おい。
そして昼食後、俺達は伯父さんに連れられてとある場所に来ていた。
そこは一番奥に祭壇があり、その両側の壁には幾つもの肖像画(写真ぽいのもあるが)が飾られている部屋だった。
「ここには歴代の王や王妃、女王や王配が祀られているんだ」
伯父さんが説明してくれた。
「この人達が俺達のご先祖様」
「あ、あの人母さんそっくりだね」
道彦の目線の先、祭壇の真上には今の俺くらいの歳だろう女性の写真があった。
その隣にはやはり同じ歳くらいの男性の写真がある。
「ああ。あの方々がエレメント聖王国初代女王と初代王でね、飾られているのは建国された時の写真なんだ」
「へえ、あ」
ここって三百年後の世界だよな。
それなら俺達の時代がちょうど建国時じゃんか。
異世界だけど、上手く行けば会えるかもしれないな。
「もう会ってるんだけどにゃあ、政彦はあんまり顔見てなかったから気付いてないみたいだにゃ」
マウが何か呟いていたが、よく聞こえなかった。
そしてその後、俺達は祭壇の前でご先祖様達に向かって手を合わせた。
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